第十四話
この世界の住人はカラフルな髪色が主流で、茶色い髪色の者はほぼ居ない。
ケイドのようなユラユラした髪型の者も殆ど居ないから、町を歩くと目立つのだろう、と思ったのだ。
「ごめん……傷つけた?」
「ううん……大丈夫……」
「……帰ろっか」
「おん」
一緒に宿に帰ると、その夜も一つのベッドで一緒に眠った。
翌朝。
私は宿の主人を通して神父のお使いに行く事になる。
ケイドと一緒に、と思ったんだが……彼にも用事があるらしい。
「用事って? 一人で大丈夫そう?」
「大丈夫。ありがとう」
名残り惜しく思いつつケイドの背中を見送ると、私は私の用事のために出発する。
行き先はこの前教会で会った親子のもとだ。
ケイドが目を治した子供の経過を見てきて欲しいらしい。
親子の家の前まで来ると、庭で洗濯物を干している母親に会う。
「あら……! ケイド様の!」
「神父からの頼まれて子供の目を見させてもらいに来た」
「どうぞ……!」
通された居間でソファーに座っていると、奥から件の子供が出てくる。
「あ……かみさまの……」
私と目が合うと子供はビクッとして、急いで母親のスカートを握り足元に隠れた。
私ってそんな怖い……?
ああ、でも……人狼は見慣れないか。
「ケイド様に宜しくお伝えください。ありがとうございました、と」
母親は子供を抱えあげると、丁寧に頭を下げる。
「その後、変わりはないか?」
「ええ、大丈夫です」
ふと、私は子供の目元に赤いニキビみたいものが目についた。
「ちょっと聞きたいんだが。その子供、目元に赤い痕があるようだが……」
「え? ああ、これは……」
「デキモノか?」
「はい。魔物に襲われる前に完治した筈なんですが……」
「……襲われる前に?」
「そうです。でも良いんです……この子の目が戻ったんですから……」
母親は満足そうだったから、私はそれ以上の口出しするのをやめて、親子の家を後にする。
神父への報告を済ませ、帰路に着きながら色々と考えた。
ケイドが治した子供の目元にデキモノが出来ていた──いや。
デキモノがもとに戻った──と考えたらどうだろう?
ケイドは傷を治したんじゃなくて、傷を負う前に戻したんだとしたら?
デキモノが同じ場所に再発する事が、全く無いとまでは言わないけど。
私が過去に行けたのも、ケイドの力なのかも知れない。
もっと言うと、ケイドは乳飲み子の時に、迫り来る闇から自分の身を守る為に無意識に過去へ飛んだと仮定すれば……。
母のもとから消えた事も、私の産まれる前に死んでいた事も説明がつく。
考え込んでいたら、いつの間にか宿の目の前まで戻って来ていた。
庭に入った所で。
「おかえり、レッドウルフ」
ケイドの声がして、私は振り返る。
「……! ケイド……?」
そこには、髪をバッサリ切り落とし黒く染めた、ケイドが立っていた。
変わったのは髪型だけじゃない。
長髪の頃は、下にズボンは穿いていたが、ワンピースのような中性的な格好をしていた。
しかし、今は白いシャツにスラックスを穿いている。
以前は女性的で、成人してはいたもののどこか幼さがあったが、今のケイドはちゃんと成人した男性の雰囲気を醸し出していた。
「どう? 似合う?」
照れ臭そうに笑うケイドは、本当に恰好良くて。
気持ちが爆発しそうになった私は、咄嗟に顔を両手で覆った。
「レッドウルフ……!? どうしたん……? やっぱ似合ってない……?」
「いやゴメン……違くて……その……格好良すぎて……」
手を少し下にずらして、ケイドをチラ見する。
「良い……凄く良いよ……」
「そっか……良かった」
ケイドはそう言って顔を反らして、照れ臭そうに微笑んだ。
あ……。
その顔に、父の面影が重なって。
胸が締め付けられる。
父は……あの人はよく照れ臭そうに笑う人だった。
見かけに寄らず恥ずかしがりやで……。
手を下ろし、頬に指先で触れされながら、ケイドを切ない気持ちで見詰めた。
その視線に気が付いたケイドが、私を見て心配そうな顔をする。
「大丈夫?」
「あ……うん。大丈夫よ」
私は安心させるように笑みを作った。
やっぱり、ケイドは父の子だ。