第十一話 機械の都へ
本当に、どうでもいい事だなんだが……。
ニシカランはケイドに対して何か思う事がないのだろうか?
今まで会ったケイドを知る者達は、一様にケイドを慕い崇拝しているようだったが。
このニシカランと言う男からはそういった感情が一切感じられない。
まぁもちろん、他者に対しての感情なんて千差万別だとは思う。
ケイドを見て美しいと思う者もいれば、自分が美しいと思う者や何とも思わない者も当然居る事は理解している。
それが悪い事とは思わないし、決して異常だとかも思わない。
思わないが……
「その目は節穴か?」
「え」
ついつい思った事を口にしてしまった。
だってまさか、この世にケイドの魅了に取り憑かれない者が居るなんてよもや思わなくて。
キョトンとするニシカランに対して私は咳払いをした。
「……いや、何でもない。ついでに聞かせて欲しいんだが、アンドロイドの国へはどうやって入れば良い?」
狼の国から近いため行き方は分かるが、通行手形のような物は必要なのかすら分からない。
「それやったら簡単やで」
「簡単?」
「ウチ今からアンドロイドの国に仕事で行くねん。アンタらも一緒に乗せていったるわ」
ニシカラン曰く、仕事としてであれば難しい審査は要らないらしい。
こうして私達は、ニシカランに連れられてアンドロイドの国に行く事になった。
ニシカランが引く荷馬車に揺られなが、ら街道を行く。
「ねぇ、レッドウルフ。アンドロイドの国ってどんなとこ?」
「建国されたばかりで私もまだ詳しくは知らないだけど……」
──アンドロイドの国。
それは機械工学や魔法学で発展した機械大国。
そして驚くべき事に全ての国民がアンドロイドだと言う。
数十年前、とある学者が人間に似せた機械人形──アンドロイドを作った。
最初に作られたアンドロイドは、聖書にも出てくる『人間』から名を取って『ウルガ』と名付けられた。
次に作られたのが『アベル』。
そして三人目に作られたのが『イヴィア』だった。
その学者は最後に双子のアンドロイド『ジェミニ』を作ると、その命を終えた。
しかし学者の死後、アンドロイド達は自らアンドロイドを作るようになり、その数を増やすと国を作った。
それが、アンドロイドの国だ。
学者の作ったその五体のアンドロイドは、国の王族として今も存在している。
ちなみにアンドロイド達は美しい歌声を持っている為、魔法も使えるとの事だ。
アンドロイドの国は他の国との貿易で資源を輸入していて、ニシカランのように他国からやってくる商人も多い。
その為アンドロイドの国への入国審査は甘く、出入りが比較的自由だ。
「アンドロイド達の国……かぁ。この世界にはそんな国が存在するんだね」
「そうね。でも、まだ建国して数十年しか経ってないから……国として認めてない国もあるらしいんだけど」
私は少し不思議な気持ちだった。
アンドロイドは人間でないのに、人間に似せて作られた機械で。
そんな彼らは、今や国家を作っている。
確かに私も人狼だから人間ではないのだが。
いつしかこの世は、アンドロイドに支配されるんじゃないだろうか?
そんなような話を題材にしたお話が、前世の世界であったような気がする。
そんな事ばかり考えていたら、アンドロイドの国に到着していた。
ニシカランと共に門をくぐり抜け城壁の中へ入ると、街の雰囲気がガラッと変わる。
「凄い……何これ……」
街中を走る大きな箱。
そして歩く人々。
その全てが人間によく似たアンドロイドだった。
街の中は賑わっていて、活気に満ちている。
「ここがアンドロイドの国……」
「本当に……凄いよね……」
アキと一緒に感嘆の声を漏らしていると、ニシカランが呆れたような目で私達を見てきた。
「アンタら、アンドロイドの国に来たん初めてなん? まあええわ。俺は仕事があるからこれで失礼させてもらうわ」
荷馬車を引きながら遠ざかるニシカランに、私達は礼を言って頭を下げる。
「さて、アッキー。これからどうしましょうか?」
「取り合えず探してみよう、ガットって人を」
「ええ、そうね」
私が歩き出すと、その後に続いてアキも歩きだしたが、ふと何かを見付けて立ち止まった。




