第十七話 愛する者を、決して渡さない
「最後は恋人同士になれたみたいだけど……私は許さないわ」
許さない。
絶対に。
ケイドが許そうとも。
世界が許そうとも。
私だけは許してなるものか。
「なら……なんで俺の事も助けたんや」
「ケイドの為よ。仮にも恋人だった人が不自由していたら、ケイドが悲しむでしょう」
ケイドの憂いは私の憂い。
だから、取り払うのは当然。
「本当は殺してやりたいぐらいなのよ……貴方の事。けどそんな事したらケイドが悲しむし、貴方と一緒になっちゃう」
ハンクの耳元に口を近付け、敢えて色っぽい声で囁く。
「私、こんな事も知ってるの……ハンクって男は暗殺業を生業にしてた。そして、その事をケイドは知らないって事もね……」
太腿に置かれたハンクの手を取り、指と指を組むように繋いだ。
「貴方の女にはなってあげても良いわ……好きなだけ抱いて良いよ。でも──」
私はハンクの頬にキスをすると。
「ケイドはあげない♡」
耳に息を吹きかける。
驚いたハンクは身を引いて私から少し離れた。
「あと……殺し合いはナシよ。お互いにとって得がない……そうでしょ?」
ハンクの手を離すと、私は脚を降ろして身を預けていたドアの縁から背を離す。
「さっきも言った通り……ケイドは今寝てるから。また今度会いにきなさい。会いたいなら、だけど」
私は踵を返し自分の部屋へと戻って行った。
あ。
水貰ってくるの忘れちゃった……。
ま、いいや。
寝よ。
目蓋を閉じると、再び眠りへと誘われる。
私は、夢を見た。
夢の中で。
私は。
ケイドと向き合っていた。
周りにはケイドと私の他に、三人の男が居る。
顔はよく見えない。
そこは、雲よりも遥か高い塔の上で。
壁が一部崩れ落ちている。
眼下には雲海が、遥か下にあって。
落ちたら、ひとたまりもないだろう。
そんな塔に縁に、ケイドが立った。
両腕を広げて。
背中から、落ちていく。
私はその名を叫んで。
手を伸ばして。
けれど、届かなかった。
ケイドは。
落ちていく。
「っ……!!!」
驚いて、私は飛び起きた。
全身が汗でぐっしょりと濡れている。
隣ではケイドが眠っていて、安心した。
眠ってる顔も可愛い。
愛しい。
「好きよ……ケイド」
愛を囁き、その頬にキスをした。
ケイドを守りたい。
ずっと。
そう、思っていたのに。
どうして?
私を、置いて行ったの?