第二話 サヨナラを告げた金髪の男
それは是非とも話を聞きたい所だが……身内に不幸があった者に対してずけずけと質問をする程、私も不謹慎ではない。
だがしかし、時間がないのも事実で。
私は口元に手を当て、何か良い策はないかと思考を巡らせた。
ふと、左手のアレックスの指輪が目に入る。
この指輪を使って甦らせれば……。
私はハデスに提案した。
「私も……葬式に参列して良いだろうか?」
「レッドウルフさんが?」
「ハデスは私達の恩人のようなものだ。その師匠の身内に不幸があったのだろう? 私も一緒に弔いたいんだ」
「そう言う事でしたら……分かりました」
こうして私とアキも、ハデスの師匠の家へと赴く事になった。
ハデスの師匠の家は砂漠の国の中でも、富裕層が住む住宅街にある豪邸だった。
広大な敷地の中には多くの使用人が働いていて、葬儀に参列しているのは殆どが吸血鬼のようだ。
私とアキは、ハデスに続いて葬儀を執り行っている教会の中へと入る。
「あの棺の横に立って居るのが俺の師匠、レキさんです」
私はハデスの目線の先を追って、祭壇に置かれた棺の隣に立つ男を見た。
喪服に身を包んだ小柄な男だが、その顔は何処か父に似ている気がした。
私達は棺の前で手を組み、祈りを捧げる。
その棺の中には、金色の髪の男性がが眠っていた。
『彼は君の師匠の……レキの兄弟か?』
小声で尋ねると、ハデスが同じように小声で教えてくれる。
『いえ、恋人です』
恋人……か。
『不躾で悪い……彼はどうして亡くなったんだ?』
『事故死だと聞きました。屋敷の窓から落ちていたそうです。背中に羽を模した物を背負って……』
『──!』
父が死んだ時……父は木と蔦とシーツで出来た羽のようなものを背負っていた。
ケイドも、同じような物を背負って窓から身を投げたとサクヤから聞いた。
似たような事が三度も続くものだろうか?
有り得ない。
これは……何か因果関係があるのだろうか?
葬儀を終えると、私はハデスとアキに化粧室に行くと言って離れ、静まり返った真っ暗な教会の中へ忍び込む。
棺の側へと歩いて行くと、蓋をズラして開けた。
金髪の男性へ左手を翳す。
アレックスの指輪に意識を集中させると、赤い魔宝石が輝きだして熱くなった。
目の前の景色が早送りされるように目まぐるしく変わる。
いや、私は男が亡くなる前に戻ろうとしているのだから、厳密には早戻しと言った方がいいのか。
光に包まれ、私は目蓋を閉じた。
再び目蓋を開くと、そこはモノクロな浜辺だった。
波の音が耳心地良い。
潮風が私の紅い髪を撫でる。
靡く髪を手で押さえると、誰か立っている事に気がついた。
モノクロでも分かる金色の髪が、風にユラユラと揺れている。
「貴方は……誰?」
声をかけると、その者はゆっくり振り返った。
それは、棺桶の中で眠っていた彼だった。
憂いを帯びた笑みが何処か哀しげだ。
「良かった……まだ居た……さぁ、私と一緒に帰ろう」
手を差し伸べたけど、彼は首を横に振る。
「どうして……?」
彼は、今にも泣きそうな顔で、それでも微笑んで。
「サヨナラってアイツに伝えて」
海の方へ歩き始めた。
寄せては返す波が、彼の足元を濡らしていく。
「っ……行かないで……!」
叫びながら、似てる、と思った。
父を甦らそうとした、あの時と。
父も……甦らなかった。
追いかけたくても足が動かなくて。
私は必死に手を伸ばした。
彼には甦ってもらわなくては困る。
でないと、ハデスの師匠から話が聞けない。
再び目の前の景色が早送りされるように変わり、光が私を包む。
「ダメよっ……どうしてっ……!」
光が止むと、私は真っ暗な教会へと戻されていた。




