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球状結界と秘密の物語



 その日、雪月は、水晶宮に吹き込む初夏の風を静かに浴びていた。


 目の前に浮かぶ、虹を孕んだ球状の結界。

 誰も語り継がなかったもの。

 けれど雪月にとっては、懐かしい者の気配が、今もそこに在った。


「……やあ、じいちゃん。私も、ずいぶん歳をとったよ」

 その声音は冗談めいていたが、微笑には翳りがあった。


「もうすぐ、最後の孫が産まれる。

 種が、遠くへ行くまで――あと、ほんの少し。

 そのときまで、そばにいてくれるかい?」


 淡く光る幕が、ほんのわずかに揺れた。

 風のせいか。

 ……それとも。

 雪月は目を細め、ただ静かにその揺れを見つめていた。

 

 


 魔術王の号令の元、建設された擬似魔術都市はとても画期的に見えた。 

 最新の設備で整えられ、新しいもの、使いやすいものだけで出来た都市。

 


 これは、誰にも言えない話。でも、忘れたくない話。

 

 街灯が、風に合わせてかすかに揺れていた。

 光が生き物みたいにふるえて、通りすがりの子どもたちの顔を照らしていく。 


 ジュドロは立ち止まって、それを見上げた。

 青から紫、そして金色。

 色が、見るたびに変わる。

 それだけで、ちょっと笑いそうになった。


 でも――床が、すこしだけ息をしていた。

 地面の下から、ふわりとしたあたたかさが伝わってくる。

 お腹の中が、くすぐったくなるみたいな感じ。


「ぜんぶ、魔術なんだってさ」

 隣で歩いていた男の子が、そう言った。

「ほら、あれも、あれも。ベンチも、壁も、街灯も」

 男の子が指差す先、どれも光っていた。

 ゆれる。うごく。かすかに、音がする。


「すごいよな。まるで魔術の中に住んでるみたいだ」

 そう言って、笑った。


 ジュドロは笑わなかった。

 どこか、こわかった。

 床の下から、何かの鼓動がする気がして。

 目に見えない生き物が、この都市そのものの中にいるような気がして。


 ジュドロたちは、“抽選”で選ばれたって聞いた。

 でも、知らない顔ばかりじゃなかった。

 王都で見かけた人たちが、たくさんいた。


「抽選だったのに……みんな来たじゃん。ずるいな」

 男の子が笑って言った。

 ジュドロは、うん、と言わなかった。


 お爺さんが言ってた。「辞退者が四分の一いた」って。

 難しい言葉だったけど、来なかった人たちのことだってわかった。


 でも、どうして来なかったのかは、わからなかった。


 お母さんは引っ越す日の朝、ずっと窓の外を見ていた。

 声をかけたら、笑ってくれた。でも、目が赤かった。


(来たくなかったのかな)

(でも、来ないのって――そんなに、いけないこと?)


 ジュドロには、よくわからなかった。

 だけど、なんとなく――来なかった人たちのことを思い出すと、胸がちくんとした。


 擬似魔術都市には、いろんなものがあった。

 魔術で空を読み取って自動でひらく傘。

 声をかけると温度が変わる窓。

 ひとりでに走り回るおもちゃの鳥。

 ぜんぶすごくて、でも、すごすぎて、ちょっとだけこわかった。


 人間が住んでるのに、どこか、人間の街じゃないみたいだった。

 ジュドロは、時々立ち止まって、空を見た。

 まだ、空は青かった。

 けれど、まぶしくなかった。


 ある夕方だった。

 都市の空が、音もなく、静かに揺れた。


 ジュドロは目をこすって起きた。

 耳が、へんな感じだった。

 なんだか、誰かの声が、頭の奥に直接響いてきて――


「これより、王都の“非公開事象”の映像を投影する」


 伯父さんの声が、世界に降った。

 大きくて、やさしくて、でも、ぜったいに逆らえない声だった。


 ジュドロは、ぎゅっと服をにぎりしめた。

 

