表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第四章 紅い出港
52/82

第三話 呪われし小屋の訪問者

「……本当か!?」

「差し上げるのは構いませんが……一つ条件が」


 ハデスは窓の外を人差し指で指し示す。

 私とアキは立ち上がり、黒いネイルが施されたその指の先を見ると。

 黒い薔薇が咲き乱れる庭を囲う塀の向こう側に、怪しげな人影が見えた。


「あれが条件です」


 ハデスは笑みを浮かべながら、私達の方を見る。


「家の近くに現れた不審者を調べてほしい……と?」


 私がハデスの意図を確認するように尋ねると、ハデスは満足そうに頷いた。


「ここ最近、屋敷の外に不審者が現れるようになりまして困っていまして。何者なのかを調べてくれるのなら、“楽しみ”のアレックスの指輪を差し上げますよ」


 その言葉には挑戦的な響きが含まれており、何らかの目的を持っている事は明らかだった。

 しかし、ここまできてアレックスの指輪を逃す訳にはいかない。


「分かった。その条件、呑み込もう」

「ではお願いしますね。ああ、あと。気をつけてくださいね? あの不審者はかなり危険なので」


 危険?

 だとするなら、アキを巻き込む訳にはいかない。


「アキ、ここで待っていてくれる?」

「え……でも……」

「大丈夫、これくらい一人でなんとか出来るわ。そんな事よりも、アキを危険な目に遭わせたくないの。それにこれは……私の問題だから……」


 アキは何か言いたげに私を見詰めたが、諦めたように溜息を吐き、そして頷いた。


「分かった。でも、無理だけはしないで」

「勿論よ」


 客間にアキを残すと、私はハデスと共に部屋を出て屋敷の外へと向かった。

 先程の不審者はまだそこに居る。

 黒いローブを羽織って、フードを目深に被っているので顔は分からない。


「誰ですか?」


 ハデスが木々の間からその声をかけると、その不審者は驚いた様子でその場から逃げていく。

 私はその後を追いかけたが、逃げ足が速く見失ってしまった。

 仕方なくハデスのもとへ戻ると、彼は木が鬱蒼と多い茂る所に建てられた木製の小屋を、少し遠くから眺めている。


「ハデス……あの小屋は?」

「俺がこの屋敷を買い取る前から建てられていた小屋です。先程の不審者は……どうやらこの小屋に度々通っているようで」

「通っている?」

「ええ。不審者は小屋の中にある何かを見に来ているらしいのです」


 小屋の様子を暫く窺っていると、ガサッと音がして。

 人気を何処か感じた。

 あの中には、一体何が?


「……小屋の中に何があるかは調べていないのか?」

「ええ。実はですね……この小屋……昔から曰く付きでして。近付く人間は不幸になるそうですよ」


 ハデスが肩を竦めると、私は怪訝そうに眉を顰めた。

 この世界には科学の概念は少ない為、怪異やオカルトも珍しくは無いけれど。

 曰く付き……か。


「俺だって調べようとしましたよ。でも……皆口を揃えて言うんです……『あの小屋は近付かない方が良い』って……」


 どうやらこの小屋の曰くは、この国の者にとっては常識で通っているらしい。


「なら私が調べよう」


 私はこの国の者ではないし、オカルトも曰くも信じていない。

 呪われた所でその時はその時だ。


「危険です」


 私が小屋に向かおうとすると、ハデスに呼び止められる。

 だが止まるつもりはない。


「条件を出してきたのはそっちだろ」

「俺が出したのは不審者の調査です」

「どっちにしても、あの小屋を調べてみない事には始まらない」

「なら俺も同行します」

「……勝手にすればいい」


 何処か信用されていないような気がしたが、ハデスにとっては客人を危険な場所へ向かわせる事も出来ないのだろう。

 警戒しつつも二人で小屋に近付き、の入口を調べてみると特に鍵らしい物はなかった。

 しかし、小屋の中から何やら物音が聞こえてくる。

 私は防衛として腰のレイピアを抜くと、小屋の入り口に手をかけた。


「開けるぞ」


 ハデスが固唾を飲みながら頷くのを見てから、そっと入り口を押して小屋の扉を開く。

 すると蝶番が壊れていたのか、そのボロ板のような扉が砂埃を巻き上げながら室内に向かって倒れ込んだ。

 舞う塵を吸わぬよう口元を手の甲で押さえながら、室内へと目を凝らすと。

 驚くべき事にそこには人が居た。

 恐らく二十代後半の、大分図体のデカい男だ。

 小屋に住み着いている人間なのだろうその人は、壁に寄りかかり座ったままピクリとも動かない。

 まさか死んでいるのでは、と思い近付いてみると。

 微かな呼吸音が聞こえた。

 生きている。

 だが顔色が悪く、肌も荒れており衰弱しきっている様子だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