第五話 ギターとキス
私はベッドに腰かけて、アキに向かって手を差し出した。
「どうかしら……?」
「……嫌ではない……けど」
差し出した手を伸ばしてアキの手を握ると、ベッドへ導く。
ベッドに横になってアキを見上げると、視線がぶつかった。
アキの頬が少し赤らんだのを見て、私はドキッとする。
これは、ケイドじゃなくてアキだ。
なのにどうして?
胸が熱くなった。
「おやすみ、アッキー」
「おやすみ。レッドウルフ」
隣で横になったアキを見て、目蓋を閉じる。
眠気は直ぐにやってきて。
私は眠りについた。
独りで眠るようになってから、私は深く眠ることが出来なくなっていた。
けれど。
その夜は、深く眠る事が出来た。
見たのは、ケイドの夢だった──。
数日後。
旅路に備えた買い出しの際、私は一人道具屋へ立ちよった。
「すまない。魔宝石で弾けるギターが欲しいんだが……取り寄せは出来るか?」
「可能ですよ。どんなモデルをお探しで?」
私はSGを描いた紙を道具屋に見せる。
「ああ、それなら数日頂ければ取り寄せ出来ますよ。如何しますか?」
「頼む、取り寄せてくれ」
「かしこまりました。ご一緒に魔宝石はご購入されますか?」
「そうしようと思っている」
「でしたらその分サービスしときますよ」
「えっ? いや、流石にそれは……」
「お客様には色々とお世話になっておりますから」
「そうか……すまない、ありがとう」
魔宝石は普通の宝石類より希少価値が高く高価なので、素直に甘えることにした。
数日後、SGモデルのギターが道具屋へと届く。
アキに内緒でそれを受け取り、家へ戻った。
「ただいま、アッキー」
「おかえり、レッドウルフ」
「今……ちょっといい?」
「ん?」
私は布に包まれたギターをアキに手渡す。
「中、見てみて」
「え……えっ!?」
中身がギターだと分かると、驚いた顔をして私を見るアキ。
「アッキーが持ってたヤツと似てるよね?」
アキはコクリと頷く。
ギターを見るその目は、どこか愛しそうで。
私は取り寄せて良かったと思った。
「これ、どうしたの?」
「実は……取り寄せたんだ。アッキーにプレゼント。この世界に来てくれてありがとう」
「こちらこそ……ありがとう。すごく嬉しいよ」
ギターを両腕に抱き締め、嬉しそうに微笑む。
その笑みに、また胸が熱くなった。
「喜んでくれて良かった」
「これ、旅に持って行っていい?」
「勿論」
恐らく、長い旅路になるだろう。
それでも、アキと一緒に居られる時間が増えた事が嬉しくて。
その日は、アキがSGを弾く姿をずっと眺めていた。
夜になると昨夜と同様、アキと一緒に一つのベッドで眠る。
アキがベッドの内側に向かって寝返りをうつと、アキの方へ身体を向けていた私と目が合った。
「まだ起きてたんだ……レッドウルフ」
「ん? ああ、うん」
「ごめん……こっち向いてると思わなくて……」
「今謝るところ?」
「いや……」
「尻尾が邪魔になるといけないと思って」
「そっか……」
「……」
私がアキの黒い瞳を見詰めていると、アキは恥ずかしそうに目を逸らす。
ふと、アキの形の良い、薄い色合いの唇が目に入って。
つい、自分の唇を重ねた。
ケイドが初めて私の部屋を訪ねて来た、あの夜。
ケイドが私にそうしたみたいに。
「おやすみ、アッキー」
驚いて目を丸くするアキに微笑みかけて、私は目蓋を閉じる。
今夜も、よく眠れそうだ。
翌朝、目が覚めると、アキは既に起きていた。
「アッキー? おはよう」
「あ……うん、おはよう……」
何故かアキは気まずそうな顔をしていた。
私は疑問に思いながらも、ベッドからでて朝の支度を済ませる。
朝食の席についても、アキはきまずそうにしたままだ。
「アッキー? どうかしたの? 何かあった?」
「……あのさ、レッドウルフ……昨日のあれって……」
「昨日?」
何を言いたいのか分からなくて首を傾げた私に、アキは俯く。
「……キス……」
アキの言葉に察しがついた。




