第十六話 天へ堕つる者
私が手の平を開くと、床に四つのアレックスの指輪がゴトゴトと落ちる。
どうやら魔法は成功したらしい。
私は彼らからアレックスの指輪を盗みとったのだ。
所謂、窃盗と言う奴だろうか。
私はそのままアレックスの指輪を塔の下へ蹴り落とした。
四つ全てを落とす事は出来ず、赤色の“怒り”のアレックスの指輪だけが私の足元に残る。
「なんて事をっ……!!」
睨み付けて来るガットへ、私は不適な笑みで返した。
「これで、もう儀式は行えない」
「自分が……何をしたか分かっているのか……!? アレックスに“神”を捧げなければ、この世は終わるかも知れないと言うのに……!」
「知った事か」
この世の滅亡。
それはつまり、この世の終わりを意味する。
けれど、私はそれでも構わない。
だって。
ケイドとアキが居ない世界なんて。
私にとっては滅んでるのも同じだから。
あー。
なんかこの台詞、中二病とか言われそう。
激情したガットはアキを引き摺るようにして崩れた壁の方へ連れて行くと、腕を掴んだままその身を壁の外へ出す。
アキの身体が半分浮いた状態になった。
「アキッッ……!!」
「……っ……」
アキは崩れた壁に淵に引っ掛けた足と、ガットが掴む腕だけでなんとかその場に留まっているが。
ガットが手を離せば……。
「こうなれば……この者をここから落とすしかない」
「やめろガット!!!」
アキを喪ったら……私は……。
「お願い……やめて……」
懇願しても、ガットはそれを聞き入れず。
掴んでいたアキの腕を離した。
アキは完全に宙へと放り出される。
「アキッッッ!!!」
私は咄嗟に駆け出す。
アキの身体は完全に宙へ浮いた、まさにその時。
懐に入れていたユニのダイアモンドの角が眩く光る。
「──!?」
刹那、アキの着けていたペンダントがユニの角に共鳴するように輝きだした。
あれは……私がアキにプレゼントしたリングペンダント。
そのペンダントの飾りに使われている魔宝石は、ユニコーンのダイアモンドの角から出来ている。
同じユニコーンの角だから……引かれ合っているのか?
ペンダントと角が互いに強く光り合い、アキの身体がふわりと浮き上がった。
その身体がこちらへと引き寄せられ、私はアキを抱き留めると、ガットからアキを守るようにして距離を取っる。
程なくして角とペンダントは光を失った。
私はアキの身体を強く抱き締める。
「良かった……助かった……」
「守ってくれたんだね……レッドウルフが……」
そう言って笑ったアキは、私の身体を抱き返してくれた。
アキの身体を離すと、私はガットと向き直り強く睨む。
「ケイドとアキを、絶対に“神”にはさせない……!」
「……愚かな……」
ガットは苦虫を噛み潰したような顔をして、力無く床に膝をつき肩を落ちた。
落胆するガットのもとへ、ケイドがやって来てその背に手を置く。
「シュウ……落ち込む必要はない。“神”になる方法なら……まだある」
ケイドの言葉にハッとしてガットは顔を上げた。
ケイドはゆっくりとした歩速で私達の傍らを通り過ぎる。
「駄目だ……やめろっ! ケイド!!」
ガットの言葉に耳を傾ける事もなく、ケイドは先程アキが落とされかけた崩れた壁の淵に立った。
「ケイド……?」
振り返って私達の方へ身体を向けると、ケイドは両腕を広げる。
「神殿バベルから身を投げた者は……“神”となりアレックスのいる天へ召される」
彼は目を瞑ると。
背中から倒れるように、屋上から身を投げた。
「ケイドォオッ!!」
私は慌てて手を伸ばす。
けれど間に合わず、手の平は宙を掴んだ。
見下ろすと、重力に従って地面へ向かうケイドの姿が少しずつ小さくなっていく。
「ケイドっ……そんな、どうしてッ……!」




