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紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第四章 紅い出港
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第一話 海を越えて、約束の地へ

 吸血鬼の国から狼の国までは、一週間程の航海が必要だった。

 船がゆっくりと動き出すと、吸血鬼の国の港町が遠ざかっていく。


 私達が目指すのは、ケイドとガットの居ると思われる──狼の国だ。


 港町から出港して約一週間。

 目的地である狼の国はもう間もなくだ。

 航海士達が必死に舵を取り波を乗り越えてくれるお陰で、航海は順調に進んでいる。

 甲板から外の様子を窺っていると、ふと船の向かう先に大陸の輪郭がうっすらと見えた。

 あれがこの船の目的地、狼の国だ。

 帆船が港に入港すると、陸に上がった時に感じるような懐かしい潮風が身体を撫でた。

 港は賑わっていて、雑多な種族でごった返している。


 狼の国は吸血鬼の国と違って入るのが難しくない為、多種族が混在しているのだ。


 港に降りると、その活気と潮の匂いを感じ気分が高揚する。


「凄い人」


 隣でアキが思わずそう呟いた。

 確かに、凄く賑やかな町だ。

 沖から見ても人通りが多いと思っていたが、近くで見るとそれ以上だ。

 船から降りた船員達は忙しそうに、積荷を倉庫に運び込んでいる。

 リノの従者でもある船長は、狼の国にあるリノの別荘を宿代わりに使って良いと言伝てを預かったと言っていた。

 宿探しをしなくて良いのであれば、その時間を用事に当てる事としよう。


「アキ。ハデスと言う人物に会いに行きたいんだけど……いいかしら?」

「リノが言ってた人?」

「ええ」


 アキは左手の薬指に嵌められた、藍色のアレックスの指輪を見詰めた。


「この指輪って……一体何なの? レッドウルフは、アレックスの指輪って言ってたけど……」


 アキにはまだ話してなかったか。


「アレックスの指輪。神殿バベルって言う、塔に登る為の神具よ」


 父の墓で会った元神官のトシキは、そう説明していた。

 リノはアキになら指輪を預けられると思って、彼に所有していた“哀しみ”のアレックスの指輪を託したんだと思う。

 私じゃなくて、アキにだ。

 良い判断だと思う。

 現に私は、アレックスの指輪の力を私欲に使っているから。


「私は……可能であればアレックスの指輪を集めたいと思ってるの」


 アレックスの指輪は、ケイドに何かしらの影響を及ぼす気がしてならなかった。

 だから、出来る限りのこの手に納めておきたい。

 そう思ったのだ。


「アッキーを無理やり付き合わせるつもりは無いわ……だから、嫌なら正直に言って欲しいの」

「……レッドウルフが望むなら、俺もそれについていくよ」


 アキは思いの外、素直に頷いてくれた。


「いいの? 」

「うん」

「……ありがとう……」


 私はホッと胸をなでおろす。

 本当は断られるかもしれないと、内心ヒヤヒヤしていたのだ。

 とりあえずは、リノが教えてくれたハデスと言う男の屋敷へ向かう事にした。


「ほんとに……凄い人だね……」

「歩くのも一苦労ね。アッキー、はぐれないようにね」


 私はアキの手を握りながら、リノがメモをくれた屋敷の位置を目指して街を彷徨う。

 人々はとても忙しそうに道を歩いていた。

 小さな店先でも大声で客引きしていたり、道端では楽器を弾いてる人もいる。

 賑やかで活気溢れる街だ。

 私達みたいに余所から来た人達が珍しいのか、物珍しそうな視線をたまに向けられる。

 そりゃあ、紅い毛の人狼なんて珍しいに決まってるか。


「ハデスは狼の国じゃ有名な人らしいから、彼の屋敷を探してるって言えば誰かが教えてくれるかもしれないわ」


 リノの話によれば、ハデスという男は人脈が広く狼の国じゃ知らない者は居ないほど有名らしい。


「そこの旅人のお二人さん」


 私が聞き込みをしようとしていると、声をかけてくる男性が居た。

 恐らく狼の血が混ざっているのだろう。

 耳の位置は人間と同じだが、耳輪が尖っていて、毛髪と同じ色の毛が生えている。

 時折見える歯が尖っているのも、この国の民の特徴だ。


「ハデスの屋敷を探してるんやって? 」


 また、関西訛りだ。


「どうして知っている? 」

「さっき港町で噂しとった人らが居って、君らの事を話しててん。『あんな派手な人狼が居るなんて』って」


 どうやら、私はこの街で目立っていたようだ。

 それにしても派手と言われるとは思わなかった。


「ハデスはあの角を曲がった先にある屋敷に住んどるで」

「すまない、助かった。礼を言う」


 私とアキは頭を下げると、男は笑顔で手を振って去っていく。

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