 

「これより、王都の“非公開事象”の映像を投影する。

 本件で確認したことは、魔術誓約により、誰かに語ることも、記すことも、思考すらも制限される」


 魔術誓約――入都の際に渡された身分証と共に交わした“こうがいはっと”の契約。

 書くだけだったし、大人たちも何も言わなかった。

 でもあのとき「ちゃんと読んでおけばよかった」と僕は思った。


 誰かが声を出そうとして、喉に手を当てた。

 けれど――出ない。口も喉も、びくともしない。

 

 ざわり、と空気が揺れて、上を見上げた。

 そこに――浮かんでいた。結界が、空にひとつ。



「これは、氷香王国の“終焉”を告げる、儀式の記録だ。

 詳細は語れぬ。されど、君たちが目にする光は、滅びの証明だ。

 どうか、見届けてほしい。

 そして、語れぬまでも伝えてほしい。

 “統一戦争は悲惨だった”と。

 “決して繰り返してはならない”と」


 その声は落ち着いていた。でも、少しだけ震えていた。

 ぼくは知ってる。

 王様――伯父さんがこんなふうに声を震わせるの、初めて聞いた。

 天幕みたいに空いっぱいに広がる光。

 結界がどんどん増えていって、魔術都市の空が、きらきらと、粒になった。


「耐えがたい者は、身分証を外しなさい。

 その瞬間、安らかな眠りが訪れる。

 君たちの命と心は、守られる」


 お母さんたちが、そっとぼくたちの胸元に手を伸ばしていた。

 誰も泣いてないのに、空気がしんとして、とさりとさりと、その場でみんな眠り込んでいく。


 でも、ぼくは……やっぱり、見たいと思った。


「でも……ぼく、見る」


 思わず口に出した。声は、まだ出た。

 お母さんの手が震えてた。その手を、ぼくはぎゅっと握った。

 

「少しだけ、ね」

 そう言ってくれた。その声が、ちょっとだけ泣きそうだった。


 空の天幕に、映像がゆらゆら揺れた。

 王都――そのまんなかにある、水晶宮。

 その周りを、黒くて大きな火竜たちが、ぐるぐると飛んでいた。

 でも、怖いって感じじゃなくて――うん、ちょっと、綺麗だった。


「……でも、火が美しいなんて、おかしいよね」


 ふと、となりを見た。

 さっきまでそこにいたお婆さんが、静かに眠っていた。

 たぶん、身分証を外したんだ。


 空から声がした。

 結界の光が、ぱしゃん、と水面みたいに揺れた。


「君たちはこの新都市に招かれた。

 選ばれた――というより、残された、と言う方が正確かもしれない」


 誰もしゃべらなかった。

 でも、きっと誰もが思った。


“じゃあ、残されたぼくたちは、どうすればいいの?”


