第十五話
夜更けになると、私はまた眠れずにいた。
そう言えば、ケイドに会ってからずっと一人で寝てないな。
もうケイド無しでは眠れない身体になってるかも知れない。
そうこうしていると、いつものようにノック音が部屋に響く。
ドアを開ければ、やっぱりケイドが居て。
ただいつもと違うのは、ケイドの髪が短くなった事だ。
ホントに格好いい。
私はそんな事を思いながらケイドを招き入れる。
ベッドに腰をかけると、ケイドに押し倒され、股がられた。
「け、ケイド……!?」
「レッドウルフ……正直に言って? 俺の事好きやろ?」
「……」
ケイドは聡い。
当然、私の熱視線に気付いていた訳だ。
ならば、隠す必要もない。
「うん……好き……」
これは、この気持ちは、父への想いを押し付けているだけなのか。
それとも、純粋にケイドを想う心なのか。
そんな事、どうでもいい。
「ケイドが好き」
「……なら」
ケイドは着ていたシャツのボタンを外し始める。
「大人の……爛れた関係になっても……ええって事やな……?」
「大人……って」
願ったり叶ったりだ。
別に下心があってケイドに近付いた訳じゃないが。
プラトニックな関係を続けるつもりは無かった訳じゃないけど、今の関係を壊す事に恐れは無い。
「私は構わない……けど……良いの? 私……ケイドの兄妹だよ?」
「血は繋がってへんやろ」
「ハンクと恋人関係だったんじゃないの……?」
「昔はな……けど……ここに来てからはハンくんとはなんもしてへんし……」
言葉を交わしている間にも、ケイドはシャツを脱ぎ捨て、私のシャツのボタンを外し始めていた。
その夜。
私とケイドのプラトニックな関係は。
静かに崩れていった──。
それからと言うもの。
私とケイドの爛れた関係は続く。
ケイドをあまり人の目に触れさせないようにするのを名目にし、宿屋の部屋に二人で籠りがちになった。
「昼間からこんな事しててええんかな?」
「いんじゃない? それとも……ケイドは私の事嫌いになった……?」
「嫌いやったらこんなんせぇへん」
「良かった……」
「俺の事……好き?」
「うん……好き」
ケイドとの爛れた関係を重ねていても、遠慮する気持ちは欠片も無かった。
父に似ているからって構わない。
寧ろ、私は父に対してもそう言った感情を抱いていたし。
父には似ているけれど、父ではない、別人の男だし。
ケイドはケイドとして、この世界で息づいてるのだから。
「ねぇ……ケイド?」
「ん?」
「私とずっと一緒にいてくれる……?」
ケイドは私にキスをして。
愛らしく笑った。
今日は珍しくケイドとの外出だ。
目的地は教会。
ケイドが子供の目を治して以降、噂が広まり、教会を通して何度か治療の依頼が来た。
あの巻き戻りの力を使う事でケイドにどんな影響があるか分からないし、最初のうちは断っていたのだが、いつしか金子を積まれるようになって。
心優しいケイドは、治療をする事にしたのだ。
もちろん、金子は一切受け取っていない。
ケイドに内緒で、宿代とか食料とかちょっとだけ用立ててもらったけど。
だからその代わりに、定期的に教会を訪れる事にしている。
礼拝堂に入ると、神父に向かってケイドは凛々しく微笑んだ。
「神父様。こんにちは」
あれ?
関西訛りじゃない。
そう言えば、町の人と話す時も標準語話してたっけ。
教会の訪問を終えると、宿へと戻って来る。
今日は治療を行っていないが、始めは力を使うと疲労してフラフラになっていたケイドだったが。
力を使う度に慣れて来たようで、最近では治療を行っても自分の足で宿まで帰って来られるようになった。