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紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第四章 紅い出港
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第八話 生きていてくれてありがとう

 転移魔法で人を召喚したのは重大な事件だが、男は生きている。

 それならば──


「このまま帰しても問題ないのでは?」

「え、ちょっとレッドウルフ……自分が何をいってるのかわかってるんですか? 彼女は犯罪者ですよ? ちゃんと法の裁きを受けないと……」


 ハデスは納得がいっていない様子だった。

 意外と頭硬いな。


「だが、カナエが転移魔法を使えたとするなら、今後の魔術学は飛躍的に進歩するかも知れない」

「だからと言って犯罪を見逃すなんて……」

「なら、こう言うのはどうだ? カナエの事情を国王に説明し、身柄は魔法省が引き取る。罪の償いとして、魔法省で魔法の研究に専念してもらう」

「そんな事……」

「出来るだろ? 魔法省所属、ハデス・ロンド・ジュアルケ様なら」


 私はハデスの正体を思い出していた。

 ハデスはこの狼の国にある魔法省の高位魔法使だ。


「……それは……そうですが……仕方ありませんね……」


 ハデスは溜め息を吐くと、渋々納得してくれたようだった。


「それにしても……転移魔法を使えるとはな」

「でももう転移魔法は使いません……あたしは最低な事をしたんだから。だから……これでお仕舞にしたい」


 俯いてそう呟くカナエのその目には、涙が浮かんでいる。


「……小屋に居た男の事なんだが……」


 私の言葉にカナエがピクッと反応した。


「生きている」


 カナエは顔を上げて私の顔を見る。


「……ほんと?」


 一瞬明るい顔をしたカナエだったが、直ぐにその表情が悔しそうに歪んだ。


「……死んでしまえば良かったのに……」

「──ッ、!!」


 私はカナエの余りの発言にカッとなって、その頬を叩きかける。

 振り上げたその手を掴んで止めたのは、アキだった。


「気持ちは分かるけど、落ち着いて、レッドウルフ」


 アキの顔を見て冷静さを取り戻した私は、カナエと向き直る。


「カナエ。もし君が『死んでしまえば良かったのに』と誰かに言われたら……どう思う?」

「…………傷付く……けど……、そう言われるだけの事を私はしたんだと思う」

「なら君の身内や大切な人だったらどうだ? 大切な人が『死んでしまえば良かったのに』と言われたら、どう思う?」

「それはっ……悲しい……酷いって思う……」

「今、カナエがした事はそう言う事だ」

「……ごめんなさい……」

「謝るのは私にじゃないだろ?」


 私はカナエの頭を優しく撫でた。


「君が召喚した男は今、ハデスの屋敷で治療を受けているところだ。どのみち君の身柄はハデスが連行する事になる。実際に会って、推しに謝るべきではないのか?」

「……はい」


 こうしてカナエを屋敷に連れて行き、召喚された男が寝ている部屋へ案内する。


「……本当に……生きてた……」


 男の寝顔を見たカナエの目から、ボロボロと涙が溢れ出した。


「自分からあんな酷い事をしたのに……生きていてくれる事が……こんなにも嬉しい……なんて……」


 眼から溢れる涙を手で拭うと、カナエはベッドで眠る男に向かって頭を深く下げる。


「ごめんなさい……本当にっ……ごめんなさいっ」


 カナエの足元には、雨粒が落ちてくるように、涙の染みがポツポツと出来ていた。


「彼が目が覚めるまで待つか? それくらいは許されると思うぞ」


 ハデスの方を見ると、もちろん、と言いたげに頷いたが、反面カナエは首を横に振る。


「もう行きます。私は……もう彼に会う資格はないですから……」


 私に頭を下げた彼女は、ハデスに連れられて男の部屋を去っていく。


 愛情が愛憎へと変わってしまったカナエ。

 それでも、彼が生きていた事に涙した。

 彼女の愛憎とは、最大の愛情なのかも知れない。


 二人が去った後、私達は客間に戻った。

 私は懐から、制御布に包まれた緑色のアレックスの指輪を取り出す。


「アッキー。手ぇ出して」

「手?」


 素直に手を差し出すアキが可愛い。

 と思いつつも、アキの手の平に緑色のアレックスの指輪を置いた。

 思っていた通り、私の時と違ってアキは指輪に拒絶されない。


「それはアッキーが持ってて」

「俺が?」

「うん」

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