 答えはない。それから僕たちはずっと考え続けている。


「けれど、見る者がいなければ、“記録”は意味を持たない。

 この国の、最後の証人として、どうか覚えていてほしい。

 それがどれほど辛く、口に出せないことだとしても――」


 水晶宮が、一瞬、光った。

 そのとき、伯父さん――王様の声が、ほんの少しだけ、寂しそうに聞こえた。


 少し間をあけて、王様が最後の言葉を言った。


「古より王国を支えし、冬闇と黎明の竜の末裔たちよ。

 険しい道を課してしまったことを、深く詫びる。

 けれど、君たちはこの長い夜を越える為の灯火と希望の種だ。

 どうか、どうか――君たちの行き先に幸いと祝福を」


「……これは、我が身を裂いての願いだ」


 声が、少しだけ、震えた。


 そして、映像が動き出した。

 火竜たちが飛んで、燃えて、空が赤くなって――

 でも、ただ怖いんじゃなくて。

 火は、なんだか、すごく綺麗だった。


 火に包まれても、誰も叫ばなかった。

 剣を抜いて戦う人たちもいた。

 うずくまって眠るように終わる人もいた。

 火は終わった人から包んでいった。


 ひとつ、ひとつ、部屋が光って、切り離されていった。

 そこに人がいなければ、もうその部屋は“王国”じゃない。

 そうして、全部の部屋が静かに――終わった。


 そして、最後。

 ぱりん


 ――そんな音がした。

 硝子に似ていた。

 でも違った。

 あれは、“魔術の縁”が割れた音だった。


 水晶宮は、その瞬間、消えた。

 煙も、火のにおいも、残らなかった。


 ……でも、ぼくの中には、残った。


 語れない。思い出せない。

 だけど、火は確かに美しかった。

 だから、たぶん――忘れない。

  


 火が終わったあとの王都は、焼け跡の匂いと、煤に染まった空で満ちていた。


 広場に並べられた遺体は、皆、丁重に布で包まれていた。

 

 そこに並ぶのは、かつての氷香王国の王族たち、城に残った犠牲者たち。

 戦って倒れた者、火に巻かれた者、あるいは国――王族の名が刻まれた呪いによって命を絶たれた者。


 火は、人しか焼かなかった。

 

 だが、氷と冬の魔術を宿す品物たち――建築、森、生活の術式。

 それらは火の中で、容赦なく溶け、壊れた。

 水晶宮の裏にあった禁忌の森も、氷香王国の魂のような土地も、音もなく燃え、消えた。


 かの地は、人ならぬもの、隣人たちが多く住む土地だった。

 彼らの怒りは、火を放った篝海へと向けられ、長きにわたり癒えることはなかった。

 火そのものよりも、その"喪失"が、深く、静かに人の記憶を蝕んでいった。


  新都市から戻った人々――抽選で選ばれ、魔術誓約で口外を禁じられた彼らは、互いの中でだけ語り合った。

 なぜだったのか、どうしてだったのか。

 語らずにはいられなかった。誰にも伝えられないからこそ、語らねばならなかった。


 ――僕も、そこにいた。


 灰色の空の下。母の手に引かれ、焼けた風の中を歩いていた。

 王の声が流れた。

 水晶宮が映された。

 燃え落ちる塔。黒く染まる人影。


 僕の目は、まだ小さかったけれど、あの景色をすべて捉えていた。

 言葉にならない何かが、胸の奥に染みこんできた。


 だけど、全てを見届ける前に、母の手が僕の身分証を外した。

 魔術が発動した。まぶたが重くなり、世界が遠ざかっていった。

 それでも、僕の中には確かに、あの光と熱が刻まれた。


 数日後、無意識に描いた絵は、“燃える水晶宮”だった。

 けれど、そこに美しさはなかった。

 僕の手は、あの火に届かなかった。

 どんなに描いても、追いつけなかった。


 だから、筆を置いた。

 火を描くのではなく、火と生きることに決めた。

 パンを焼いた。

 

 街の人々の、腹と心を癒やすために。


 城下町も、かつての面影をすべては取り戻せなかった。

 焼け落ちた屋根、砕けた壁。壊れた道。

 命令を超えて暴れた兵たちの爪痕も残っていた。

 それでも、氷香の人々は立ち上がった。


 灰の中から、言葉を交わし、祈りを結び合った。

 あの日、焼かれたものの中に、確かに「これから」が残っていた。


 国の名前は変わった。

 氷香は統一国家の六花の一つとして、「氷香領」となった。


 けれど、僕の中では、あの夜の火がまだ消えていない。

 忘れない。

 燃えた水晶宮のことも。

 その火を胸に、焼いたパンの温もりも。

 あの夜から始まった、僕という人間の形も。


 それは誰にも言えない僕の秘密の話。

 

  


 王宮が檻になり、北の都が火に呑まれ、殺戮と略奪の厄災の嵐に晒された同じ日。

 二つの都も壊れ飲み込まれた。

 四つの血が流れ、千の旗がすべて一つに畳まれた。

 誇りも、誓いも、歴史も、――すべて潰えた。 

 だがその旗の裏に積まれた命の山を、誰も語らなかった。

 

