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DiverCity~愛が潜る街  作者: 真夜航洋


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第13話 出頭 


[後日?後日とはいつですか?]

[さて。共産党本部に上申して、評議会を開いて、それから公安当局…]

[いつですか!]

[二か月、いや、三か月?]

[理由は?]

[彼らは自分たちを政治犯だと主張しており、我が中華人民共和国への亡命を希望している。党規によりこの案件は人民評議会にかけられ審判される]

 瑠璃が凍りつく。

(やられた。だからやつらは東南アジアではなく、この国を潜伏先に選んだんだ)

 3か月もあれば証拠はすべて隠滅されてしまう。いや、3か月という保証すらない。そのときの日中関係によっては、嫌がらせで引き渡しを拒否されることもあり得るのだ。

「なんだ?警部補。何を話しているんだ?通訳しろ」

 日本のお役人が気色ばむ。うるせえ。

 瑠璃が大脳をフル回転させる。

[仮に、仮にですが、当該被疑者が別件で現行犯逮捕された場合はどうなりますか?]

[…そりゃあまあ。彼らが政治犯を騙って通常犯罪を犯したのなら、評議会等は不要だろうね。いや。報告を上げることすらしないね]

 政治犯ではなく明らかな刑事犯罪者を亡命させようとしたら、国際問題になるからだ。

[多謝!]

 憤然と退出する瑠璃のあとから、慌てて北島と渡辺がついてくる。

「おい、警部補。いったい…」

「手続きに時間がかかるようです。二三日ホテルに待機してほしいそうです」

「お。やったあ。上海のナイトクラブでも行ってみるか」

 北島が本気で喜んでいる。のんきなものだ。このお荷物たちは、やはりホテルに置いていこう。

 まだ、勝算はある。

(ゴキブリどもを、巣から炙り出してやる!)


「わかった。ありがとう。引き続き鑑定を進めて」

 刑事課長室で千春は複雑な表情になる。例の焼死体のDNA鑑定結果が出たのだ。

(まさか、神谷の遺体だったとはね)

 神谷の親族から髪の毛を提供してもらった。90%以上の確率で、その親族のDNAを受け継いだ者の遺体らしい。

 当初遺体は浪岡満生のものと思われたが、護城翔子が異議を唱えた。

 身長が伸びている。不自然だ。むしろ神谷の遺体である可能性があるのではないか、と。

 こうなると満生の学生証に付着していた指紋も、神谷のものということになる。

(考えられるのは、偽装)

 初動捜査の段階で、赤羽なり浪岡君江なりが偽装工作をしたのかもしれない。

(だとしたら、その目的は一体何なのか?)

 2人を任意で取り調べる必要がありそうだ。


 横浜南署の「グリム事件対策本部」では、今日も電話が鳴り響き、刑事達が慌しく動き回っている。

 喧騒をよそに翔子は「週刊リアル」の記事を眺めていた。「半グレと医学生、危険なBL?」という見出しがついた記事だ。

(半グレKとエリート医学生Nの、痴情の果てに起きた強盗傷害事件…一体誰がリークしたんだろ?手口まで載ってるってことは、実行犯側の弁護士?)

 TⅤのワイドショーを見ても、「グリム事件の陰にBL?」等のテロップが付いたコーナーが流れている。

(特殊詐欺も視聴者に飽きられてきたから、今度はBLっていうトッピングを付けたか。味変ってわけね)

 適当にチャンネルを変えてみるがどこも同じ事件を扱っていて、行きつく先は教育チャンネルだった。


―顔は整形で変えられるけど、声は無理。そんな先入観は科学技術で塗り替えられました。現在ではⅤFS手術という術式で、発声障害のある女性患者でも、自分の望むタイプの声を手に入れることができます…。

 手術前後の発声を比較する映像が流れる。喉にメスを入れるⅤFS手術という施術らしい。

(すげ。完全に別人の声じゃん)

 教育チャンネルなら学術的ということで許されるのか、生々しい映像が続く。

「わ。えぐ…」

 思わず口にしたところで、背後から呼びかけられた。

「おい。アイドル!」

「あ、はい」

 しまった。肯定してしまった。だが、マル暴の幸田班長はお構いなしに聞いてくる。

「お前の報告書に『赤羽真代』の名前が出てくるが、名刺あるか?」

 財布から真代の名刺を取り出して見せた。

「これです。赤羽さんが何か?」

 幸田は名刺を手に取り、じっと睨みつけている。

「赤羽が便利屋?なんの冗談だ?」

「あの。幸田さん?」

 幸田が手にした写真を翔子に見せてきた。古い集合写真だった。

「こいつは相模会の前身・大宮組の襲名披露の時の写真だ。これが当時の組長・大宮健蔵。隣にいるのが内縁の妻だ。お前が会ったのは、この女か?」

 大宮組長の隣には、若き真代らしい女性の姿があった。

「あ、面影があります。え?赤羽さんが組長の元…姐さん?どういうことです?」

「こっちが聞きたいよ。だが赤羽が絡んでるとなると、事件の全体像が変わるかもしれん。関係者を一から洗い直し…」


「ここかい?グリム事件の捜査本部は」

 噂をすれば、などということが現実に起きるのか。幸田と翔子が振り返ると、真代の姿があったのだ。

「あ、赤羽さん?」

 威風堂々。オンナ社長が刑事達の間を縫って歩いてくる。

 静まり返った室内に、TⅤの音声が鳴り響く。

ーこのグリム事件のかけ子役とグループ幹部は、きょう午後には日本へ移送される予定となっています。

 アナウンスに反応するかのように、真代が言う。

「グリムの正体を教えに来たよ」   

 翔子の前で立ち止まる。

「姪っ子に優しくしてくれたお礼にね」

「私に、ですか?」

「ん?」

 真代が、幸田の手から写真を奪い取る。

「へえ、懐かしい写真だね。あんた、マル暴かい?」

「お会いできて光栄だね。伝説の姐御」

「じゃあ、マル暴にも教えてやろう」

 そう言って。写真で幸田の胸をはたく。

「君江さん。あんたも、こっちおいで」

 対策本部の入口付近で、おどおどしながら浪岡君江が立っている。

(関係者を…一から洗い直し?)

 さっき幸田が言った言葉だ。


 二日前に遡る。上海・南京東路の某所。ここは超高層ビル街と対照的なスラム街が混在する街だ。

 瑠璃はスラム街側にあるとあるプレハブ小屋に張り付いていた。

(張大人が調べてくれたやつらのアジトは、ここのはずだが)

 スマホで衛星マップを確認する。

 プレハブの中を覗くと、日本人らしきかけ子たちがPCや電話でスパムをばら撒いているのがわかる。

 案の定、拳銃を手にした見張り役の男もいる。グリム・グループの幹部の一人だろう。

(お誂え向きだな。この国で外国人が拳銃なんか持っていたらどうなるか、あの阿呆にじっくり教えてやる)

 辺りを見回すと中国名物のやつらを発見した。

 肩に小銃を提げたふたりの公安警察官である。

 治安の悪いこの場所なら、パトロールしていて当然だ。

 コンパクトを取り出し、赤黒いアイシャドウを目の周りに塗る。

(またしても不本意だが…)

 意を決して、瑠璃は自分のブラウスを破く。

 スラックスも脱いで下着を露にした。

「あ、いいやああ!」

 瑠璃は半裸状態で叫びながら、公安警察官の前に飛び出して行った。



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