第十話 手を繋ぐ理由
「ご馳走様です」
ケイドの方を見ると手を合わせ、朝食を綺麗に完食していた。
「美味しかった? ケイド」
「おん」
「そっか。良かった」
偉い偉いと頭を撫でてやりたい所だが、流石に子供扱いしすぎかと思い、満足そうなケイドに私も微笑みを返す事にする。
ケイドは言動や容姿が一見幼く見えるが、実はしっかりと成熟した男だ。
子供扱いするのは失礼だろう。
それにしても。
知りたい事は山ほどあるが、どこから調べるべきか。
ケイドが生き返った理由も知りたいし。
「出かけるん?」
席を立つとケイドが寂しそうにこちらを見ていた。
「ああ、うん。ちょっと調べたい事があって」
「それ……俺もついてっちゃダメ?」
う……。
大きな瞳が上目遣いでこちらを見上げている。
やめて!
そんな目で見られたら断れないから!
「いいよ。行こう」
結局ケイドの可愛い攻撃に負けて連れ出す事に。
まぁ……ケイドがついていた方が都合が良さそうだし。
そう自分に言い聞かせて私達は宿屋を出た。
「そんで? 何を調べに行くん?」
ケイドにそう聞かれて、私はどう説明しようか頭を抱えた。
「えっと……じつは、ケイドが生き返った事について調べたくて」
「俺の事……調べるん?」
「やっぱり嫌……だった?」
私が申し訳なさそうにすると、ケイドは首を横に振る。
「ううん。大丈夫。俺も色々知っときたいし」
「そっか、ありがとう。なら、まずはケイドの居た孤児院に行こうかと思ってるんだけど……大丈夫?」
「うん」
孤児院はこの町の教会に併設されている。
きっと何か情報がある筈だ。
「なら、行こ」
そう言ってケイドは私と手を繋いだ。
「──!?!?」
思わぬ行動に素直に驚く。
ヤバい。
頬が熱い。
「どないした?」
「あ、ううん! なんでもない……わ、私の手……冷たかったらごめんね」
「いや、暖ったかい」
「そ……そっか……」
恥ずかしさのあまり私はちょっと目を伏せた。
ケイドは背の高さは私よりも低いが、手の大きさは私よりも大きい。
それが男を意識させて胸のドキドキを煽る。
教会に到着すると、礼拝堂で祈りを捧げていた神父へと声をかけた。
「すまない。ちょっと尋ねたいのだが……」
「はい」
ふと、ケイドの方を見た神父が「おや」と声を上げる。
「ケイド……戻ってきていたのか」
「はい」
「立派に大きくなったようで、安心したよ」
やはり、私の見立て通り顔見知りだったか。
ケイドが居れくれた事できっと神父の警戒心は幾分か解けただろう。
「ケイド、こちらの方は?」
「レッドウルフ。俺の義理の兄妹です」
私は背を正すと神父に向かって真っすぐお辞儀をした。
「初めまして。レッドウルフと言う。以後お見知りおきを」
「初めまして、私はここの教会で神父をしております」
「少しケイドの事で尋ねたい事があるが、良いか?」
「ええ。なんなりと」
私達は教会にある長椅子の端に座り、神父の話を聞く事にした。
「ケイドは幾つくらいからこの教会に?」
「正確な年齢は分かりませんが、乳飲み子の頃この教会へやってきました」
「どうやって来たんだ? その……例えば母親が連れて来た……とか」
「いいえ。急に現れたのです。教会の祭壇に」
「教会の祭壇に……!?」
立ち上がった神父に続いて、教会の祭壇の前へとやって来る。
そこには、何かの魔法陣のような物が書かれていた。
「これは? 魔法陣に見えるが……」
「これは私達が祈りを捧げる場所です。ここに神が舞い降り私達を救ってくれる、とされているのです」
神が……ねぇ。
『神』と聞いて真っ先に思いうかんだのは、父の顔だった。
彼もまた、『神』と呼ばれていたらしい。
魔法陣を眺めて思考を巡らせていると、教会に一人の女性が子供を連れて入って来た。




