表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅き狼の恋愛遍歴  作者: redwolf
第二章 紅い旅路
24/82

第四話 奏でる想いと眠れない夜

 アキはギターを膝の上に乗せて構えると、弾き始めた。

 心地良い弦の音が、部屋中に響く。

 ギターを見詰めるアキの表情は、どこか楽しそうだった。

 私まで心躍るのを感じる。


「凄い」

「そうかな」

「うん。綺麗な音」

「……ありがとう」

「この世界ではね……美しい音色は魔力になるの。その音が美しければ美しいほど、奏でる人の魔力へと変わるのよ」


 その証拠に、アキの身体に魔力が満ち溢れていくのが見て取れた。

 この魔力の色って……。


「アッキーってもとの世界では何を使ってたの?」

「何って?」

「ギター。種類?」

「SGっていうギター、使ってた」

「ギブソンの?」

「知ってるの?」

「うん。結構渋いの使ってたのね」

「このギターは? レッドウルフの?」

「ううん。父の物なの」

「お父さんの? お父さんもギター弾いてるんだ?」

「……ええ」


 私は二階にある父の部屋の方角を、遠い目で見る。


「お父さんとは一緒に住んでるの?」

「ううん……父は……もう亡くなってるから」


 アキのつま弾く手がピタッと止まり、気まずそうな瞳がこちらを向いた。


「あ……ごめん……」

「ううん、いいの。私も話してなかったし」

「……お母さんは?」

「母も、数年前に亡くなってる」

「ごめん……」

「いいって。気にしてないから」


 重い空気を変えたくて、私は話題を変える。


「そう言えば、この世界にはエレキギターもあるのよ。ちかもこの世界のエレキはアンプとコード要らず!」

「えっ……! ホントに……!?」

「ほんとほんと」


 電源は魔宝石を使って電気をギター本体に送り込み、音は周囲の空気を直接震わせる事で奏でる仕組みになっている。


「今度、道具やで取り寄せれるか聞いてみるわ。もしかしたらSGモデルも存在してるかも知れない」

「そんな気ぃ使わなくても……大丈夫だよ?」

「いいの。私がそうしたいだけだから」


 私は。

 ケイドに出来なかった分。

 アキに尽くしたいと思った。

 これはホント、私の我が儘なんだけどね。


「アキが良かったら、ずっとこの家に居ても構わないから」


 本当は、ケイドとそうするつもりだった。

 人狼は人間に冷たいけれど、好戦的と言う訳ではない。

 良くも悪くも放っておいてくれる。

 私の家は村の奥の方にあって、人狼はよそ者の侵入に敏感だから、自然とセキュリティが高いから。

 二人っきりで暮らすのに悪くないと思っていた。

 それを提案しようとした矢先、ケイドは居なくなってしまったが。


「なら何かお礼させて。このままじゃ申し訳ない……」

「……だったら、私と旅にでてくれない?」

「旅に?」


 世界中を旅した時、吸血鬼の国だけは入る事が許されなかった。

 ケイドの目撃情報が唯一あったのも、吸血鬼の国の近く。

 先程アキに演奏してもらった時、アキから発せられる魔力は、吸血鬼の魔力によく似た色に見えた。

 だからアキを連れて行けば、入国が出来るかも知れない。

 淡い期待だが。


「俺で良ければ、どこへでも一緒に行くよ」


 私の心の内を知らないアキは微笑む。


「ありがとう。なら早速明日から準備を始めようかな」


 少し胸は痛んだけど、背に腹はかえられない。

 私は本音を隠して微笑みを返した。


 夜になり、寝支度をしていつもの習慣でベッドに入りかけて、アキの寝る場所が無いことに気が付く。

 昨夜はアキがベッドで寝て、私は寝袋だったけど。

 不意に、ケイドと一緒に居た頃の事を思い出した。

 あの頃、夜はケイドと共に一つのベッドで眠っていた。

 毎晩私の部屋を訪ねてきて、一緒に寝たいと強請る甘えたような瞳が、今も忘れられない。

 ケイドに置いていかれてからは、ずっと独りで寝ているけれど。


「ねぇ? アッキー……良かったら、一緒にベッド使わない?」

「……え」


 アキは面食らったように私を見詰める。


「でも……ベッド狭いし……それに、恋人居るんでしょ? レッドウルフ……」

「……恋人って言っても、私が勝手にそう呼んでるだけだし」


 まぁ、肉体関係はあったけど。


「アッキーって真面目なのね? 嫌なら、無理強いはしないけど……私の事を思ってくれるなら、一緒に寝てくれると助かるわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