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紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第三章 紅い入国
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第五話 死者の名を呼ぶ者

 ゴウの話を聞きながら私はある事に疑問を持っていた。


 ゴウからは強い魔力を感じる。

 コイチからの墓標からもだ。

 恐らく、この吸血鬼の国の貴族になれる程の魔力量だ。

 なのになぜ孤児院の出身なのだろう、と思ったが……。

 吸血鬼の寿命は、人狼や人間に比べれば遥かに永い。

 不老不死級だ。

 大戦があったのは数百年前の事。

 彼らの親の代では、大きな戦争が巻き起こっていた事だろう。

 ゴウの親が戦火を生き抜き功績をあげていたならば、ゴウもきっと今頃は貴族の生活を送っていたのだろう。


 話を戻して、私は立ち上がりゴウと向き合った。


「私には、ゴウを助けられる力がある」


 左手の人差し指に嵌めたアレックスの指輪を掲げる。


「……助ける……?」

「この指輪を使うと……人の過去を変えられる」

「……過去を、変える?」

「ゴウの大事な人を……コイチを助けられる、と言ったら……ゴウはどうする?」

「……コイチを……?」


 ゴウの瞳に希望の光が灯った。

 死人を蘇らせるという事は、死者への冒涜とも捉えられる場合がある。

 だからゴウが拒否する可能性も考えて居たのだが、杞憂だったようだ。


「コイチを助けてくれる……ってホンマなん?」

「ああ。信じられないかもしれないが……」

「いや……信じる」


 ゴウは頷くと私に頭を下げた。


「お願いします」

「分かった」


 私は左手を墓標に翳すと、目を瞑る。

 ケイドを蘇らせた時の感覚を思い出しながら、意識を指輪に集中させて、力を解放した。

 光に包まれ、周りの景色が回転するように変わっていく。

 私は、コイチが付き合っていた女の家へと降り立つ。

 目の前では、女がコイチに向かって銃を向けていた。

 私はレイピアを引き抜いて、構え。

 銀色に煌めく刃先を、女の背中に突き刺した。


「悪いなお嬢さん。ゴウの為にも、コイチの為にも、私の為にも……死んで」


 女は、涙が止めどなく流れ落ちるその瞳を驚いたように見開いて、持っていた拳銃を床へとゴトンと落とす。

 そのまま、女は事切れて床へと倒れ込んだ。

 血が滴り落ちるレイピアを鞘に収めると、私はコイチの方を見た。


「生き返れ、コイチ。ゴウの事を想うならな」


 再び目の前の景色が回転するように変わり、光に包まれる。

 瞑った目を開くと、私は墓地へと戻っていた。

 そして。

 ゴウの隣には、コイチが居た。

 幽霊なんかじゃない。

 だってゴウとコイチは、強く抱擁を交わしているのだから。

 墓標へと顔を向けると、そこにはコイチの名前ではなく、女性名が刻まれている。

 誰の名前なのかは分からない。

 けれど、何となく、この墓は私が刺したあの女の墓なんじゃないかと思った。

 でもそんな事はどうでも良い。


 成功した。

 死人を……生き返らせる事が出来た。


 女の事など気にも留めず、私は一人高揚していた。


 これで……父を、蘇らせられる。

 きっと──。


 ずっと昔。

 もうなん十年も前に、父は命を落とした。


 父を喪ってからと言うもの、私の心には深い悲しみが刻まれていた。

 父を思い出す度に、悲しみが押し寄せてくる。

 父より年を取ってしまった事に、涙した夜もあった。

 父で空いた隙間を、ケイドで埋めようとしていたのは事実だ。

 バチが当たって、そのケイドまで取り上げられてしまったのだが。


 終わらせない。

 絶対に。

 貴方に、もう一度会うの。


 私はそう誓い、ケイドを甦らせたアレックスの指輪の力を使う事にしたのが、私がアキに会うずっと前の。

 ケイドが居なくなって直後の事だった。


 嘗て、ケイドを甦らせた時。

 死者は死者として眠らせるべきだ。

 それを妨げれば、世界の均衡が崩れる。

 そう言う者が居た事を、私は知っている。

 でと私は聞く耳を持たなかった。


「ケイドだって父だって、ここに居るべき存在だ」


 私は生前母から教えてもらった、神殿バベルの近くにある墓地へ赴く。

 父の名が刻まれた墓に左手を翳すと、指輪の力を発動させた。

 光が私を包む。

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