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紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
最終章 紅い運命
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第十四話 黒き天馬

 もしかしたら彼は、天から使わされた本物の父だったのかもしれない。


「キデさん……お父……さん」


 腕に残る温もりを、私は強く抱き締めた。

 確かにその温かさは、私の心に触れて。

 私の心を満たしてくれたから。


「ありがとう……」


 これでやっと、戦えるよ。

 涙を手で拭うと、私は再び神殿バベルを見上げた。


「それにしても……どうやって登ろう……」


 神殿の扉は既に開かれているが、中にあるエレベーターは四台とも使われていて、恐らくガット達が最上階を目指して乗っている筈だ。

 階段なんてあったとしても、いつ最上階まで辿り着けるか分からない。

 そもそも、アレックスの指輪が無ければ神殿バベルには登る事が許されないのだ。

 私をここまで連れてくるのなら神殿に登る方法も考えていて欲しいものだ、と内心で貴族派の連中に文句を垂れる。

 どうしたものかと考えていると、何処からか馬の蹄の音が聞こえてきた。


「……あれ、……ユニ?」


 馬車が去っていった方向から歩いてきたのは、私が親しくしている黒いユニコーンのユニだった。

 ユニは私のもとへ来ると、頭を擦り付けてくる。


「お前、無事だったのか。今まで何処ずっと精霊の森に居たのか?」


 その頭を撫でてやると、ユニは嬉しそうに鳴いた。


「元気そうで本当に良かった。じつは今困っていてな……神殿バベルに登りたいんだが手段が無いんだ……なんて、お前に話しても仕方がないか……」


 私が苦笑すると、突然ユニの身体が光を放つ。


「──何だッ!?」


 光に包まれたユニの背から黒い翼が生え、頭にあるダイアモンドの角が地面へと落ちた。


「ユニ……お前……ペガサスになれたのか……!?」


 この世界のユニコーンは、成獣になるとペガサスへと姿を変える。

 しかし、ユニは成獣になってもずっとユニコーンのままだった。

 もともと白い毛で生まれてくる筈が黒い毛で生まれてきた事もあって、ユニはペガサスに成長しないのかとずっと思っていた。

 それがまさか、今になって変化するとは思いもしなかった。


「ははっ……そうか。お前……良かったな……」


 その身体を撫でてやれば、ユニは嬉しそうに頭を擦り付けてくる。

 そして、地面に落ちたダイアモンドの角を銜えて、それを私の方へ差し出してきた。


「くれるのか?」


 ユニの眼差しが肯定しているように見えて、私は素直に手を伸ばし、角を受け取る。


「ありがとう」


 角を懐にしまい、背中から生えたユニの黒い翼を撫でてやった。


「ユニ、お前の翼を貸してくれないか?」


 私がそう訊くと、ユニは脚を畳む形で地面へ座って、背中に乗るように促してくる。

 首に手を回して背へ跨がればユニは立ち上がって、翼を羽ばたかせて一瞬で空高く飛翔した。


「行くぞ……神殿バベルの最上階へ」


 ユニは勢いよく空を駆け登る。

 私はユニから振り落とされないよう、鬣に必死にしがみついた。


「大丈夫か? ユニ」


 上昇するに従い、ユニの身体が熱くなり呼吸が荒くなっていくのが背中越しにも分かる。

 その身体は徐々に弱っていき、今にも倒れそうだ。

 ユニにとって初めてのフライトだ。

 そのうえ神殿バベルの頂上は雲の上にある。

 きっと飛ぶのに精一杯なのだろう。

 それでもユニは、私を最上階へ連れて行こうとしてくれていた。

 雲を抜けると最上階が見えてくる。


「後もう少しだ! ユニ! 頑張ってくれ!!」


 神殿バベルの天辺は天井がなく屋上のようになっていて、壁の一部は老朽化で崩れ去っていた。

 あともう少し。

 もうちょっとで塔の頂上、神殿バベルの最上階へたどり着く。

 しかし、ユニはもう限界だった。


「……すまない、ユニ……背を借りるぞ」


 私はユニの背に立つと、高くジャンプした。


「はああああああっ!!!」


 雄叫びをあげながら腕を一杯に伸ばし、壁が崩れている所に手をかける。

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