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自分はアスミと一緒になっていれば、殺されもしなかったのだろうかと川久保槙人は考える。宗教団体を設立することも、人を騙して金を奪うことも、勃起不全になることもなかったのだろうか。

自分が彼女から離れたのは、彼女を幸せにすることはできないと身を持ってわかってしまったからだった。

彼女を匿って暮らしていれば、アスミは、不健康にならざるを得ない。普通の人間の喜びを得ることもできず、川久保の愛だけを一身に浴びるように生き続けることが彼女にとっていいようにはとても思えなかった。加えて、川久保は自身の嫉妬心が度外れな猟奇的なところまで高まったことがある。一度恋愛感情を抱いた女性と付き合ったことがあったが、悲惨な形で終わった。女性が男性と話すだけで、色目を使っているように認識してしまい、暴力的な行為で制裁行動を加えたのだ。彼はその女性に自分と同一化することを望んだ。自分の見たように感じ、それ以外は拒否する態度は、周囲にとって排他的に見えた。その女性は彼を気味悪がって去っていった。きっとアスミならば、それに耐えてくれるだろうと思っていたが、彼女にとってそれはストレスにならざるを得ないだろうとも思った。

アスミがいない世界を8年間過ごしてきたが、今すぐ死んでも何も後悔することがないほど積み上がらないものだった。人にウソを付くのは全くと言って抵抗がなく、だまされる相手がバカなんだと本気で今も思っている。良心なんてなく、その見せかけだけの演技だけがうまくなっていった。人は彼を心がないと非難したが、その通りだった。彼は相手を人としてみないばかりか、人間扱いすることもしなかった。ただ、アスミだけは違った。彼にとって彼女は唯一の存在であり、彼女に嘘をついてしまったことは激しく後悔していた。彼女との一夜は心から思ったことを言い、反応した。その確かな感覚をほかの人間と関わって確かめようとするが、いつも失敗してしまうのだった。

彼女から離れたせいなのか、次第に陰茎が機能しなくなっていた。性の欲望も枯れ果て、川久保には生きている実感がなくなってきた。通常の刺激では満足できないほど肥大した欲求は、日に日に膨らみ続け、彼に病的な雰囲気をまとわせた。潔癖症と焦りが彼の性格となり、酷くそのことに煩わされる日々を送るようになった。


彼女と関わられば、戻られるのだろうかと思って近寄ろうとしたこともあるが、約束を破った自分をアスミは、許さないだろうとも思っていた。

八方塞がりの中、見つけたのは宗教活動だった。

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