第四話 眠る男と指輪が繋ぐ運命
「医者を呼んだ方がいい。ハデス、頼めるか?」
「分かりました」
医者を呼びに行ったハデスの背中をを見送ると、私はレイピアを鞘に収め、小屋の中を探る事にした。
室内には生活を送っていた痕跡が幾つかある。
ふと、地面に何か書かれていた。
「これは……魔法陣?」
紅いペンキで書かれた転移用の魔法陣。
近くには中身が空になった盆が転がっている。
これは水を張り、望んだ者のリアルタイムな映像を映す事の出来る魔道具だ。
そして、その魔法陣の中心には──
「アレックスの……指輪!?」
緑色の魔宝石のアレックスの指輪、と思われるリングが落ちている。
急いでそれを拾い上げとうと手を伸ばすと、指輪の魔宝石から緑色の電気がバチンッと爆ぜるように走り、私の手を拒絶した。
「……触るな、と言う事か」
仕方なく制御魔法をかけた布を挟んでその緑色のアレックスの指輪を持ち上げて、自分の左手にある赤いアレックスの指輪と見比べて見る。
二つは魔宝石の色以外は全て同じだった。
「どうして……こんな所に……」
これは、ハデスに色々と問いただす必要がありそうだ。
アレックスの指輪をその制御魔法の布に包み懐にしまう。
それにしても……もしこの転移魔方陣を書いたのがあの不審者だとしたら。
この小屋で張っていれば、いつかあの不審者と対面する事が出きるかも知れない。
そう考察していると、医者を連れてハデスが戻ってきて、早速小屋に住み着いている男の容態を診てもらった。
「栄養失調による衰弱死寸前の状態ですね」
医者の言葉に私は眉を顰めつつハデスに向き直る。
「この顔に見覚えは?」
「近所じゃ見ない顔です」
「そうか……取り敢えず、屋敷に運んで保護した方がいい。彼は不審者の正体をを知る人物かも知れない」
「そうですね」
「それと……暫くこの小屋で張り込みをしたいんだが……いいだろうか?」
「構いませんよ」
ハデスと力を合わせて小屋からその衰弱しきった男を連れ出すと、屋敷へと運び込んだ。
一旦客室に戻ると、アキが心配そうに駆け寄ってくる。
「レッドウルフ……どうだった?」
「不審者の事はまだ何も分かってないわ……その代わり、関係者らしき男は見つけたけど」
「そう……なんだ……」
「それで……本当にアッキーには悪いんだけど……私はもう少しこの屋敷に残る事になったから、アキはリノの別荘でゆっくりしていてくれる?」
「レッドウルフを置いては行けない」
「いや……でも……」
「俺も残るよ。一人になんかしないから」
そう言ってくれるアキに、思わず嬉しくなった。
今日のアッキーはなんだか頼もしくて、格好いいな。
「……そう。ありがとう。でも危険になったら直ぐ逃げるのよ」
「分かってる」
アキと一緒に行動する事に決めると、私達は衰弱している男が保護されている客室へ向かった。
ベッドに横たわる男の周りには医師と看護師が付きっきりで看病をしている。
ハデスもその場に居て、男の様子を心配そうに見守っていた。
「今は点滴をして様子を見ています。命に別条はないでしょう」
淡々と説明する医師にハデスが問いかける。
「この方の名前などは分かりませんか?」
この世界の住人はこういった意識の無い状態で救出された時の為に、個人的な情報を魔法で身体に記録している事がある。
各々記録している項目はバラバラだが、大抵は『名前』『性別』『年齢』『血液型』などが記録されており、その情報は医師の資格を持っている者であれば読み取る事が出来るのだ。
ハデスの問いに医師は少し難しい顔をした。
「身元を特定できる物は持っていないようですし、身体に情報も記録されていません」
成る程……となると、やはりあの小屋で不審者を直接待った方が早そうだ。
早速アキと小屋で張り込みを開始する前に、私は部屋を出たハデスを呼び止める。
「ハデス……小屋でこんな物を拾ったんだが?」
制御魔法の布に包んだ緑色のアレックスの指輪を見せると、ハデスは驚いた顔をした。
「これをどこで……!?」
「小屋に落ちていた」
「そうでしたか……」
「どう言う事なんだ? 何故あのような場所にアレックスの指輪が……?」
「お話は客室に一旦戻ってからにしましょう」
ハデスに促され客室へと移動すると、再びティータイムとなった。




