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アスミと8年前に学生時代以来あったのは、20歳の時だった。まだまだ若く、世の中のことがよく分かっていない頃。遊び盛りの夏の頃だった。
川久保槙人は、待ち合わせ場所のコンビニで連城アスミを待っていた。
「お待たせ」
彼女はタイトな白のワンポイントのTシャツにジーンズというラフな格好だった。女らしさを出していないにも関わらず、その長い手足と、細い首筋にしなやかさがあり、色気を感じる。高校時代から一緒にいて思っていたが彼女には男性の心をつかむ美しさを持っていた。栗色に染め上げた髪色とセミロングにした髪型がとても似合っていた。彼女は専門学生として今は通っているらしいが、詳しいことは聞かなかった。
鼓動が速くなる。精一杯の虚勢を張ってなんにも感じていないふりをした。
「ひさしぶり。学生の時以来だね。準備できてる?」
余裕のある態度を全面的にアピールした。我ながら、子供っぽいと思うがそうでもしないと、今にも崩れ落ちてしまいそうだった。
「本当にするの?」
不安げな声音でアスミは確かめる。彼女と待ち合わせをしてこれから行くところはホテルのスイートルームだ。そこで、男性3人、女性1人の4Pセックスをしようということになり、彼女を誘った。他の二人の男は槙人の知人で彼らは前からの友人だった。彼らは、アスミのことを話すととても喜んでぜひ参加してほしいと話してきた。
アスミはとても不安げな表情をしていたが、槙人が行くならと参加することにしたらしい。そこには少しの希望が含まれているようだった。アスミはその熱のこもった視線を槙人に向けながら、彼の意図を考えた。
槙人はその場所で彼女と性行為をして、親友という垣根を越えた関係になりたいのではないかと。槙人ははっきりとは言わないが、このイベントを使って、彼女と恋愛関係になろうとしているのではないかと、アスミは思ってしまった。
「するよ。いい経験になると思うな」
槙人が、彼女をこういうイベントに呼んだのは、彼女が自分の犯されている場面を見たときにどのような反応をするのか、見たかったからにほかはない。友達以上の存在が、男性とセックスをして獣のような格好をしているときに彼女は何を感じるか見てみたかった。
彼にとって複数人でするセックスは、ストレス発散にほかならない。2人だけのセックスは感情的になれず、体も冷めていて、淡泊な性処理に終止するが、複数人のセックスは見られるものと見るものの関係が出来上がって興奮することができた。それも何人もの男たちが自分に群がって犯そうとしているだけで、頭がクラクラとおかしくなりそうだった。
「嫌ならやらなくていいんでしょう」
アスミにはセックスに参加したくなかったら、見ているだけでいいとも言っていた。親友に見られながら犯される…、これを味わうことができるだけで至高の経験だと言えるだろう。
「見ているだけでいいよ、でも最後までだ」
ホテルへ向かう道中、アスミは槙人に体を寄せ腕を組んできた。悪い気はしなかったが、彼女がこうやって槙人に触れようとしてくることは滅多になかった。
しっとりとした肌が、自分の肌にへばりつく。その感触の柔らかさを感じながら、この先の極楽への道を壊さないように細心の注意をした。
〜
「あっ、あぁあ…」
なんとも言えない苦悶の甘い声を出したのは、キングサイズのベットで長身の男に後ろをとられた槙人だった。アスミの体がぎゅうっと引き締まる。ムズムズと、足をすり合わせ、秘部が熱くなるのを感じる。
恍惚とした表情をした槙人は後ろの男を振り返るが、無理くり前の長髪の男に顔をくいと前に向けられ、その口に男の陰茎が強引に入ったのを見た。
おぞましい光景だった。暴力的で、まるで凌辱されているような姿に、アスミは声を出してやめさせようとするが、槙人が望んでいないことなので躊躇する。
(こんなのおかしいわ)
足が震える。今にもこの状況を止めたい気持ちがあった。
「槙人、きもちいい?」
長身の男が、あらわになった槙人の尻を思いきり叩いて囁いた。ぐちゅぐちゅとかき混ぜるような音がその穴の中から溢れ出す。
切なげな表情を浮かべている槙人は、動物のような唸り声をあげて返答していた。その姿がアスミの知っている槙人ではないことにアスミはショックを覚えていた。彼は私が知らないうちに、知らない世界でこんなことをしていたのかと。予想をはるかに超えた姿に言葉が出なくなる。
「もっと咥えて。深く。そう、あぁ、いいよ」
長髪の男が柔らかな槙人の髪に触れ、弄ぶ。槙人の口の周りからきらきらと蛍光灯の光に当たったよだれがあふれ、それを彼はじゅるっと啜っていた。水音をたてながら、槙人の顔が上下に揺れる。苦しげなうめき声をあげながら、槙人はアスミに目を走らせる。膝を合わせながら座っている彼女は手に口を当てて、今にも泣きそうな顔で自分を見つめていた。それを見た瞬間、彼は言いしれぬ快感を覚えた。ふわふわとした心地になり、何もかもがどうでもよくなる瞬間だった。アスミが悲しげに自分を見つめているだけで、彼女の心の中が見えるようだった。彼は彼女に温かみを感じた。彼女だけだった。彼女だけが自分を見出すことのできる存在だ。
