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ごった煮短編集  作者: 桐山じゃろ
9/21

静かなお節介

 こつこつ、こつ、こつこつ、こつ。


 ここは学生向けアパートの二階、三つあるうちの真ん中の部屋だ。

 三部屋ずつの三階建て、つまり九部屋のど真ん中が我が根城である。

 先程の「こつこつ」という音は、毎日この時間――午前一時になると、どこかの部屋から聞こえてくる音だ。

 何度も方向の特定を試みたが、全て失敗に終わっている。


 こつこつ、こつ、こつこつ、こつ。


 はじまると、一時間はずっと鳴っている。

 午前一時はまだ起きている時間とはいえ、勉強のために起きているのであって、この大きすぎず小さすぎない、不定期に一時間以上も鳴り続ける音は、正直鬱陶しい。

 大家に言ったこともあるが、全部屋に一度注意を促しただけで、音は止まらなかった。


 こつこつ、こつ、こつこつ、こつ。


 初めて聞いたときはモールス信号を連想して調べたが、当てはめると「IEIE」となった。いえいえ。謙遜している場合か。ますます意味がわからない。

 それに何か硬いもの同士をぶつけている音だから、長音を出せない。つまりモールス信号としては成り立たない。

 一度、暗号解読が得意な奴を部屋に連れてきたこともあったが、そいつがいるときに限って鳴らない。

 後で聞かせようと録音をスタンバイしていても鳴らない。

 じゃあ常に録音してやるぞと構えていれば鳴らないのかと試した。音は三日間鳴らずこの作戦は成功したかに思えたが、四日目から結局復活した。しかも何度やっても録音できなかった。


 こつこつ、こつ、こつこつ、こつ。


 五月蝿い! と怒鳴り声をあげたり、上下左右に壁床天井ドンをしてみたり、鳴っているときに他の八部屋全てに文句をつけにも行った。どれも効果はなかったし、他の部屋の住人からは奇人変人扱いされるようになった。


 こつこつ、こつ、こつこつ、こつ。


 今夜も勉強が捗らない。幸い私は、寝付きのよい(たち)で、眠りから起こされる音量ではない。

 鳴り始めたらその日のノルマが途中でも一旦寝ることにした。

 そして朝早めに起きて、残りをささっと片付けるようになった。



 勉強を朝型にしてから、体調が良くなった。

 夜も例の音が聞こえる前に寝るようにしたため、昼休みを昼寝にあてなくても眠くなりにくくなった。

 耳にさえしなければ、気にすることではない。

 どうしてもっと早く気付けなかったのか。




 こつこつ、こつ、こつこつ、こつ。


 四年間の大学生活が終わり、今日は引っ越しの日だ。

 真っ昼間だというのに、あの音が鳴った。

 正体不明の迷惑な音ではあったが、あの音のお陰で良い成績を残せた面もある。


 小声で、ありがとう、と言ってみた。


 こつこつ、こつ、こつこつ、こつ。


 それきり、音を聞くことはなかった。

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