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紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第三章 紅い入国
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第十一話 燃える嫉妬、冷たい肖像

 吸血衝動の治療法を見つけたケイドの話は、リノに聞いた通りだ。

 問題はその後。


 何故ケイドはこの国に居ないのか、だ。


 塔を降りようとするケイドの事を止めたのが、貴族派の連中。

 ケイドを政治的に利用して、ケイドを崇拝する民を思うように動かし、国を支配しようと目論んでいたらしい。


「“トリカゴヒメ”と揶揄され、塔に閉じ込められとったケイドに手を差し伸べたのが、お世話係をしとった『ガッティ・シュキル・マリシアス』」

「ガッティ……シュキル……マリシアス」

「この国の公爵で貴族派やったけど、ケイドには惚れ込んどった。ケイドの脱獄を手助けしたんも彼や」


 貴族派の者がケイドを助けた?

 どうして?


「……で、そのガットってのは?」

「ケイドと一緒にこの国を出た。」


 ケイドの現在の居場所は、ガットが把握してる可能性が高い。

 と言う事は──。


「──ガットを探すしかない……!」


 私は思い立つと踵を返した。

 閉じられた扉のドアノブを掴むと、ハンクが後ろからその扉に張り手するように手を突く。

 所謂、壁ドンならぬドアドンだ。


「……情報量も払わんと帰るつもりか?」


 扉を開けようとすると、ハンクが内鍵をカチャンッと閉める。


「まだ話は全部終わってへんで」


 ハンクは私を背中から抱き締め、私の頬を撫でてきた。

 煙草の香りが鼻を擽る。


「ホンマ……不思議やわ。ケイド掠め取ったムカツク人狼なのに……女としては魅力的過ぎる」


 顎を掴まれ、顔をまじまじと覗き込まれた。


「なぁ……どう言う理由でケイドと付き合っとったん?」

「……貴方には関係ないけど……そうにね。強いて言うなら……お互い好きになったのよ。私は貴方よりケイドに優しかったから」

「……」


 顎を掴む手が首筋を滑り、第一ボタンが外されたシャツの中へと入り込む。

 吐息が掛かるくらいに顔を近付けられ、私は眉を顰めた。


「そんな事聞く為に呼び止めたの?」


 鼻で笑うとハンクは口端を吊り上げて不適な笑みを浮かべる。


「ホンマ嫌いやわ……けど……いっぺん抱いてみたいと思っててん。その身体……」

「……」


 ハンクは私の肩を掴むと私をくるりと回転させ、正面から抱き締めた。


「情報料がわりに抱かせてくれるんなら……もっと詳しいガッティの情報を教えたってもええけど……どうする?」

「──!」


 恐らく、今現在ケイドと共に居るのはガットだ。

 だとするなら、ガットの情報も必要になってくる。

 そう考えたら断る理由はなかった。


「やるなら、ちゃんとベッドの上が良いわ……」


 ハンクは嬉しそうに笑うと、私の身体を持ち上げた。

 産まれて初めてのお姫様抱っこに羞恥心が込み上げる。


「おっ、下ろして! 下ろしなさい!!」

「暴れんな。ベッドがええ言うたんはそっちやろ」

「……て言うかアンタ、もく私の事持ち上げられるわね……?」


 人狼は多種族に比べると体格が良い。

 その為、牝でも体重もそれなりにあるのだ。

 それを軽々と持ち上げるとは……。


「……重くないの?」

「全然」

「……」


 不意な女扱いにときめいてしまう。

 ケイドやアッキーをお姫様扱いするのは、我慢してやっているのではなく、自分がそうしたいからだ。

 けれど、こうして女として扱われるのが決して嫌な訳ではないと、改めて実感させられる。

 そのまま寝室に連れていかれ、ベッドへと下ろされた。


「ハンク……貴方って昔から私に執着してるわよね……どうして?」


 ハンクの頬に手を滑らせると、その顔が苦虫を噛み潰したように歪む。


「……気に入らんねん、お前の事。ケイドを掠め取った事といい……見かけによらずええ女な事といい……」

「ああ、そう言えば……ずっと私の事を疎んでいたようだけれど?」


 ケイドと一緒に居た頃、ハンクの突き刺さるような冷たい視線を覚えている。


「……ケイドが好きやった……けど、戻って来たケイドは、お前の事を好きになっとった。それが……許せへんかった……」

「嫉妬?」

「──っ! まぁ……そんなとこや……」


 私に覆いかぶさるハンクは、照れたように頬を赤らめた。

 そんな可愛い表情もするのね。

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