本を積む(つよつよ少女編)
「また、何のハードカバーを並べている?」
「えー最近、並べてないかなと思って。まあ、積むんだからいいけど」
「威圧感あるこれなに?」
「赤毛のアン 完訳 シリーズ(全10巻)セット。講談社から出ていた。小学生の私が誕生日に二冊ずつ買っていき、出来上がった塔です!」
「……そんなにあるんだ?」
「あるんだよ。当時で、一冊2000円くらいした。
参考として、日帰りクエストが500円でおつりがくる時代。当時、110円の缶ジュース買えた、と思うたぶん」
「いきなり神坂一いれないでくれないか」
「いやー、あれより安い本買った記憶がないので、つい。
スレイヤーズより短くて、作者の風味は十分味わえるいい本です!」
「でも、あれさ」
「ん?」
「……なんでもない。
とりあえず、赤毛のアンが長いのも高かったのも揃えたのもわかった。で、なんで出してきた」
「実家整理で出てきた。
なつかしーというのと最近お見かけしたので」
「どこで」
「格ゲーで」
「……なにそれ」
「いや、ほら、アンって強い少女だから、強キャラ感ある。ちゃんとアンらしい必殺技が出てくる。まあ私が見たのは動画で現物じゃないんだけど」
「……まあ、なんかわかるよ。
ギルバートの頭を石板で叩く女として有名だし」
「にんじんなんて言うから悪いんです。あと石板、だったっけ? なんか、こう黒板みたいな? ブラックボードみたいな? 感じのものなんだけど、と改めて調べたらやっぱり石板って書いてある」
「そして、豪快に割れてるアニメ版」
「ですねぇ……出血しそうな勢い。
さて、赤毛のアンというのは、男の子と間違われてもらわれてきた女の子アンが紆余曲折ありながらも成長し、ついに教師を目指していくような話なのだが」
「ふむ。まじめな感じの?」
「夢見がちで色々やらかしながらも、たくましく成長していきます。川流れとかな」
「……川流れって何」
「友達と劇をやっていて船に乗ってながされるというシーンがございまして、記憶の中ではオフィーリアごっこだったけど、確認したら違った。
エレーン姫の話だった。誰それ、と思った。アーサー王関係らしいと今頃知る」
「その人も川流れすんの?」
「するの。なお、また、お前かランスロット案件」
「またやらかしてぇ……」
「ほんとにな……。
まあ、それはさておこうか。そっちはあまり詳しくない。ただ、この時代の女の子が普通にアーサー王とか知ってるし、真似をするくらいにはメジャーなんだ? という感じはした」
「地元の話ってわけでもないから意外だね。
プリンスエドワード島ってカナダだったよね?」
「そう。行ける聖地。いつかはいきたいものです。
同作者の同プリンスエドワード島の話でアボンリーへの道というものもあってだね、そっちの主人公もやる女です!」
「……モンゴメリーさん?」
「考えてみればマリラやリンド夫人とかもな、やさしく強い女であるので、アンどころかダイアナもそうなるに違いないと……」
「やめるんだ。ダイアナは可憐な美少女だ」
「えー、意外とダイアナも結構やる女であったりしますけども」
「まさか、どこぞの源の人みたいな?」
「や、そこまでは……。でも、アンの書いた話が賞に落選したと落ち込んでいたから懸賞のかかっている賞に送ってしまう行動力はすごいなと。なんかベーキングパウダーで赤毛のアンと思い出すことに……。おそらく少数派でしょう」
「刷り込み怖い」
「ねー」
「ところで、今回は赤毛のアンですべて終わる予定なのか?」
「赤毛のアンで埋めてもいいんだけど、ほら、このジャンルでは門前の小僧以前なので! このくらいで。赤毛のアン、すごい好きだけど、専門家でもないので突っ込まれた痛いところがいっぱいあるのよ……。
では、ほかのつよつよ少女もご紹介いたしましょう!」
「……いるんか」
「秘密の花園よりメアリーさんに来ていただこうと思います。
両親が亡くなっていて、使用人もいない屋敷に一人残っていて、泣きもしない豪胆少女です!」
「お、おぅ」
「身内がいなくなったので親戚の家に引き取られます。ムーアの荒野があるお屋敷。ちなみにムーアがすでに荒野という意味っぽいので、二重表現になっておりますがご了承ください。なんか言いたいのよムーアの荒野。
イギリス感がひしひしとしますなぁ。行きてぇ」
「まあ、イギリス聖地がありすぎて、行くだけで幸せになれそうだもんなぁ」
「順当にシャーロックホームズからはじまり、レディ・ヴィクトリアンを経由し、ヘルシングに寄り道し……なにで終わればいんだろうか。コナン?」
「ビックベンの前で一人待ちぼうけになりそうだが」
「寂しいこというなよ。きっとツアーだぜ」
「個人旅行できない程度のかわいそうな英語力が、かわいそうだぜ」
「……鳴くぞ」
「どうぞ」
「たぬたぬ」
「……ほんと、いつかそのネタわかる人に会えるんかね?」
「さあ?
