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遼州戦記 司法局実働部隊の戦い 別名『特殊な部隊』の夏休み  作者: 橋本 直
第十八話 『特殊な部隊』の革命

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第51話 かなめ、カウラ、アメリア、侵略す

「たぶん島田がまだいるだろうから挨拶して行くか?菰田は……たぶん白石さんに絞られてるからそれどころじゃないだろうな」 


 帰り支度をするとカウラはそう言って誠達をハンガーへ誘った。


「そうだな。一応、奴が寮長だからな。それにヤンキーは礼儀とかにうるせえんだ。アタシ等上官だぜ?でも、寮じゃアイツは寮長だ。顔を立てとかないと後で面倒だ」 


 心配する誠を置いてかなめ達は歩き出す。頭を抱えながら誠はその後に続いた。


 管理部ではまだパートリーダーの白石さんの菰田への説教が続いていた。飛び火を恐れて皆で静かに階段を降りてハンガーに向かった。


 話題の人、島田准尉は当番の整備員達を並ばせて説教をしているところだった。


「おう、島田。サラはどうしたんだ。どうせオメエのバイクでサラのアパートまで送るんだろ」 


 かなめの突然の声に島田は驚いたように振り向いた。


「やめてくださいよ、西園寺さん。俺は隊では『硬派』で売ってるんですよ。いきなりサラの話はしないでくださいよ。俺にも面子ってもんがあるんですから」 


 そう言って頭を掻く。整列されていた島田の部下達の顔にうっすらと笑みが浮かんでいるのが見える。島田は苦々しげに彼らに向き直った。もうすでに島田には威厳のかけらも無い。


「とりあえず報告は常に手短にな!それじゃあ解散!」 


 部隊で留守番をしていた整備員達は敬礼しながら、一階奥にある宿直室に走っていく。


「サラ達なら帰りましたよ、パーラさんの四駆に同乗して。もしかすると月島屋で飲んでるかも知れませんが……ああ、あそこは今日は休みでしたね。さすがの小夏もあんだけはしゃぎまわったら疲れるだろうし、お世話になった女将さんも早く寝かしてあげたいし」 


 そう言って足元の荷物を取ろうとした島田にアメリアが走り寄って手を握り締めた。


「島田君ね。良いニュースがあるのよ。きっと島田君が喜んでくれるような話」 

挿絵(By みてみん)

 アメリアの良いニュースが島田にとって良いニュースであったことは、誠が知る限りほとんど無い。いつものように面倒を押し付けられると思った島田が苦い顔をしながらアメリアを見つめている。


「ああ、アタシ等オメエのところに世話になることになったから」 


「よろしく頼む」 


 島田はまずかなめの顔を見た。何度と無くだまされたことがあるのだろう。島田は表情を変えない。次に島田はカウラの顔を見た。カウラは必要なことしか言わないことは島田も知っている。そこで表情が変わり、目を輝かせて島田を見ているアメリアを見た。


「それって寮に来るってことですか?」 


「そうに決まってるじゃない!他にどういう意味があると思ってるの?」 


 アメリアの叫びを聞くと島田はもう一度かなめを見る。その視線がきつくなっているのを感じてすぐにカウラに目を移す。


「よろしく……頼む」 


 照れながらカウラが頭を下げる。


「ちょっと、どういうことですか……」


 島田は一瞬で脈拍が跳ね上がるのを感じた。目の前にいるのは憧れと恐怖が半々の三人娘。頭では『冷静に対処せねば』と考えるが、口元がひくついているのを止められない。

挿絵(By みてみん) 

「ま、まあ、寮長として歓迎しますよ。うん、歓迎だ……」


 島田はしばらく呆然と立ち尽くした後、そのままものすごい形相で誠に向って歩み寄った。


「おい、神前。説明しろ」 


「それは……その……なんと言うか……」


 とても考えが及ばない事態に喜べばいいのか悲しめばいいのかわからず慌てている島田に誠はどういう言葉をかけるべきか迷っていた。 


「あのね島田君。私達は今度、誠ちゃんと結婚することにしたの!それでその新居として私が誠ちゃんの部屋に住むことになったの。一つのハーレムね。まあ、誠ちゃんの生まれからしたらハーレムの一つや二つ持ってても……ってそれは言うなって隊長に言われてたんだっけ」 

挿絵(By みてみん)

 アメリアの軽口に島田はぽかんと口を開ける。


「ふざけんな!この爆弾女!」 


 かなめのチョップがアメリアを打つ。痛みに頭を抱えてアメリアはしゃがみこんだ。


「冗談に決まってるじゃないの……全くちょっとしたお茶目をすぐに暴力で解決しようとして……嫌われるわよ。でも、ちょっとは嬉しいのよ?誠ちゃんと同じ寮に入れるって。それを茶化さなきゃ、私、照れて死んじゃうもの」 


