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紅き約束  作者: redwolf
第一章 紅い出会い
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第十二話 裸足のまま、君と

 ふと、ケイドの白い素足が宿の床を踏みしめている事に気が付く。


「ケイド……靴はどうしたの?」

「あ、忘れた」

「駄目だよ、ちゃんと靴履かなくちゃ……座って。拭いてあげる」


 ケイドがベッドに腰をかけると、私は桶に水を汲み、清潔な布を持ってきた。

 水に布を浸し軽く絞って、それでケイドの足の裏を拭う。


「宿の床は綺麗に掃除してあるけど、皆靴で歩くし、何か踏んだら危ないから」

「おん」

「はい、綺麗になった。今度からは靴履いてね」


 私はケイドに微笑みかけた。

 とは言え、かく言う私も前世の習慣の所為で家の中は裸足で居たくなるから、気持ちは分からなくはない。


 ……にしても綺麗な足してんな、ケイドって。

 やっぱり、顔だけじゃなくて身体も綺麗なのかな?

 ヤバい。

 見て見たくなっちゃう。

 そんな気持ちを押さえつつ、私はついケイドの足の甲にキスをしてしまった。


「──!」

「あ、ゴメン……嫌だった、よね?」

「いや……大丈夫」

「ね、寝よっか」

「おん」


 二人してベッドに上がり、布団に潜り込む。

 寝返りをうつと、ケイドが身体をすり寄せて来た。

 私は少し戸惑いつつ、拒絶される覚悟でその身体を優しく抱き寄せる。

 すると、ケイドは顔を上げて。

 私の唇に触れるだけのキスをしてきた。


「おやすみ」


 そう言って無邪気に笑って、ケイドは私の胸に顔を埋める。


 ね……ね……眠れるかぁ!!


 鼻先にケイドのふんわりとした髪が触れて、シャンプーの良い匂いがした。

 鼓動の音がこれ以上なく煩い。


 この夜。

 私はケイドと一夜を過ごした。

 勿論何もしていない。

 何もしていないけど……もう何も要らないと思える程、心が満たされていた。

 このまま──。

 このまま一緒に居られたら、それでいいのに。

 私はケイドを抱き締める腕に、力を込めた。

 窓から射し込む月明かりが優しくて。

 その夜は、静かに更けていった。


 数日過ぎたある日。

 私達は街外れの小高い丘にある墓地へ来ていた。

 この墓地は迷いの森を前にした絶壁沿いに建てられていて、街の喧騒からも離れた静かな場所にある。

 その一角に、ケイドは手を合わせて祈っていた。


「レッドウルフのお父さん……ここに眠ってるん?」

「そう……らしい」


 そう母の手紙には書いてあったが、本当に遺体が埋まっているのか眉唾な気がしている。

 人狼の村の墓地ならいざ知らず、ここは父と関連のない土地の筈だから。


 あ……いや。

 全く関連無しって訳でもないか。

 この近くには、神殿バベルがあるし。


 お父さんもお母さんも、もう居ない。

 お陰でケイドに会えたけど。


「ねぇ……ケイド? この町を出る気はない?」

「え、なんで?」

「ずっと宿暮らしって訳にもいかないし、私はいずれここを出ていくつもりだから……一緒に行けたら良いな、と思って」

「俺……この町から出て行ってもええんかな?」


 私は屈んでいるケイドの隣に、同じように膝を畳んで座った。


「良いと思うよ、私は」


 本当は、一緒について来てほしい。

 そうしたら、私が守ってあげられるから。


「……少し、考えさせて」

「分かったわ」


 墓地を後にすると、私達は市場へ向かった。

 ご厚意で無償で部屋を貸してもらっているが、流石にタダでは悪いので、宿屋の店主の代わりに買い出しに来たのだ。


「……あれ?」


 市場を歩いていると、何やら周りの様子がおかしい事に気が付く。

 道行く人々が私達を避けるように、遠回りしていく。


「……なんか……こっち見てへん?」


 ケイドも気付いたらしく、私の服の袖を摘んでそう言った。


「気にしなくていいよ」


 そうケイドを安心させるも、正直気にならない訳ではない。

 皆ケイドを見てヒソヒソ話しているようだった。

 恐らく、教会での事がもう既に市場まで広まっているんだ。

 人々の中には、手を合わせて拝んでいる者もいる。

 そして、ケイドは聡い。

 きっともう何か察している事だろう。

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