第二話 塔の彼方に眠る名
「なら、その塔に行けばケイドに会えって事か?」
「分からん。俺がこの国に居った頃はまだ塔で研究を続けとったけど……そもそも塔は王族の管轄やからそう簡単に謁出来へんし。俺は精霊の森の管理を任されて直ぐにこの国を出てもうたし」
今はケイドの噂を聞かないし、王族や貴族達もケイドの事に関しては箝口令がしかれているそうだ。
私とアキは、リノの引率でもう少し街を歩き回った。
街外れに寺院のような建物を見付ける。
住宅には見えないし、かと言って寺院にしては大きすぎる。
「リノ。あの建物は?」
「あれは先代の王族のお墓。この吸血鬼の国を創設した偉大な吸血鬼で、確か……キデって方が眠ってはる」
「──!?」
キデ……だって……!?
私は紅い髪を振り乱して墓の方を見た。
キデって……そんな……まさか。
「そのキデ……と言うのは……吸血鬼と人狼のハーフの……?」
私の言葉に、リノは感心した顔をする。
「やっぱりレッドウルフは博識やね。そう、その吸血鬼の骨が眠ってはるねん」
ああ。
やっぱり。
あの墓は、私を育ててくれた……愛しの父の墓だ。
父の墓とされる場所は知っていたが、そこに遺骨があるかは不明だった。
吸血鬼の国の創設者ともなれば、この国に墓があっても不思議じゃない。
「リノ……あの墓には……入れるのか?」
「入れるけど……特に何もないで?」
「……私には……大切な事なんだ……」
「そうなん? なら、案内したるわ」
リノの案内で、寺院のような建物の中へと足を踏み入れようとしたその時。
突然アキが顔色を悪くさせて口元を抑えた。
「……アッキー? 大丈夫……!?」
駆け寄ると、アキは眉間に皺を寄せて蹲る。
「……気持ち悪い……」
「ちょっと見せて」
リノがアキの顔を覗き込むと、アキの瞳が薄っすらと赤く光った。
「……吸血衝動やな」
「吸血衝動……!? ちょっと待て! アッキーは転移者だぞ!?」
「多分、もともと素質があったんや。転移者でもこっちの世界の空気に当てられて、エルフとか、それこそ吸血鬼になってまう事があんねん」
「そう……なのか……」
「吸血衝動を抑える薬とか持ってる?」
「いやっ、持ってない……どうしたら……」
私が困惑していると、リノは薬を取り出してアキに飲ませる。
程なくしてアキの体調は回復したが、アキはぐったりしていた。
「ちょっと休ませた方がええ。取り敢えず俺ん家行こ」
「分かった……すまない」
私はアキの身体を抱えあげると、リノの屋敷へと向かう。
リノの屋敷に到着すると、私達は客間に通された。
アキはベッドに横になり眠っている。
旅の疲れが溜まったのかもしれない。
だとするなら、申し訳ない事をした。
「アッキーは大丈夫だろうか……まさか、吸血衝動が治まらないなんて事は……」
「大丈夫、ケイドさんの薬を服用すれば治まると思う」
「そうか……」
リノは私にお茶を勧めながら、自分もティーカップに口を付けた。
「レッドウルフとアッキーって夫婦みたいやね」
「ふ……夫婦!?」
驚きのあまり変な声が出てしまう。
「違うの? 一緒に旅をしてて、しかも同じベッドで寝てるんやろ? なら夫婦同然やん」
「……確かにアッキーの事は好きだが……」
夫婦は色々飛ばしすぎやし、言い過ぎでは?
「で、何で二人旅してるん? 人狼の国から人間の国まで来るの大変やったやろ?」
「……まぁな」
リノには全てを話す。
ケイドと私は血の繋がらない兄妹だって事。
そんなケイドがいきなり消えた事。
そのケイドを探しに吸血鬼の国に来た事。
「アッキーを守りたいけど……ケイドにも会いたい」
先程の父の墓の事も気になるし。
「私は……欲張りなのだろうか?」
「そうでも無いんちゃう? 生きとしいける者なんて、そんなもんや」
このリノって男は、人当たりが良くとても優しい。
「まぁ、どの道アキにはもう少し休憩が必要や。暫くはウチに泊まってく事やな」
「いいのか?」
「俺は構わへんよ」
「ありがとう……感謝してもしきれない」
「言い過ぎやって」
リノは優しく笑う。
美形は笑うと更に美形だと思った。




