表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第一章 紅い出会い
4/82

第三話 神の遺した塔と失われた子

 翌朝、私は森を後にした。

 私が育った人狼の集落から、一歩一歩遠ざっていく。

 人狼達の視線は一様に冷たかった。

 紅き毛の人狼である私を、今もなお異端視する目だ。

 だが、私は振り返らなかった。

 紅い毛を風に揺らしながら、北へと向かう街道を歩き始める。

 旅の荷物は軽く、レイピアと水、そして母が残した古びた地図だけ。

 地図には幾つかの印がついていた。

 その一つが旅の第一目標。


 神殿バベル。


 父が人狼の村に帰って来る前、最後に訪れた場所だ。

 私の足取りにはまだ迷いを帯びていたが、心の奥底には確かな意志がある。

 母の願いを叶える為。

 父の面影を追いかける為。

 私は旅に出るのだ。


 三日後、私は神殿バベルに到着した。

 荒廃した雲の遥か向こうへと高く聳え立つその塔は、風が石壁を叩いていて。

 塔の周囲には美しい木々の森が広がっている。

 入り口には何やらこの世界には似つかわしくない、近代的なタッチパネルのような盤面があった。

 何となく左手でそれに触れてみると、父の部屋から見つけ出したあの赤い魔宝石の指輪が光り出し、扉が轟音と共に開く。

 私は期待に高鳴る鼓動を抱えたまま、塔の内部へと足を踏み入れた。

 埃と湿気の匂いが鼻を突く。

 内壁には、大きな文字が刻まれていた。


「……“K”と……“D”?」


 これは、前世の世界で使われているアルファベットだ。

 この世界に“K”と“D”と言う文字は存在しない。

 類似する文字すら無い筈だ。

 どうしてこんな所に……。


 それが何を意味するのか、今の私には分からなかった。


 表のタッチパネルと言い、この“K”と“D”の文字と言い。

 もしかしたらこの塔は、私と同じく前世の記憶がある者が作ったのかも知れない。

 もしくはこの世界に転移してきた人間か……。

 まぁ、どうでもいい事だけど。


 その後、塔内を調べたが塔の登り方が分からなかった。

 塔の内壁には一人用のエレベーターが四台あったが、開閉の為のボタンが無い。

 代わりにまたタッチパネルがあった。

 しかし、全てのエレベーターに指輪を嵌めた左手を翳してみたが、どれも開かず、塔に登る事は出来なかった。

 私は、仕方なく外に出る。

 そこで、一人の老人と出会った。

 薄汚いローブを羽織り、フードを目深に被ったその老人は、かつて塔に住んでいた神官だと名乗る。


「君は、彼の娘か?」

「彼……とは?」

「その指輪の持ち主だよ」


 指示されたのは、私の左手に嵌めた父の指輪だった。


「それはアレックスの指輪と言ってな、この塔を司る神官にのみ所有を許された物だ」

「……父の事を知っているのか?」

「ああ。彼はこの国を作った第一人者だ」

「この国の……?」

「そう。そしてこの塔に登り、吸血鬼と人狼の国を統治していた“神”と呼ばれた存在だ」


 成程。

 他種族嫌いな人狼が父を敬っていた訳だ。

 なんせ彼は、この国の“神”だったのだから。


「彼には君以外に子が居た。しかし、彼はある出来事があって、遠くに送り出す事になったのだ」


 おそらく、ケイドの事だろう。


「出来事とは?」


 フードの隙間から見えた老人の目が、遠くを見つめる。


「血の侵食……彼はその犠牲になる所だった」


 血の浸食……ねぇ。

 それはまた、ファンタジーな世界戦だ事。

 あ、いや。

 ここは魔法のある、ファンタジーな世界だった。


「彼は我が子を守る為に力を尽くした。そして、あなたに託したのだ」

「──!」


 心に、父の面影が重く圧し掛かる。


「その、子供を見つけるには何処に行けばいい?」


 老人は一枚の地図を私に手渡した。


「これは彼が残したものだ。二人の行く先を示してある」

「ちょっと待て。父の……彼の子供が産まれたのは、彼が亡くなった後だぞ!? どうして子供の行く先が分かるんだ!」

「覚悟は必要だ。闇は未だに彼らを狙っている。君もただでは済まないだろう」

「話が噛みあってない! 答えろ! 時系列がおかしいだろう!」


 老人は私の話を聞かず、踵を返すと、森の中へ歩き去ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