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紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第二章 紅い旅路
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第七話 謎の王子と失われた記憶

「やっぱ、少し高くても安全な宿が良いよね?」

「そうだね。レッドウルフが決めてくれていいよ?」

「そう? じゃあ、ちょっと調べてみるわ」


 旅人向けの案内所に向かって歩みを進めた。

 その時だった。

 アキと、町をあるく一人の男の、肩が軽くぶつかる。

 袖と袖が、一瞬触れ合って。


「あ、ごめんなさ……」


 目と目が合うと。

 二人は足を止めた。

 先を歩いていた私も止まると、アキの方へ振り返る。


「……アッキー?」


 二人は驚いた顔をして、互いに見つめ合っていた。

 アキを見詰めていた男は、大分チャラいが、身に着けている物はどれも一級品だと見て取れる。

 どこぞのボンボンか?

 いや、どこぞのボンボンでも、あの魔宝石のアクセサリーを手に入れるには困難だ。

 あんな物、王族でもなけりゃ入手出来ないだろう。

 まさか……コイツ……。

 そんな事を考えていると、男がボソッと呟いた。


「……ケイド……さん?」


 !!?

 今コイツなんて言った!?

 ……ケイド……って。

 問いただそうと、男に近付いた。

 しかし、その瞬間──アキが倒れ込んで。


「……アキッ!?」


 愛称も忘れてその身体を受け止める。

 私の腕に納まったアキは、気を失っていた。


「アキっ! しっかりして! アキ!!」


 アキの身体を揺すっていると、男が駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか!?」


 その表情は心配で満ちていた。

 なんだ、見かけによらず良い奴じゃないか。

 なんて思ってる場合じゃない。


「どこか安静に出来る場所へ連れて行かないと……宿……いや、取り敢えずどっかの公園にでも……」

「なら、俺の家に来てください!」

「え」


 男はアキの身体をお姫様抱っこすると、駆け出して。

 私も急いでその背を追いかけた。

 男が向かったのは、町の中央に聳え立つ王城だった。


 まさか……やっぱり……コイツ。


 アキを王城につれていった男は、国王の息子。

 つまり王子は、人間の国の王子だった。


 アキは王城で手厚く介抱される。

 私はアキに付き添う形で病室に入った。

 ベッドで眠るアキを、何故か王子と二人で眺める。


「礼を言います。ありがとう、助けて頂いて」

「いや。無事っぽくて良かったです。……そう言えば、名前言ってなかったですね。俺はデイーゴ・ブレイクズと言います」

「私は……レッドウルフ。ちなみに彼の名前はアキ。ケイドじゃないですよ」

「──! どうして……ケイドさんの事を?」

「それは私が聞きたいんですが?」


 警戒する心で敵意を向けると、デイーゴは眉を下げた。


「ケイドさんは……俺の憧れなんです」

「……?」


 デイーゴが言うには、ケイドは数年前この人間の国を訪れ、国王の病気を治したんだとか。

 国に滞在していた間も、怪我人や病人の治療に尽力し、国中で評判になったらしい。

 このデイーゴ王子もケイドのファンの一人なのだとか。

 どうりで“さん”付けな訳だ。


「さっき町で彼の姿を見かけた時、驚いてしまって……あまりにケイドさんに似ていたから。まさか別人だったとは……」

「……」


 王子もケイドのファンだったとはね。

 ケイドには魅了の魔力でもあるんだろうか?

 ……そうか。

 そう言う事か。

 吸血鬼には、魅了の魔力があるらしい。

 他者を魅了して、虜にして血を頂くと聞いた事がある。

 もし、ケイドが吸血鬼だとしたら……吸血鬼の国の近くで目撃情報があった事と言い、辻褄が合う。


「それで……彼はどうして倒れてしまったんですか?」


 デイーゴの問いに、私は答えられなかった。

 私にも分からなかったから。

 眠っているアキの頬を、そっと撫でる。


 アキ……どうか、目を覚まして。


 その細い手をきゅっと掴んで、私はそう祈るしかなかった。

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