第十四話 哀しみの贈り物
「ただし、術の発動には制約があって……その制約を守る事が出来ないと……代償に、その者は闇血症になる」
リノに与えられた制約が、何なのかは私達には分からないけれど。
闇血症になったと言う事は、リノは制約を守れなかったと言う事なのだろう。
「幸い……この国の魔法医学の発達のお陰で、致死量は昔よりは低いけど……もう二度と歌う事は出来ないかも知れない……」
闇血症はリハビリをすればあるいは治るかも知れない……だけど、それには血反吐を吐くような思いをする事になるだろう。
何より、失った魔力量は半端ない。
それを取り戻す事は無理に等しいのではないだろうか。
「そんな……」
青ざめたアキが震えるように呟いた。
私がアキの肩を抱きしめていると、リノがようやく口を開く。
「二人とも……迷惑かけて……ゴメンな……」
その声は弱々しく、少し掠れていた。
「禁術に手を出したんは……一年前……魔力が枯渇し始めた時からや……」
魔力の枯渇症状。
それは吸血鬼だけでなく、魔法を使う生き物に稀に現れる症状だ。
時には死を招く症状の為、魔力を増幅させようとして禁術に手を出す者が存在すると聞く。
「俺の制約は……決められた期間中に吸血鬼の国を出ぇへん事……今日でその制約が切れるから……大丈夫やと思ったんやけど……」
「なぜ無理をしたんだ……そんな事しなければ……」
何とか出来なかったものかと悔やんで、私は拳を握りしめた。
「……どうしても……ケイドさんを探したかった……」
ただ黙って話を聞いていたアキに向かって、リノは手招きをする。
「アッキー……あげたいモンがあんねん……左手ぇ……出して」
アキが左手を差し出すと、リノは上体を起こして、その薬指にある指輪を嵌めた。
それは──
「アレックスの指輪……!?」
藍色の魔宝石がついた、“哀しみ”のアレックスの指輪だった。
まさかリノが所有していたとは……。
「あげる……」
リノがアキに向けてニコッと微笑む。
それは私達が見た、リノの最後の笑顔だった。
「レッド……ウルフ……、もう一つ……アレックスの指輪の在りかを……知っとる……」
「……!」
「狼の国に行ったら……ハデスって男を訪ねてみて……」
リノはサイドボードに置いていた封筒を、私に差し出す。
「これを見せれば……事情は伝わると思うから……」
「リノ……」
私はその右手を封筒と握りしめた。
「ありがとう……本当に、ありがとうっ……リノ……君は私達の大切な仲間だ」
リノの右手を包んでいた私の手に、アキの手が重なる。
「俺からも本当にありがとう、リノ」
私達の想いは伝わったのか、リノは泣きそうな顔をして。
「こちらこそ……ホンマにありがとう……」
震える声でそう、絞り出すように言った。
リノとの面会が終わり病院から出ると、私とアキは再び港町へ向かった。
私達は船の近くに待機している従者達に声をかけると、再び船に乗り込む。
「出港準備が整いました」
一人の従者が私に報告をしてきた。
「ありがとう」
私は船の先端に立ち、港町を眺める。
目指すは──狼の国だ。
第三章 紅い入国〈了〉




