第一話 吸血鬼の国の貴公子と二人の異邦人
リノは吸血鬼の国の貴族であり、その身分はかなり高いようだ。
私とアキを吸血鬼の国に連れて行ってくれると約束し、私達は準備を整えるの人間の国を出立する事となる。
豪華な馬車を用意してくれて、その乗り心地の良さは今までの旅の中で最高だった。
馬車の窓から見える景色は次第に変わっていき、森が深まり、建物が増えていく。
吸血鬼の国は人間の国から離れており、多くの数多の村を通過しなくてはならない。
その為、入国にあたっての手続きや制限は厳格で本当に難しかった。
リノの協力がなければ、こんなにすんなりと進めなかった事だろう。
「もうすぐ着くで。吸血鬼の国に」
リノの言葉に、アキは緊張した面持ちで頷き、私は馬車の車窓から外を見た。
馬車が止まり、大きな門がゆっくりと開かれると、目の前に広がるのは吸血鬼の国の城下街。
古びた石畳の道がまっすぐに伸び、その周りには石造りの建物と木々が立ち並んでいた。
「ここが吸血鬼の国……か」
人間の国や人狼の村では見られない様々な種類の吸血鬼達が歩いており、どの住人達も美麗で、美しい顔立ちをしている。
流石、吸血鬼と言ったところか。
城下町の入り口で馬車が停まり、先にリノが馬車から降りた。
「着いたで」
紳士的に手を差し出してエスコートするリノの姿は、まさに貴族と言って差し支えない。
「お先にどうぞ、アッキー」
「え、いや……普通は女性がエスコートされるものだと思うけど……」
「そうなの?」
確かに、前世で読んだ悪役令嬢モノの漫画ではそんな事書いてあった気がするな。
「なら、お先に」
私はリノの手を取って馬車から降りると、今度は私がアキに手を差し出した。
「どうぞ、お姫様」
「……お姫様扱い?」
「私にとって、アッキーはお姫様だよ」
イケメンを意識して微笑んで見せると、アキは恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、私の手を掴んで馬車を降りる。
そうして私達は、吸血鬼の国へと降り立った。
アキは城下街を見て感嘆の声を漏らす。
「綺麗な街……」
「そうやろ? この景色だけはどの国にも負けへん」
確かに、吸血鬼の国の街並みは美しく、どこかノスタルジックな雰囲気が漂っていた。
吸血鬼の住まう国と聞いて、もっと薄暗く陰気な国を想像していたが。
実際には太陽の陽で溢れ、気品があり、美しいとすら思える国だと感じる。
なんなら故郷である人狼の村の方がよっぽと陰気臭い。
「リノ。ここに住まう吸血鬼達は、日の光を浴びても平気なのか?」
「今は予防とか、治療法があるねん」
「なるほど。流石、医療大国だな」
吸血鬼の国は医療大国とも呼ばれていて、特に魔法医学に長けていると、道具屋で売っていた新聞で呼んだ事がある。
ちなみに魔法医学とは、主に『呪い』などの魔法による症状を治療したり、予防や進行を遅らせる医療の事だ。
「レッドウルフって博識やね」
「それはどうも」
「ならこれも知ってる? 最近は日の光だけやなくて、吸血衝動も治療出来るようになったって事」
ふと、デイーゴから貰った資料に、ケイドの吸血衝動の事も書かれていた事を思い出す。
「吸血衝動が……治療出来るのか?」
「ああ、おん。ケイドさんのお陰でな」
「……! ケイドの……お陰で?」
「元々、吸血衝動の治療方はあったんやけど、吸血鬼によっては拒否反応があって。ケイドさん達が研究して、全ての吸血鬼に効く治療法を発見してくれてん」
リノの言うケイド達の達って言うのは、恐らくサクヤとハンクの事だろう。
「ケイドさん達の恩恵に預かった吸血鬼は数知れへん。それやから、ケイドさん達の事を“神”と呼ぶ吸血鬼も多い」
「“神”……ね」
ケイドがこの国で何をしているのかは不明だが、それはいずれ本人に聞く事が出来るだろう。
「ケイドさんには王族に匹敵する魔力があったから、王族は研究に協力する事を口実に塔の上にケイドさんを閉じ込めてん。そんなケイドさんの事を“トリカゴヒメ”って悲観する吸血鬼も居ったよ」
「トリカゴ……ヒメ……」
ケイドは姫と呼ぶに相応しいかも。




