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紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第三章 紅い入国
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第十四話 哀しみの贈り物

「ただし、術の発動には制約があって……その制約を守る事が出来ないと……代償に、その者は闇血症(あんけつしょう)になる」


 リノに与えられた制約が、何なのかは私達には分からないけれど。

 闇血症(あんけつしょう)になったと言う事は、リノは制約を守れなかったと言う事なのだろう。


「幸い……この国の魔法医学の発達のお陰で、致死量は昔よりは低いけど……もう二度と歌う事は出来ないかも知れない……」


 闇血症(あんけつしょう)はリハビリをすればあるいは治るかも知れない……だけど、それには血反吐を吐くような思いをする事になるだろう。

 何より、失った魔力量は半端ない。

 それを取り戻す事は無理に等しいのではないだろうか。


「そんな……」


 青ざめたアキが震えるように呟いた。

 私がアキの肩を抱きしめていると、リノがようやく口を開く。


「二人とも……迷惑かけて……ゴメンな……」


 その声は弱々しく、少し掠れていた。


「禁術に手を出したんは……一年前……魔力が枯渇し始めた時からや……」


 魔力の枯渇症状。

 それは吸血鬼だけでなく、魔法を使う生き物に稀に現れる症状だ。

 時には死を招く症状の為、魔力を増幅させようとして禁術に手を出す者が存在すると聞く。


「俺の制約は……決められた期間中に吸血鬼の国を出ぇへん事……今日でその制約が切れるから……大丈夫やと思ったんやけど……」

「なぜ無理をしたんだ……そんな事しなければ……」


 何とか出来なかったものかと悔やんで、私は拳を握りしめた。


「……どうしても……ケイドさんを探したかった……」


 ただ黙って話を聞いていたアキに向かって、リノは手招きをする。


「アッキー……あげたいモンがあんねん……左手ぇ……出して」


 アキが左手を差し出すと、リノは上体を起こして、その薬指にある指輪を嵌めた。

 それは──


「アレックスの指輪……!?」


 藍色の魔宝石がついた、“哀しみ”のアレックスの指輪だった。

 まさかリノが所有していたとは……。


「あげる……」


 リノがアキに向けてニコッと微笑む。

 それは私達が見た、リノの最後の笑顔だった。


「レッド……ウルフ……、もう一つ……アレックスの指輪の在りかを……知っとる……」

「……!」

「狼の国に行ったら……ハデスって男を訪ねてみて……」


 リノはサイドボードに置いていた封筒を、私に差し出す。


「これを見せれば……事情は伝わると思うから……」

「リノ……」


 私はその右手を封筒と握りしめた。


「ありがとう……本当に、ありがとうっ……リノ……君は私達の大切な仲間だ」


 リノの右手を包んでいた私の手に、アキの手が重なる。


「俺からも本当にありがとう、リノ」


 私達の想いは伝わったのか、リノは泣きそうな顔をして。


「こちらこそ……ホンマにありがとう……」


 震える声でそう、絞り出すように言った。


 リノとの面会が終わり病院から出ると、私とアキは再び港町へ向かった。

 私達は船の近くに待機している従者達に声をかけると、再び船に乗り込む。


「出港準備が整いました」


 一人の従者が私に報告をしてきた。


「ありがとう」


 私は船の先端に立ち、港町を眺める。

 目指すは──狼の国だ。


第三章 紅い入国〈了〉

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