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紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第四章 紅い出港
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第十二話 機械の歌声

「アッキー? どうかした?」

「ねぇレッドウルフ。あれ……見て」


 アキが指をさした先には大きな噴水がある。

 その噴水の前には、一人の少女が居た。

 絹のように滑らかな長い髪を靡かせて、女神のように微笑むその妖艶な少女は、その小さな唇から歌声を紡ぎだす。

 なんとも美しい歌声だった。

 そして、その顔には見覚えがある。


「あれは……イヴィア姫だわ」


 ──イヴィアは三番目に作られたアンドロイド。

 そして、このアンドロイドの国のお姫様だ。


「イヴィアってさっき話してた?」

「ええ、そう。こんな街中で堂々と歌を歌っているだなんて思わなかったけど……」


 イヴィアは歌い終えると、周りで拍手するアンドロイド達にカーテシーをした。

 そっと伏せた目を上げると、私達と目があって。


「まぁ、旅のお方?」


 嬉しそうに笑って、イヴィアは私達の前にやって来た。


「そのお耳は獣人の方ですね?」

「人狼……です」

「初めてお目にかかったのでびっくりしました。ああ、自己紹介が遅れてしまいましたね」

「知っている。イヴィア姫ですね」


 私の言葉に彼女はニコニコとする。


「あら、私の事をご存知なのですね。旅のお方はこの国にどういったご用件で来たんですか?」

「人探しをしていて……失礼ながら姫君にお尋ねしたい。こんな男を見た事は?」


 私はガットの肖像画をイヴィアに見せた。


「この方によく似た者ならば、城に居ますよ」

「……会う事は可能ですか?」

「ええ」

「なら頼む」


 イヴィアの案内に従って城へ向かった。

 アンドロイドの国の城は、とても立派だった。

 白銀に輝く、それはまさに白亜の城。

 場内へ入ると、イヴィアの後をついて長い廊下を歩いていく。


「姫君に少々お尋ねしたいのだが、宜しいですか?」

「イヴィアで大丈夫ですよ。なんですか?」

「アンドロイドはゼロから作られるのか?」

「どういう意味でしょう?」

「その……誰かモデルが居たりするのだろうか?」

「ええ。私達アンドロイドには、元となる方がいらっしゃいます」

「それは……生きた者か?」


 イヴィアは立ち止まり、振り返るとニコリと笑った。


「基本的には、生きておられます」


 その笑みは美しいのに、私は何故がゾワリとした感覚を覚える。


「その言い方だと……亡くなっている者からでも作る事が出来る……と言う事でしょうか?」

「ええ、可能ですわ」

「どうやって……」

「色々方法はありますが……遺品を使うのです。毛髪や骨などが残っていればベストですが……無い場合はその方の衣服など使っていた物でも構いません」

「アンドロイドは生き物の魂を宿らせて作っているのか?」

「魂ではありませんが……それに近いようなものを利用しております。遺品には想いや思い出が宿ると言いますでしょう? 魔鏡の作り方に少し似ているのですが、その遺品の想いを魔法で機械の身体に移すのです」


 イヴィアは胸元で手を組んで、祈るように目を伏せた。


「私のオリジナルである女性は、とても美しい歌声の持ち主でした。けれど戦争で亡くなってしまい……今はもう居りません。オリジナルの女性には二度と会えません……けれど私の中で生きている」

「アンドロイドを作ると言う事は……亡くなった者を甦られると言う事だと?」

「そう言う方もいらっしゃいます。現に、亡くなった方をアンドロイドにして欲しいと言う依頼が入る事があるのです」


 イヴィアは再び歩きだす。


「我々はそう言った依頼を『謁見制限』や『作られたアンドロイドは絶対アンドロイドの国の民にする』などの条件を付きでお受けする事があります。あくまで内密に、ですが」


 城の廊下を真っ直ぐ歩いて階段を上がるイヴィアを追いかけるように、階段を登った。


「……何故そんな内密な話を私達にした?」

「あら? アンドロイドの事を尋ねられたのは旅のお方ではありませんか。それに……貴方様はその技術をお求めなのでは?」


 イヴィアの視線に私の心臓が少し跳ねる。


 確かに、アンドロイドの技術があれば……父を甦らえらせる事が出来るかも知れない。

 そう思ってしまったからだ。

 しかし、違う。

 それは本物の父じゃない。

 誰かの手が介入した、作られた父だ。

 偽物の父だ。

 第一、父の遺品は誰かに持ち去られてしまって、残っているのは一着の上着と私の左手の人差し指に嵌めたアレックスの指輪だけである。


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