 すべてを失って、それでも歩みを止めなかった男がいた。

 故国すら踏み潰し、名もなき子らを泣かせて、それでも彼は……旗を掲げた。

 

 統一王と呼ばれたオーバーノートは母国を潰し、新興国『六花王国』を興す。

 かの国は、大国深森皇国、砂海帝国と、それぞれの更に周辺諸国、星塩連邦、帆船共和国など──と親交を結んだ。


 新興国設立の晴れやかなる式典には、そのすべてを招いた。 

 祝宴では剣を交える親善試合が催され、笑いと喝采が天を衝いた。

 かの国は、かつて敵国だった深森、砂海とさえ杯を交わし──あまつさえ、帆船の国も笑っていた。

 

 だが、その王宮に満ちる歓声とは裏腹に、ノートの私生活はゆっくりと、けれど確実に呪いと怨嗟に蝕まれていった。

 


 火竜スルツェは、己が芯の存在を喪った。

『何故……ルカを私が殺さねばならなかったのか』

 噴火するように飛び上がり、自由に空を駆ることもなくなった。

 ただ地を這い、呻き、空を見上げる日々。

 

 それでも彼は、一度としてノートを咎めなかった。

 炎のない瞳でただ見ていた。

 その沈黙こそが、火竜の絶望だった。

 

 あの日から、彼は何度も胸に爪を立てた。

 その名を噛みしめるたびに、喉の奥が焼けた。

 火竜の声は、もう空を焦がすこともできなかった。

 

 うずくまる庭に咲き乱れる花は、いつか見た花によく似ていた。

『深海に花はあまりないんだ。花をひとつくれないか?』

『これでいいか?』『白いな』

『雪割花という。この辺りでは春を呼ぶ花だ』

 ――もう、春は来ない。

 

 

 将軍メイは、国が安定を見せた頃合いに。

『もう、お前の剣は要らない』

 その瞬間、メイは言葉なく、ただ背を向けた。ひと振りの剣すら礼に残さず。

 そして二度と、ノートの名を口にすることはなかった。


 ドゥール達は遊牧民の生活へと戻った。小競り合いで稼ぎを得、笑いながら暮らした。

 焚火の夜にノートの名が上がることは二度と無かった。

 

 そしてノート。

 火竜の守りで呪いや怨嗟は直接の害は防がれた。

 だからこそ、身を食い荒らさない害こそが蔓延った。 

 孤独と呪詛、怨嗟に喰われながらも、王としての務めだけは、決して投げ出さなかった。

 

 息子アンダンテに国を託すために、日々、法を整え、体制を見直し、未来を創った。

 痩せ細った指が筆を持ち、夜ごと書類に赤を入れるその姿は、どこか必死で、どこか哀しかった。


 そんなある日──

 長きにわたり彼の心臓を護っていた火竜スルツェが、ついに魔術に還った。

 その身を灯す魔術を全て失い、静かに空へと昇った。

 翼を広げたその姿は、まるで宙に咲いた花のようだった。

 そして、ひとひらの光となり、王の胸を守っていた心臓の上で──消えた。


 その瞬間、空気が凍った。

 王の心臓に巣くっていた呪詛が、一斉に牙を剥いた。

 まるで、何千年も飢えていた獣のように。

 

 守り手を失い、積み重ねられていた呪詛が、怨嗟が、堰を切ったようにノートを襲った。

 その身は嵐に翻弄される木の葉のように、彼は怨みに飲まれた。

 痛み、苦しみ、吐き気、絶叫、幻聴幻覚。

 

 雪月の書斎の椅子に座った母が、毒杯を掲げて笑っていた。

 子を誇るように、指を差しながら。

『結局あんたもすべて潰して王になるんじゃないか。

 ねぇ、見せておくれよ。

 あんたの息子の死に様を』


 ──昔、火を囲んでメイやドゥールと笑った夜。

 幼いアンダンテがパンケーキを食べて「……美味い」と言った朝。

 そのすべてが、呪いの中でナイフのように胸を裂いた。

 

