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紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
最終章 紅い運命
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第十七話 歌うは命、雷は裁き

 私はその場に崩れ落ちた。

 宙を掴んだ拳を床へと叩きつける。


「レッドウルフッ! 後ろっ!」


 アキの声に振り返ったが一瞬遅く、ガットに掴みかかられ私は床へ押し倒された。


「お前さえ居なければ……ケイドは……!」


 馬乗りになられて、首を両手で締め付けられる。


「う……ぐっ……」


 気道が締め付けられ、酸素が絶たれて苦しい。


「ケイドを殺したのはお前だ……紅き狼……」


 ああ。

 私はケイドを殺してしまった。

 私のせいだ。

 何もかも。

 私が悪い。


 ケイド……ごめん……。


 遠退く意識の中。

 頭上に何かが飛び上がった。

 馬の鳴き声が響き渡る。

 それは。

 ケイドを背に乗せて飛び上がる、ユニだった。

 それを見て隙が出来たガットの腹を蹴りあげ、自分から剥がす。

 ガットの手が首から離れると、私は酸素を求めて咳込みながら、ユニの方を見た。


「ケイドッ!」


 立ち上がり腕を伸ばす。

 ふわりと神殿バベルの最上階へ降り立ったユニは、ケイドを降ろしやすいように座ってくれた。

 ユニの背からケイドを抱え下ろすと、その華奢な身体を抱きしめる。

 気を失ってはいたが、ケイドは確かに息をしていた。


 ああ、生きていた。

 良かった。


 私は傍へきたユニの頭を撫でてやる。


「本当にありがとう……ユニ」


 程なくして腕の中のケイドが目を覚ました。


「ん……」

「ケイド……!」


 少し赤みがかった大きな瞳が、私の方を見る。


「……おはようございます、王子様……」


 私は冗談目かしてそう言って。

 泣きそうな顔になりながらも笑顔を作って、ケイドをギュッと抱き締めた。


「やっと……捕まえた」


 すると、ケイドは力なく笑って。


「捕まっちゃった」


 私の身体を抱き締め返してくれる。

 これで、追いかけっこはもうお終い。


「ええ、大丈夫よ。ちょっとケイドの事お願い出来る?」

「いいけど……」


 アキにケイドを預けると、私は足元にあるアレックスの指輪を拾う。

 慣れ親しんだ、赤色のアレックスの指輪。

 それを再び左手の人差し指に嵌めた。


「おかえり」


 指輪を指先で撫でると、私はガッティに支えられながら立ち上がるガットの方を見る。


「アレックスの指輪を着けて天に音を捧げると……“神”になれる。そう言ったな?」

「……それがどうした」

「なら、私が“神”になってやる」


 目を見開いて驚くガットを他所に、私は神殿バベルの屋上の中心部へと立つと、左手を空へ掲げた。

 魔力を指輪に集中させれば、何処からか調べが聞こえてくる。

 耳に直接流れ込んでくる音に合わせて、私は歌を歌った。

 アキをデイーゴの魅了の魔法から救ったあの時のように、歌声に魔法を乗せて。

 頭上に平がる雷雲が渦を描いて、雲の中心が雷を帯び始める。

 指輪が熱くなり、輝きを放ちだした。

 雷が私に向かって、今にも落ちて来そうになる。

 その時だった。


「──させるか!」


 ガットは私に体当たりすると、左手の人差し指からアレックスの指輪を抜き取る。

 それを空へ掲げ、歌を歌い始めた。

 色気のある艶やかな歌声が神殿バベルの最上階に響き渡り。

 雷がガットに目がけて落ちる。

 ガットの身体を包んだ稲妻は、そのまま空へと戻っていって。

 ガットを“神”へと昇華させた。

 その姿は消えて去り、宙に残されたアレックスの指輪が床へカランッと落ちる。

 これが“神”になる、と言う事なのか。

 暫く呆気に取られていた私だったが、我に返ると床に落ちたアレックスの指輪を拾いあげた。


 ──何故。

 どうして。

 私には分からない。

 何故ガットは私を押し退けてまで“神”になろうとしたのか。

 私を“神”にしたくなかったと考えれば、少しだけ納得はいく。

 同じケイドを愛した者同士と言う事もあってか、ガットは私を敵視しているようだった。

 会ったばかりの頃のハンクと同じだ。

 真意は……本人にしか分からないが。

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