第三話 死を拒む者、生を求める者
私は膝から崩れ落ち、祈りを捧げるように祭壇の前に跪いた。
また……失敗した……。
また……甦らせられなかった……。
「彼は……亡くなる運命だったんだ……」
その声に振り返ると、私の後ろにはレキが立っていた。
その頬に一筋の涙が零れ落ちる。
近くでよくよく見てみると、本当に父に似ている気がした。
「彼の名は『ケーダ』──“神の文字”……“K”と“D”を持つ者。“神の文字”を持つ者は……亡くなる運命にあるんだ……」
「そんな運命って……」
確かに、ケイドにも父の名前にも“K”と“D”がある。
だから亡くなった?
“神の文字”……“K”と“D”……か。
「でもっ……ケイドは生き返った! なのに何故貴方の恋人は……ケーダは生き返らない!? 父も生き返らなかった……!!」
レキはケイドの事も私の父の事も知らないと分かっているのに、私は叫ばずにはいられなかった。
納得がいかなかったからだ。
まるで駄々を捏ねる子供ようだと自分で思った。
荒れる私とは反面、レキは冷静に淡々と話を続ける。
「生き返る事を拒絶したからだ」
「拒絶……? 生き返る事を……?」
「転生すればより強い力を得る。だがそれと同時に、それを利用しようとしてくる者も現れるだろう。ケーダは利用されたくなかったんだ」
なんだか妙に納得がいってしまった。
望まない力は望まない未来を生む。
それを利用されるとなれば尚更だ。
「君は何故……ケーダを甦らそうとしたんだ」
私が落ち着きをとり戻りた頃、レキは私へ向けて手を差し伸ばした。
その手を掴んで立ち上がると、伝わってくる暖かさに少しだけ安堵を覚える。
「……貴方は吸血鬼の国の貴族だとハデスから聞いた」
「ハデスの友人か?」
「ああ。ガット・シュキル・マリシアスと言う男の事について知りたい……公爵について何か知らないか?」
私の言葉に、レキは眉を顰めた。
「名前は聞いた事があるが……マリシアス公爵とは直接お会いした事がない」
「そうか……」
「ここ数年はこの砂漠の国に居て、吸血鬼の国へ帰っていないんだ……力になれなくて申し訳ない」
「いや……いいんだ……」
やはり、神殿バベルへ行くしかないと言う事か。
一人で教会から出ると、外に居たアキが私を見つけ駆け寄って来る。
「アッキー?」
「レッドウルフ……何処に行ってたの……」
「なに? 心配してくれたの?」
「なかなか帰ってこないから……心配した」
「ごめんね」
私はアキを抱き締めた。
「レッドウルフ?」
アキが死んだら……私は絶対に甦らそうとするだろう。
でも、もしアキが……生き返る事を拒絶したら……私はその時、どうすればいい?
「アッキー……」
「ん?」
「もし……もしもアッキーが死んだら……私は絶対にアッキーを生き返らせるから。絶対に拒絶しないでね……」
アキは私の背中を摩る。
「何の話? 俺は死なないよ」
私はアキの温もりを確かめるように……ただただ抱き締めた。
次の日、砂漠の国を出発した私達は、数ヵ月後に帝都の領域へと辿り着いた。