 およそ思いつくすべての妄想が襲い、刻み込む。


 最期の瞬間。

 命にまつわる“人ならぬもの”の呪いが、彼の心臓をざくりと刈り取った。


 薄れる意識の中。

 天象儀の夜からずっと懐で眠っていた小さな獣、“風向き”のレントが、階位を上げ、持てるすべての力を出して少女の姿で現れた。

 ノートを優しく抱きしめ、告げた。


「僕は風だ。あれから懐で眠っていたけど、ずっと見ていたよ」

「だから知ってる。君がどれだけ、愛を諦めなかったか」

「君が流した涙が、次の時代を育てるって、僕は信じてるよ」

「だから──これは君だけの特別な追い風」

 

「内緒だよ?いつか、どこかで起きる──未来の日常の光景を」


 主と共に消えゆくレントはその額にそっと口づけた。 

 命が尽きる寸前、ノートの脳裏に浮かんだのは未来の欠片だった。


 アンダンテが立派に国を治め、羊飼いのように、気ままなようで、誰よりも繊細に人々を包む王となった姿。

 その手で築かれた国は、少し風変わりで、けれど温かく、豊かだった。

 

 緩衝地帯を設けたことで増える砂海の企みも、形を失ったからこそ巧妙化していく深森の謀も絶えることはない。 

 未来には、まだ戦火の影が差していた。

 それでも彼らは歩き出していた──希望の種子の灯火を頼りに。



 そしてもう一つ。

 何度も通ったあの書斎。

 古びた魔術書に目を輝かせる、雪月に似た横顔。

 

 それだけで、未来は温かかった。

 

 そこには人ならぬものたち、変わり者たちが笑い合い、静かな日常を謳歌していた。


 ──どこにも、あの呪われた歴史書の気配はなかった。

 


「よかった」

 風が吹く。

 安堵と共に閉じかけた瞼の向こうで──声がした。


 

「おい、放浪者。また居眠りか?」

 

 ──目を開けると、そこは白い花びらが舞い散る大樹の下。

 雪月と向かい合い、遊戯盤を挟んでいた。


 雪月は、記憶の中よりもずっと年老いていた。

 目尻の皺が深く、瞳の奥には優しさと寂しさが交じり合っていた。

 見下ろせば、自分の手もまた、皺だらけの爺のものだった。


「まだ前回の盤面で勝ったつもりじゃないだろうな?」

「うるせぇ。夢の中で五回勝った」

「じゃあ夢の中で続けてこい。

 こちとら孫に嫌われる覚悟で来てるんだ」


「雪月……ひ孫が来たぞ。相手しなくていいのか?」


「なんだと?! うちの末のひ孫は可愛いんだ。

 みんなが嫌がる遊戯盤の相手をすると約束をしてくれたぞ。

 だから……放浪者、すまない」


「はいはい、どくよ」


「レトロ一家も来たな。末のひ孫達と仲が良すぎて嫉妬しそうだ。

 ……ああ、そうだ。

 姉の方がいたく気に入っていたようだから、その子、触らせてやってくれ」


「あの子ならレントも安心だろう。彼女がいいならいいが……あの子の伴侶が嫌がるんじゃないか?

 お、うちの孫も来たな。メイもドゥールも用事はどうした、物好きな。 

 孫よ……彼が同性だとそろそろ気づいてもいいと思うんだが。

 

 ……――ははっ、まさかこんな日が来るなんてな」


「何言ってるんだ。毎年の恒例行事だろ?

 ……そろそろまた、イロモノ企画入れないと、マンネリだと叱られるぞ」


 ため息をつく雪月に、放浪者は笑って、肩を叩いた。


  ──風が、優しく吹いた。

 すべては、また風に芽吹く。


 呪われた旗の下にも、

 名もなき種子は、そっと芽を出していた。


 

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