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その日、八木橋は、マッチングアプリで知りあった若い女性と乱れあった。きつく締め付けてくる膣が堪らなく気持ちいい。引き締まった太ももと尻が鍛え上げられたサラブレッドのように上下する。

女性は、快感のよがり声を上げながら八木橋の身体にすがりすぎ、快楽の余韻に浸っていた。


女性の名は知らなかった。一万渡せばやるということで、交渉が成立した。精が出るところまではいけなかったため、女性が横たわっている間に男根を素早く上下させ、射精する。女は明らかに会社勤めの女で、危険な仕事はしていない様な雰囲気だった。危険な行為と言ったらこの行為だが、そんなに珍しくもないためバレることもないだろう。女はスタスタとスタイルのいい身体を揺すりながら、シャワーへ向かった。



スマホを確認する。連絡は誰からも来ていない。

川久保にはすぐに始末するように言われたが、まだ当日なため遊んでいた。

女性と刺激的な関係になることは楽しい。自分の容姿がプラスになるとは思わなかった。たいていの女性は八木橋を見ると、軟派な男だと思って警戒心をだすか、見た目のよさにうっとりするかの2択だった。今回の女性は会った当初は、キラリと輝く瞳で出会いを喜んでいたが、だんだんと希望がなくなっていくように淡々としたものになっていた。よがり声はあげているが、どこか冷たさの残るものを感じた。それを敏感に感じたせいか、八木橋は射精することができなかった。今回のようなハズレも無きにしもあらずで、成功するほうが稀だ。人間はどこかに後ろめたいことがあると、行動に抑制がかかるのかもしれないなと思った。


ホテルをあとにして、家路につく。

八木橋は、みなそこ区の一等地にマンションを持っていた。もちろん完済している。部屋はモデルルームのまんまの家具で、彼は寝るときしかここにいることがないためほとんど汚れていなかった。

ゴミ箱の近くにいるとツーンとした刺激臭がしたので、片付ける。コンビニから買ったサンドイッチとカフェオレで夕飯を終えた。


新しい仕事が入ったため、パソコンで目的の人物の情報をまとめる。

野崎義雄、52歳。体形は小柄で、目が小さく、髪は薄い。住所はみなそこ区の◯の◯。公園の近くか…。

何日か生活パターンを監視して、どういう行動をする人間なのかを確認する必要がある。仕事をしているのか。何人ぐらしなのか。1人になる時間は多いのか。人通りの少ない場所を通る機会がある人間なのか。そういったことを精査する。

明日から仕事だと思うと少し気分が高揚した。久しぶりの仕事だ。今度も綺麗に処理できるかどうか。


次の日、朝から晴れの天気で6月にしては暑くなる1日だと天気予報が告げる。八木橋はテレビを見ながら、コーヒーを飲み、6時から彼を尾行するために外出した。


出勤時間は予想していた通り、7時過ぎで野崎の家が見える公園でたばこを吸っていたらでてきた。職場に出勤するのだろう。どことなく、暗い雰囲気を纏った男だと思った。悲しげで、猫背気味になりながら歩いている。とぼとぼと歩く姿はみじめに見えた。歩いて駅まで行くと、電車に乗り、二駅先の場所に職場があった。ずっと張り込みをしているとだらだらと汗が出てきてしまう。途中に寄ったコンビニで水物を買うと18時まで張り込みをした。うだるような暑さで嫌になるくらいだったが、なんとか野崎は職場にいる間外出することなく、18時になって退社した。

野崎は妻がいるため、スーパーなどには立ち寄らず、そのまま帰っていった。

この1日のスケジュールが変則的でないものならば、殺人を決行するのは帰る時しかないだろう。暗く夜道も人が通りずらい場所が一箇所あった。八木橋はそれを地図アプリに印を入れる。

次の日も張り込みをし、同じパターンの行動だったので嬉しくなる。3日目で簡単に仕事を終えることができるかもしれない。そう思ってると、スマホが振動する。尻ポケットからとり出してみてみると、川久保だった。


「はい、八木橋。なんかありました?」


「仕事は順調そうかい?気になって電話したんだ」


飛び跳ねるような軽快な声だった。心持ちこの前よりも元気そうだった。


「順調だよ。心配しなくても、ちゃんとやるから。

大船に乗った気分で待っててよ」


「それならいいんだ。何度も言うけど、早く頼むよ」


八木橋は言いづらかったが、疑問に思ったことを口にした。


「なんで殺されそうなくらいな事態になってるんだ?

なにか酷いことをしたのか」


ずっと思っていた疑問を聞いた。川久保は咳払いをしてから、ちっと舌打ちをしていった。


「野崎の娘が自殺したんだ。野崎には僕が彼女に発破をかけて追い込んだように思ってる。でも、僕は彼女の人生が良くなるだろうと思って、善意で様々なことをやった。それが彼女には負担だったんだ。だから言っただろう?最近の子は繊細だって」


「具体的にどんなことをやったんだい?」


弁解の余地があるかどうかは、その行動次第だ。


「彼女を見た目から変えさせてたんだ。着る服、髪型、体型、話し方、仕草を僕が付きっきりで見てあげて、こうした方が良いってアドバイスしただけだ」


「その言い方がきつかったり、精神的に追い込んでいたということはないのかい?」


川久保は大きく息を吸った。


「僕は精一杯やってたよ。きついことも言ったかもしれないけれど、それは彼女が幸せになるためにやったことだ」


「宗教家がそこまでやるかね」


「やっちゃいけないのかい?」


「あんたの仕事ははっきり言って、でたらめでしかない。でたらめで金を得てることとそういう独善的な善意が人を追い詰めるんじゃないのか」


「僕が殺されてもしょうがないっていうのか。言っておくけど、僕は依頼者だからね。君に指図されるいわれはないし、説教されることだって心底うんざりしてるよ。彼女が死のうが死んだ人間は戻ってこない。この世の中は、死んだものがちでは決してないからね。生き残った人間が偉いんだ」


恐ろしいほどの直球なひとりよがりな言葉に、八木橋は呆れる。ここまで、自分ばかりの男も珍しい。


「あんたがこんなトラブルを起こすようなら、今後も気をつけたほうがいいんじゃないかい?命が何個あっても足りなくなるんだから」


八木橋の助言を捨てるように川久保は電話を切った。



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