第十四話 魅了された瞳に歌声を捧げて
腹筋を意識し、歌い始める。
私の歌声は少し震えていたが、湖一体に響いて。
リノは耳を傾けてくれていた。
歌い終えると、リノは満足げに手をパチパチと叩く。
「ええ感じやん。これならイケるんちゃう?」
「そ……そうか……?」
正直自信は無かったが、リノの言葉で少し勇気づけられる。
「レッドウルフの声は綺麗やから。これならアッキーもきっと聴いてくれるやろ」
初めて会ったばかりで信用しすぎかと思われるかも知れないが、何故だかリノの言葉が胸に染みてジーンとした。
少し照れ臭くなるも、彼の言葉を信じてみようと思う。
「当日は一緒に行ったるから、頑張ってな。傍で応援しとるから」
「何から何までありがとう……リノ」
私は力強く頷きながら、再びアキの元へ向かう決意を固めた。
「後は人間の国への潜入だな……」
「ああ、それなら俺に任せて」
「何か手立てがあるのか?」
「まぁな」
リノのお陰で、人間の国へと潜入する事に成功する。
今日はデイーゴが言っていたアキとの婚約式だ。
結婚式に新婦ないしは新郎を攫いに来る元恋人の気分ってこんな感じなのかと考えると、ちょっとだけドキドキする。
庭園から忍び込み、城内にある教会へと向かった。
デイーゴとアキは白い服を纏って祭壇の前に立っている。
司祭らしき男が宣誓の言葉を述べ始めた。
「汝、デイーゴはこのアキを夫とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います」
その問いに対し、デイーゴは躊躇いなくそう答える。
そして司祭はアキの方を見ると。
「汝、アキはこのデイーゴを夫とし、健やかなるときも病めるときも、喜びのときも悲しみのときも、富めるときも貧しいときも、夫を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
そう問いかけた瞬間──。
私は礼拝堂の扉を開けた。
三人の顔が一斉にこちらへと向く。
アッキーは渡さない。
絶対に。
私の瞳に映るデイーゴの顔は驚愕に満ちていた。
私は魔鏡を取り出し、ステンドグラス越しに挿し込む陽の光を反射させ、アキの瞳へ当てる。
失明の危険があるから、良い子はマネしないでね。
すると、アキのその瞳が微かに輝き出した。
アキの瞳の光に呼応するように魔鏡が淡く光り出す。
目を閉じて、歌い始めた。
私の気持ちと、魔力を乗せて、アキへと届ける。
左手のアレックスの指輪が熱くなる。
思い描くのはアキとの思い出。
この短い期間で過ごした、沢山とも思える時間。
彼の笑顔が、全てが宝物で。
愛おしくて仕方がない。
アキとの日々の記憶と共に。
歌詞を紡ぎ出す。
私の声が。
私の気持ちが。
アキの中へと流れ込んでいく感覚があった。
「……レッド……ウルフ……?」
その声を聞いて目を開けると。
アキの瞳は澄み渡る空のように綺麗で。
瞳に宿っていた光は消えていた。
「アッキー……!」
「……レッド……ウルフ……!」
私が駆け出すと、アキも駆け出した。
デイーゴが叫ぶ静止の言葉も、耳に入っていないみたいに、無視して。
バージンロードの丁度ど真ん中で、私はアキの身体を抱き留めるとそのまま抱え上げる。
メロドラマのワンシーンみたいにクルリと一回転すると、アキと微笑み合って。
唇を重ねる。
間近で合ったその目は、本当のアキの瞳で。
良かった、と心から思った。
「ごめん、レッドウルフ……俺……」
「分かってる。全部わかってるから、良いよ。デイーゴとエッチした事も、魅了の魔法にかかってたって事も」
アキと違う部屋にされた、あの夜。
私は部屋を抜け出してアキの部屋へ向かった。
そこで光の蝶を追いかけるアキを見つけて、後を追いかけたんだ。
そしたらアキはデイーゴの寝室に入っていった。
「アッキーが幸せなら、私はデイーゴとどんな関係になっても良いと思ってた……でも、魔法にかけられているのなら、私が解かなきゃって……そう思ったの」
「レッドウルフ……」