それはさておき、秘密の花園に戻りましょう。メアリーが引き取られたお屋敷は行ってはいけない場所がありました。傲岸不遜少女のメアリーはそこをさがします! 隠されたお庭の鍵を発見。そこからお庭の再生をはかるのでした。
あの天元突破してそうなプライドの高さが、いいと思います! ツン全開。
でも、一緒に庭のお世話をしてくれるメアリーの世話役のマーサの弟、ディコンにはデレる。かなり、速攻デレる。代わりに従兄弟のコリンにはなかなかデレない」
「最終的にはデレる?」
「デレるんだけど、やっぱり個人的にはディコン推し。聖人なの? 君? という感じでね」
「こう聞くとあまり怖そうなお嬢さまではない?」
「怖くはないよー、なんか、こう、私にできないことがあると思ってんの? という感じがあるだけで」
「……あー……」
「そのうち、飴と鞭使い始めるところとかやりおるという感じで。
さて、次のお嬢様をご紹介したいんですが、ちょいと年代が上がってしまうんですな」
「どのくらい?」
「彼女たちが10代前半ならば、後半って感じ。大人になりかけ」
「ほうほう」
「若草物語から、ジョーことジョセフィン嬢。
あしながおじさんから、ジュディ・アボット嬢。
どちらも、アメリカのお嬢さん。年代は違うがけど」
「ふむ」
「他、傲慢と偏見のエリザベス嬢も考えたけど、彼女の場合は少女というより女性な感じがして今回外しました。スカーレットも、やっぱり大人な感じがしたので、こちらも外した。あの人たちなんか女傑だね! と思いました。
それから、長靴下のピッピも考えたけど、なにか、違う、ですよ。
大草原の小さな家も……」
「無限に出てくる?」
「出てきません。
他、アリスはアリスというジャンルだし、ハイジも違うし、というかヘイジが頭をよぎっていくし」
「さらっと執事突っ込むな」
「(スルーして)ハリーポッターのハーマイオニーもなんかこうニュアンスがっ! あの子は最強魔女なので普通の女の子カテゴリにいれたくないというか、いやでも普通の女の子だけど。うむむ」
「で、話し戻そうか」
「はっ。
そうですね。ジョーは、四人姉妹の次女、お父様がいない間の家を守るのは私だ!と思っているかっこいい系女子。お隣に住んでいる男の子とも仲良くなったりしながら、日々を過ごしていくのです。
で、ある日、お父様が危篤になったと連絡があり、母が不在に。妹も病気に! と大変なことになっていくわけですよ。
私がえぇ!?と思ったのはお隣さんとの関係がアレであれしちゃうことなんですが、さすがにネタバレが過ぎると自重します。しかもそれ書いてあるの続編の方だった」
「どこら辺が強い感じの?」
「一本気っていうんですかな。芯が通ったようなところかな。
まあ、頑固ともいえるとこもあったりするけど」
「先の二人よりは大人しめ?」
「当時、それやったらどうなのよ、ということしてるのでそうでもない」
「……おぅ。
そ、それなら、ジュディさんはどうですかな」
「そーだなー、坊ちゃんが徐々にジュディに落ちていくさまが……」
「つよつよ少女は」
「おっと。孤児院に捨てられていたジュディ、孤児院を出る年齢になっても進路が決まってない。そんなところで大学に行ってはどうか、支援するというあしながおじさんが出現。学費及び、お小遣いもくれる代わりに要求したのはお手紙。というところから始まる、手紙形式の大学生活とラブです。
なお、続編もありまして、そっちはジュディと寮が同室の友人サリーが主役で偏屈な医者とのラブがね、ぐふふふ」
「……性癖直撃か」
「喧嘩ラブなやつです。はい。いがみ合うのにいつの間にか認め合っちゃうやつです。おすすめです。わたし、お嬢様のその後も気になっているのだけどそっちの続編はないと思う。たぶん。くっ。ツンデレがいいのにっ!」
「……さて、つよつよポイントを」
「あ、うん。
ブラックユーモアが過ぎる。生き生きとこき下ろしたりする。たのしい。絹の靴下を自慢されて、くやしいと手紙を書いて、じゃあ、追加のお小遣いで買いなよとくれるあしながおじさんいい人。
そのあと、自慢してきた子のところでこれ見よがしに見せに行く」
「わりと良い性格してる」
「そう。もし、アンが引き取られなかったらこうなったかなという感じもする。
孤児院育ち、文才アリ、勉強したいタイプと類似点はなくもない」
「そうだね。でもメアリーはきっとジョーにはならない」
「メアリーはきっとダナティア殿下になるんよ……。
あたくしを誰だと思ってるの、とか言いだす。きっと大人になっても言う」
「あなたも一人、心の中に殿下を」
「勝てるまで挑む根性が生まれるかもしれない……。というか、私、アン一人で十分です。理不尽な目にあうヒロイン書くと後ろでアンがやったれーとか言うからうちのヒロインはきっとああなんです」
「すごい言いわけ……」
「ですが、こう、刷り込みが」
「清純華憐なヒロイン様はうちには来そうにありませんな……」
「残念です」
うちのトラップだらけのヒロインをよろしく!
迂闊に触ると嚙みつくぜ!