第十話 アキと光る蝶の行方
食事の後、レッドウルフはデイーゴに説得されて渋々俺の部屋を出て行った。
「また明日ね、アッキー。おやすみ」
「うん、おやすみ」
レッドウルフを見送ると、湯浴みや寝支度を済ませてベッドへ入る。
けれど、一人で眠るのは久しぶりで。
上手く眠れない。
広いベッドの中で何度も寝返りを打っていると、ドアの方から光る何かが飛んできた。
光の……蝶?
その蝶は俺の周りを飛び回ると、またドアの方へ飛んでいく。
「ついて来いって事?」
その蝶が、頷いたように見えた。
ベッドから出ると、素直にその蝶に付いて行く。
部屋を出ると、蝶は城の廊下を進むように飛んで行った。
見失わないよ言うに後を追う。
すると、蝶はとある部屋の中へとドアをすり抜けて入った。
俺が泊っている客間よりも明らかに豪華なドアだ。
この部屋は……一体……。
ドアを開けると、その先に広がる空間は意外にもシンプルで落ち着いた雰囲気だった。
高級感のある家具が並び、壁にはいくつかの美しい絵画が飾られている。
そして、中央に置かれた大きなベッドには、誰かが座っていた。
何となく予想はしていたが、やはりそれはデイーゴだった。
デイーゴは俺を見るなり優しく微笑む。
「こんばんは、アキ」
その微笑みに一瞬ドキッとしてしまった。
「さっきの光の蝶……やっぱりデイーゴの?」
「そ。魔法でね。よかったらもう少し近くに来ない?」
「うん……」
少し戸惑いながらもデイーゴの傍へ行くと、手を引かれ、デイーゴの隣へと腰を下ろす形で座る。
「アキ」
囁かれ、頬にデイーゴの手が触れた。
顔が近づいてきて。
キスされる。
そう感じた俺は、咄嗟に顔を背けた。
「……なんで拒否するの?」
背けた顔をゆっくりと元の向きへ戻していく。
そこには怒るでも悲しむでもなく、真剣な眼差しをしたデイーゴが居た。
「アキは俺の事が嫌い?」
「……」
嫌いな訳がない。
デイーゴは、愛していた彼に似ているのだから。
それだけじゃない。
顔だけじゃなく、中身までもよく似ている。
惹かれない訳がないんだ。
デイーゴは頬から手を離すと、その手を顎に持って行き、そのまま俺にキスをした。
「アキは……何を怖がってるの?」
怖がってる?
俺が?
何を?
「……分からない」
デイーゴは俺の身体をベッドへ押し倒した。
「分からないのなら、考えなくていいよ。俺が、全部忘れさせてあげる」
再び唇が重なる。
「俺が、アキを愛してあげる」
俺は抵抗出来なくて、そのまま身体を委ねる事しか出来なかった。
その夜、俺は。
デイーゴと情交を結んだ。
次の日、朝早くに目を覚ます。
隣ではデイーゴが眠っていた。
「デイーゴ」
そう呼びかけると、デイーゴは薄っすら目蓋を開き、俺を見ると。
「……ケイド……さん……」
うわ言のようにそう呟やいた。
しかし、ちゃんと目蓋を開いて俺の顔を見るや否や、飛び起きる。
「……ごめん。寝ぼけてた」
デイーゴは苦笑いを浮かべた。
また、ケイドさん……か。
俺の名前はケイドじゃない。
でもデイーゴは俺に、ケイドという人物に重ねてる。
それが俺の心を複雑な気持ちにさせた。
俺が思い詰めた顔をしていると、デイーゴにキスされる。
「どうした?」
「……何でもない」
「何でもなさそう」
「……そう?」
「そう」
デイーゴの大きな手が、俺の頬を撫でた。
少し擽ったくて、少し嬉しい。
デイーゴは俺の目を真っ直ぐに捕える。
その瞳が、微かに光を帯びた。
灯されたその光は優しく、しかし鋭く俺の目を捉えて離さない。
まるで磁石に吸い寄せられるように、俺はデイーゴの瞳に釘付けになる。
「アキ」
囁かれるその声は甘く、どこまでも深く。
心臓がドクンドクンと高鳴って、デイーゴの瞳の中に吸い込まれていく感覚に襲われる。
「君はもう俺のものだ」
その言葉を聞いた瞬間、心の奥底が温かく包まれるような感覚が広がって。
俺はもう、デイーゴのモノダ。




