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DiverCity~愛が潜る街  作者: 真夜航洋


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第15話 性被害


 満生が眠りこけたタクシーの中で、神谷は顧客に電話をかけた。

―もうさあ、モデルだのアイドルだのじゃ、エレクトしないんだよね。

 顧客はIT会社の社長だ。そして悪趣味な性癖を持った中年男だった。

「ご安心ください、CEO。今回は自信作ですよ…ええ、私の家で…」


 満生が目を覚ましたのは、DiverCityの中にある秘密の個室だった。この個室はある目的のために作られ、ホテルの一室のようになっている。

 ベッドでうつ伏せに寝ている自分、全裸で両手両足を縛られている自分がいる。

 枕元には葉巻を吸っている神谷がいた。   

「…あ、勇樹君。う」

 悪寒が走り後ろを見ると、見知らぬ中年男が満生の背中から臀部を愛撫している。

状況が理解できなかった。中年男が嬌声を上げる。

「最高!最高だよ、神谷君。体は若い男の子、心は穢れを知らぬ女の子…こういう子を抱いてみたかったんだよ!」

 何を言っている?何だ、この醜い肥満体は?

「選りすぐりの希少品ですからね」

 肥満体が馬乗りになり、腰を動かし始める。

「きみ、神谷君に恋してるんだろ。どう?好きな男の前で、別の男に犯されるって」

「痛い!やめ…うがあ!ああ!」

 恐怖や痛みなど様々な感情が押し寄せ、涙を浮かべて絶叫する。

 神谷は葉巻を咥えたまま、片手間にスマホのムービーを回している。

「勇樹君、た、たすけ…」

「恋?はあ?キモ。ゲイだのレズだの、おまえらはただのバケモノなんだよ」

 そう言って葉巻の煙を満生の顔に噴きかける。

 神谷の胸には死神の笑顔があった。

 

 7月2日。満生は自宅の浴室で自殺した、という。

 第一発見者は母親の浪岡君江。浴槽に夥しい血。手首を切った満生が浮かんでいるのを見た。

 レジ袋を提げたまま立ち尽くした。

「み、満生?みっちゃん…わああ!」

 レジ袋を投げ出し、びしょ濡れになりながら満生を引き揚げたが、満生はぴくりとも動かなかったそうだ。  

「満生。満生。みつお~!」

重要参考人ということで、千春は会議室で君江から聴取した。

 みずからノートPCで記録する。。

「息子を驚かすつもりで訪ねたとです。でも、手首ば切っとったとですよ。勿論すぐ救急車ば呼びました。けど出血がひどうて、その日の夜に失血死しました」

「…ご遺体は、どうなさいました?」

「救急病院に夫から連絡させました。『ウチは総合病院だから、あとはこちらで処置させてほしい』言うてですね。遺体を熊本まで搬送して、夫が死亡診断書を書いて、荼毘にふしたとです。あの子は今も、浪岡家の墓で眠っとります」

 不自然な行動だ。

「…おかしいですね。なぜ、救急病院で死亡診断を受けなかったんですか?」

「…それは、夫が『院長の息子が変死したとなったら体裁が悪いけん』言うて…」

君江が顔を伏せて言い訳をする。

(ふう。まるで、練習でもしたみたいな供述ね)

PCに「至急。横浜市内の救急病院を調査」と書き込み、各所に送る。

「嘘やなかよ。こげんともあると」

 と、満生の遺書を取り出す。

「満生は…ホントに死んだとです」

 不思議とその言葉には説得力があった。

 半信半疑のまま、千春は遺書に目を通した。


 同時刻の第二取調室では、名倉が水野を取り調べていた。事務官がパソコンで筆記している。

「ずっと不思議に思ってたんだ。なぜ、DiverCityのマネージャーであるあんたが、強盗なんてやらされたのか?」

「…」

「トクリュウを抜けようとした。そのことがバレて、逃げられないような犯罪を強要された…そうだな?」

「グリムは、私にあるビデオを見せてきたんです。先日の写真の青年が、男達にレイプされている動画でした。そして『ミドリ君はどうする?』と聞いてきました。そんなのもう、言いなりになるしかないじゃないですか!ううっ、俺だって嫌で…」

 水野はその場で嗚咽し始めた。

「つまり、あんたも被害者だって言いたいのか?だがなあ、あんたに睡眠薬飲まされた女の子達は、もっとひどい恐怖を味わい続けてきたんだよ!」

 机をバンと叩く。

 水野の供述文もまた各所に送られ、捜査官全員が共有した。


 第一取調室では、翔子がメールで送られてくる各所の供述文に目を通す。他の供述が真代の証言を裏付けているように見える。

 詠みながらタイプする手が震えてくる。

(ロマンちゃんはやはり、性被害を苦にして自殺してしまったの?)

「右も左もわからない君江さんは、満生君の財布にあった名刺を見て、うちの会社に連絡をくれたんだ。そして、あの子が遺した遺書を見せてくれた。そこで初めて、あたしも事の重大さを知ったわけさ。で、私は昔の仲間にこの件を話した」

 そう言って、大宮組の集合写真を示す。

「昔私が可愛がってた塚原晋也が、今や相模会の幹部になってる、って知ってね」

 集合写真の真代の背後には、若き塚原の姿もあった。


 喫茶店に塚原を呼び出し、背中合わせで話をした。

「姐さんには恩もあるし、兄貴が殺られた時、何もできなかった負い目もある」

「晋也。それはもういいよ」

「だがそれより、俺たちも奴らを野放しにできねえと思ってたところだ。あとで神谷のヤサを教えてくれ」

「晋也。そんときがきたら連絡しておくれ。あたしらも同席する」

「あたしら?」

「クライアントの要望なんだ」

 こんな会話を交わした。と赤羽真代は供述した。


 塚原らヤクザ達と満生と真代は、閉店を待ってDiver Cityに忍び込んだ。

「小僧。任侠の礼儀を教えに来たぜ」

 神谷はすぐに事態を察し、逃げようとしたが首根っこを掴まれ引き倒される。

「てめえら、こんな真似してただで済むと思うなよ!」

 ヤクザ相手に半グレがスゴんで見せた。

「少し黙れよ。手元が狂うだろうが」   

 塚原がドスを神谷の小指に当てる。

 神谷が絶叫する。辺り一面に血が飛び散り、君江の顔にも少しかかったという。

「小僧。地獄はこれからだ。毎日少しずつ、おまえの身体を切り刻んでやる」

 神谷の顔が恐怖に歪む。

「満生。あんたの仇、とったけんね」

 そう言って自分は顔についた血を拭いたのだ、と君江は証言した。



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