 頭をさすりながらアメリアはそう言った。かなめのチョップは本気に近かったのだろう、アメリアの目からは涙が流れていた。


「貴様ではだめだ。神前!説明しろ」 


 そう言うカウラの顔を見てアメリアは仕方なく引き下がった。 


「あのですね、島田先輩。三人は僕の護衛のために寮に引っ越してきてくれるんですよ……今日、僕が『廃帝』の手先に襲われたじゃないですか。そのせいで……」 


 島田は全員の顔を見た。そして首をひねる。もう一度全員の顔を見回した後、ようやく口を開いた。


「隊長の許可は?」 


「叔父貴はOKだと」 


 かなめの言葉を反芻するようにうなずいた島田がまた全員の顔を眺める。


「まだわからねえのか?」 


「つまり、三人が寮に入るってことですよね?」 


「さっきからそう言っているだろ!」 


 さすがに同じことを繰り返している島田にカウラが切れた。そこでようやく島田も状況を理解したようだった。


「でも、まとまって空いてるのは二階の西日が強い西側だけだったと思いますよ。良いんすか?」 


 携帯端末を取り出し、その画面を見つめながら島田が確認する。


「神前の安全のためだ、仕方ねえだろ?」 


 かなめがそう言ってうつむいた。


『こっちは護衛という名目で、だが……アイツの近くにいたいって、少しだけ思ってるのかもな……アタシみたいなのがアイツの傍に……何考えてんだ!アタシは!』


 かなめの脳裏にそんな言葉があふれていた。


「何よ、照れてるの?」 


 いつもと違う煮え切らない態度のかなめをアメリアが冷やかした。


「アメリア、グーでぶたれたいか?」 


 かなめは向き直ってアメリアにこぶしを見せる。


「キャー、怖い。助けて!誠ちゃん!」


 そう言うとアメリアは誠の陰に隠れた。


「本当に……前途多難すぎる」


 一人、冷静なカウラはそう言って急展開にいつもと違う反応をしている誠達に呆れたように静かにため息をついた。


 その有様を見つめながら島田は手にした通信端末でメールを打ち始める。


「明日は掃除で、次の日に荷物搬入ってな日程で良いですよね?」 


 決断力だけが島田の取柄だった。島田は次々と整備班のメンバーにメールを送り、明日の掃除の段取りの指示を始めた。


「別に引っ越す際の身の回りの荷物の少ない私は良いがアメリアが……」 


 カウラはそう言うとかなめにヘッドロックされているアメリアを見る。


「無理よ!荷物だって結構あるんだから」 


 本気でないかなめのヘッドロックに苦しいふりをしながら、アメリアはそう言った。誠も趣味人であるアメリアの部屋には相当のアニメグッズやお笑い関係の小道具が蓄えられていることを知っていたので、彼女の引っ越しが一日で終わるものでは無いことは容易に想像できた。


「あのなあ、お前のコレクション全部運べってわけじゃねえんだよ。とりあえず生活必需品だけ持ち込んで、後のコレクションはトランクルームでも借りてそこで管理しろ。言っとくけどそのトランクルームを借りる費用はオメエのポケットマネーから出せよ。オメエの趣味と任務は関係ねえ」 


 そう言って脇に挟んだアメリアの頭をかなめはねじり続ける。


「最後の送信っと。段取り済みましたよ。明日の掃除の手伝いの人員は確保できました」 


 島田は二人の様子を確認しながら携帯電話の画面を見つめていた。かなめは島田の手元を目で確認すると、ようやくアメリアを解放した。


「西園寺さん……アメリアさん……しかもカウラさんまで……これは、戦争(いくさ)になるぞ……これは……戦争になるぞ……クバルカ中佐じゃないが三国志の始まりだ……誠、お前が蜀なら、あっちは魏と呉だ……」

挿絵(By みてみん)

 島田は携帯電話の画面から目を離してハンガーの天井を見上げた。


「じゃあ、アタシ等帰るわ」 


 かなめはそう言うと誠の手をつかんだ。誠は昨日はかなめに強引にカウラの運転する『スカイラインGTR』に乗せられてきたので、いつものように自分の原付で自力で帰ることができなかった。


「カウラ、車を回せ!もう遅いんだ、アタシは早く寝たい」 


 相変わらずかなめは自分の都合だけでカウラをこき使うつもりだった。


「全く我儘な奴だ。わかった、少し待ってろ」 


 カウラはかなめのそんな性格を知り尽くしているので、半分諦め気味にそう言うとそのまま駐車場に向けて歩き出した。

挿絵(By みてみん)

「じゃあ私はジュース買ってくるわ。私も今日は車置いてきてるし。私もカウラちゃんの車に便乗するわね」 


 アメリアも一応、中佐と言う階級にふさわしいような結構高い車を持っているのだが、運転するのがめんどくさいということで、大概はカウラに送り迎えをしてもらっていた。


「カウラはメロンソーダだぞ!」


 カウラはなぜか食べ物や飲み物に彼女の髪の色と同じエメラルドグリーンの色がついていると喜ぶ性質があった。 


「知ってるわよ!」 


 誠はこうなったら何を言っても無駄だとあきらめることをこの一月で学んでいた。誠は得意満面の笑顔で大股で歩くかなめの後ろを照れながら歩くことにした。





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