槙人は思いきり、長髪の男の陰茎を口に含み奥深くまで咥えてはその裏側を舌の先でチロチロと刺激した。
長髪の男がたまらなそうな喘ぎ声を出す。長髪の男は槙人がアスミを見つめているのに気づき、彼女に声をかけた。
「君もどう?槙人が君のこと気になってるみたいだけど」
ぎょっとしたアスミは体をビクッと震わせて、槙人を見つめる。ここで自分が参加すれば、きっと槙人の負担は減るだろう。槙人ともひょっとしたらそういう行為ができる可能性があるかもしれない。だが、知らない相手に自分を触られ、最終的に性行為をするのは嫌だった。好きな人とだけしたい。
「私はいいです」
そう言うと、再び目の前の惨状が続いた。
(やっぱりな)
槙人は自分の唇がニヤニヤするのを止められなかった。アスミの目的は自分と性行為することだ。それも他の男達とすることなく、自分とだけその機会があればできたらいいと思っている。彼女は自分としたいのだ。それだけで甘美な気分になれる。アスミと目が合う。どうしてという疑問が張り付いた表情で、自分を見つめていた。彼女には分からないだろう。彼女が自分への気持ちを強めれば強めるほど、槙人は男たちに快楽を与え続けられるということを。快楽は何倍にもなって浸透していく。
「女の子に見られて、さっきからひくひくしてるよ」
長髪の男が槙人の口から陰茎を戻し、槙人に無茶振りつくような口づけをする。ぴちゃぴちゃと水音がなり、唇を重ねるたびに蜜のような唾液が絡み合う。
槙人の背後にいる長身の男は、ゆっくりと腰を出し入れして、荒い息を吐き出している。空いた右手で槙人の乳首を探り、先端をさわさわと触れるか触れないかの羽のように触れる。
「槙人、俺あの子とやりたいんだけどいい?
あの子の中に出したいんだ」
長身の男が、槙人の耳元で顔を寄せ囁いた。槙人はギリッと睨んで長髪の男の口から離れると、「だめだ」と強い語気で喋った。
「悪かったよ、冗談」
長身の男はヘラヘラと笑って謝った。アスミを助けたという気持ちがさらに槙人気分を高めてくれる。
「あぁ、いきそうっ」
長身の男がつぶやき、動きが激しくなる。槙人は尻を高く上げ、猫が伸びをするような体勢になると、身体と身体が張り付く音がリズミカルに鳴り響いた。
快楽のうめき声が自然と出てしまう。中で男根が肉壁をかき分けて擦れるところを想像しながら、ジリジリと熱くなる全身の神経を集中させる。
長身の男が槙人を四つんばいにさせ、その下から体をくぐらすと、彼のそそりたった男根を舐め回した。
「あっあぁ」
槙人がやった時のように、男は彼の裏筋をじっくりと下から上に舐めあげて先端をちゅくちゅくと執拗に舐めてくる。その快感に頭がぼんやりとなってくるが、かすんだ視界のままされるがままに犯される。
シックスナインの体制になると、槙人は屹立する長髪の男の陰茎を口に含み、片手で上下に刺激しながら動かす。
「あぁ、いいよ。口の中が熱くて気持ちいい」
長髪の男がうっとりするように囁く。長身の男が、声を高く上げたかと思うと、体を小刻みに震わせる。一気に動きを止めその陰茎に手を添え、しばらく放心した。呼吸を整えている。
「あー、いっちゃった」
長身の男は陰茎を引き抜くと、体を大の字にしてベットに横になった。空いた穴をすぐに長髪の男がするりと順番を待っていたかのように占領する。
「こういうのやってみたかったんだよねえ」
アスミの前まで槙人を連れて行く。アスミは驚いて、後ずさりした。男たちの日頃直視できないものが目の前に顕になる。槙人も動揺して顔を真っ赤にした。目の前にアスミの顔があると思うと、一気に恥ずかしくなった。長髪の男は仰向けになるとその上に槙人が陰茎を後ろから入れるようにいい、彼はそれに従って、ゆっくりと自分の中に収めた。
「女の子に見られながらなんて最高じゃないか」
M字開脚になった槙人は、上下にリズミカルに動いた。
女のようなか弱い声を出し、屹立した陰茎をアスミが見つめているのを想像してしまう。
肌と肌が跳ね合う音が部屋に響き、アスミは目の前で淫乱になる槙人を直視できないでいた。
見てはいけないもののような気がしたのだ。あまりにも露骨で、悪趣味なものをみている心地になる。
(もうやめて…)
アスミの目に涙が浮かぶ。こんな物が見たかったのではない。どうして槙人はこんな思いまでして、ここに自分を呼んだのかまるで分からなかった。アスミは槙人と肌を重ね合えると思っていた自分を恥じた。
「あぁ、槙人、いきそうだ」
長髪の男が槙人の腰に手を回しながら言う。槙人は動きを速めて奥深くまで沈み込む。
「あぁっ」
長髪の男が上で動く彼をぎっちりとつかんで、沈み込ませると体を痙攣させながら、果てた。
槙人はおぼつかない足でその場に横たわる。3人は息を荒げながら、それぞれ呼吸していた、