第六話 未完の告白と約束の旅
「あー、キスか……やっぱダメだった?」
「いや……突然だったから……驚いて……」
「ごめんね?」
ついついケイドと同じ事をしてしまった事に、私は反省する。
「怒ってる……よね?」
もしかしたら、アキにとっては唐突過ぎたのかも知れない。
「……ううん」
「アッキーは……恋人とか、居る?」
「……居たよ。過去形だけど」
「そう」
「レッドウルフは? 今は恋人居るの?」
「私も居ない」
「そっか」
本当はケイドが居たけど。
今はもう居ないから。
「じゃあさ……俺と付き合ってみない?」
「は?」
私はアキの言葉に固まる。
「好きだよ。レッドウルフの事」
「……」
何て、答えたら良いのか分からなかった。
告白されたのは前世も含めて初めての事で。
アキの事は嫌いじゃない。
寧ろ好きだ。
だから嬉しかった。
けれど、どうしても。
ケイドの顔が頭を過ってしまう。
ケイドの代わりにアキを好きになろうとしていた筈なのに。
結局は出来ないでいる自分が情けない。
「ダメかな?」
アキは不安げな目をして私を見詰める。
私はその視線から逃れたくて、俯いた。
「ねぇ……アッキー。その告白……一年先延ばしにする事は出来ないかな?」
「……どういう意味?」
「私達は、まだお互いの事をよく知らないでしょ?」
「うん……」
「だから、一緒に旅をして、それでもアッキーの気持ちが変わらなかったら……一年後、もう一回私に告白してくれない?」
「……分かった」
「ありがとう」
安心してアキに微笑む。
けれど。
これで本当に良かったのかなんて分からなくて。
ケイドの事も。
アキの事も。
振り回してしまっている気がして。
複雑な気持ちでいっぱいだった。
「多少の貯蓄はあるけど、もう少し旅費を稼ぎたいから、出発は一週間後くらいにしようかなと思ってる」
「どうやって稼ぐの?」
「ギルドにでも行って仕事をもらってくるわ。だから、アッキーはこの家で待っててもらいたんだけど、いいかしら」
「分かった」
「ありがとう。じゃあ、早速行って来るね」
「気を付けて」
私はアキの頬にキスを落として家を出た。
人間の町へ行き、冒険者の斡旋業を行っているギルドへ向かう。
そこで護衛の仕事を斡旋してもらい、旅費を稼いだ。
あっと言う間に約束の一週間が過ぎ、旅立ちの日を迎える。
「荷物持った?」
「大丈夫」
「なら、行きましょ」
私は家の中を巡って戸締りを確認した。
全て確認してから家を出て、家の裏手へと回り込む。
「この森を抜けて、まずは人間の町へ向かいます。覚悟はいい?」
「いいよ」
アキは少し緊張した面持ちで頷いた。
私の心臓もバクバクしている。
これから長い旅が始まるのだ。
果たして吸血鬼の国へ辿り着く事が出来るのか。
なんだか不安になってしまう。
けれど。
ケイドに会う。
そのだけを胸に、私はその一歩を踏み出した。
「そう言えば……レッドウルフはなんで吸血鬼の国に行きたいの?」
森の中を歩いていると、アキが尋ねてきた。
「あー……うん。その国にね……ケイドを探しに行きたいの」
「ケイド?」
「家族……なの」
私はケイドの事を恋人と呼んでいるけれど、どうしてかアキにはその事を話したくなかった。
「その国に居るって事?」
「多分……だけどね」
「そっか。なら、頑張ろうね」
その笑顔に、心が痛んだ。
だって、笑い方まで、ケイドにそっくりなんだもの。
ズルいよ。
「……ありがとう」
私は胸の痛みを誤魔化して微笑む。
暫く森の中を進むと、大きな湖を目にした。
湖を通り過ぎた直ぐの所にあるのが人間の町だ。
「見えてきたわ」
湖沿いに立派な外壁が見えてくる。
その外壁は町を取り囲み、出入り口である門は頑丈な造りになっていた。
無事に人間の町へ足を踏み入れると、町の中はとても賑わっていて、たくさんの人と物で溢れている。




