第十一話 黄昏の城に君を残して
城に滞在してからと言うもの、アキとはあまり会えていない。
部屋を訪ねても大抵は外出していて居ないし、居たとしてもデイーゴも居て二人きりになれない。
何かが。
何かがおかしい。
なんだこの違和感。
アキは普段通り変わらない気がするのに。
でもまぁ、良い。
約束の一週間が過ぎた。
今日でこの国ともおさらばだ。
デイーゴからケイドの情報を聞き出して、アキと共にこの人間の国を出よう。
そう、思っていたのに。
私はデイーゴの書斎にやってきた。
約束のケイドの情報と、アキの事を話しに。
「ケイドさんの目撃情報はこの資料に纏めました」
そう言って、書斎の椅子に座ったままデイーゴは丁重に袋に入れられた資料を私に手渡してきた。
「今ここで中身を確認しても?」
「大丈夫ですよ」
袋の紐を解き、中身を取り出す。
書かれている文字に目を走らせると、私は驚いた。
「この情報をどこで……?」
「うちの王族には特別な情報筋があってね」
恐らく、ここに書かれている事はかなり重要な情報と言えるだろう。
それは仮定を確定へと変えるものだった。
ケイドは、やっぱり吸血鬼の国に居た。
そして、ケイドは──吸血鬼になっていた。
私が生き返らせた、あの時に。
私の……せいだ。
「今すぐ……会いに行かないと……アキ……そうだ、アッキーは?」
デイーゴは椅子から立ち上がる。
「俺は、彼と離れ離れになるのは嫌なんですよ」
その瞳の光の奥底に。
“吸血鬼”の面影が見えて。
「デイーゴ……貴方……」
「愛した人間を傍に置いて置きたい。それは自然の摂理と言うものではないですか?」
デイーゴの瞳は深く濃い闇を湛えている。
闇に輝くその瞳が放つのは、強烈な魔力。
「まぁ、でも。決めるのはアキ自身ですもんね。アキ、入ってきて」
デイーゴが声をかけると、書斎と寝室を隔てていたドアが開いて、アキが出てきた。
「アッキー……!」
「……レッドウルフ……」
私はアキのもとへ歩み寄る。
「アッキー、早くこの国を出ましょ」
「……」
「アッキー?」
「……ごめん、レッドウルフ」
「え」
アキの口から紡がれたその言葉は。
私が望んでいたものではなかった。
「俺はここに残るよ」
「……アッキー……何言って……」
「デイーゴと一緒に居たいんだ」
「……何……言ってるのよ……」
アキの悲しげな瞳が、私の姿を映す。
その瞳の奥に、微かな光が見えた。
まるで何かに取り憑かれたような、そんな瞳だ。
何処かの魔導書で呼んだことがある。
操られた者はその瞳に特有の光を宿すんだとか。
アキの瞳には、魔導書に書かれていたのと同じ特徴を持った光が宿っているように見えた。
「アッキー……その目……」
「これで決まりましたね」
私とアキの間にデイーゴが割り込んでくる。
「まだ話は終わっていません」
「いや、もう決まりだろ? アキは俺と居たいって言ったんだ」
「……っ」
「アキ、部屋に俺の部屋に戻ってて良いよ」
デイーゴは寝室のドアを開け、アキをその中へと誘導した。
「ちょっと待ってっ……まだ話が……!」
「しつこいですよ」
寝室のドアがバタンと閉ざされる。
そのドアに向かって、デイーゴがボソリと呟いた。
「やっと見付けたんだ……ケイドさんによく似た……ここで手放す訳にはいかない」
その言葉に、私は確信する。
コイツ……。
「お前……アッキーをケイドの代わりにするつもりかっ……!?」
デイーゴはクスリと笑ってこちらへ振り返った。
「今のは流石に不敬ですよ? 大目に見て国外追放にしといてあげます」
私の周りを兵士が囲む。
「ついでに教えといてあげますね。数日後、俺とアキの婚約式を行うんです」
「は? 婚約式?」
「ウチの国は多様性を重視してましてね、条件さえ揃えば同性でも婚約、婚姻が出来る事になってるんです」
知るか、そんな事。
と言う前に、私は国の外へ追い出されてしまった。




