表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごった煮短編集  作者: 桐山じゃろ
6/21

あの日見た焼き鳥屋(※)

 俺が小学生のとき住んでいたところはど田舎だった。

 テレビやラジオはあったが、車はそれほど走ってねぇし、バスも数時間に一本だ。

 学校の行き帰りに寄れる場所なんてなくて、ずっと田んぼと畑と、やたらでかい民家が数件あるだけ。


 そんな通学路に、ある日突然焼き鳥屋の屋台が現れた。


 その日はたまたま、友達と喧嘩して一人で帰っていたから、焼き鳥屋があるという感動を伝える相手がおらず、もどかしかったのをよく覚えている。


 親からは「何かあったときのために」と千円札を持たされていた。

 その千円札を握りしめて、焼き鳥屋の前に立った。


 皮、砂肝、もも、むね、つくね、手羽先、ぼんじり……屋台の上には所狭しと様々な焼き鳥がいい香りをさせていた。

 屋台を挟んで向こう側では、白いタオルを鉢巻き代わりに巻いた父親位の年齢のおじさんが、まだまだ焼き鳥を焼いている。


 今なら、こんな小学生くらいしか通らない場所で屋台を構えていたって、儲からないだろうと訝しむところだが、俺は「学校帰りの買い食い」という少し後ろめたい気分で高揚していて、気にならなかった。


 焼き鳥は全て一本百円で、俺は焼き鳥を隅から隅までチェックして、買うものを吟味した。

 千円あるが、十本買っても食べ切れないだろうし、あまり食べ過ぎると晩ごはんが入らなくなり、おかんに買い食いがバレる。


 ふと、端の方に馴染みのない串が並んでいた。


 他の焼き鳥は炭火で焼いてあってこんがり黒茶色なのだが、それだけは生々しいピンク色をしていた。


 札には「たかなし」と書いてあった。


 小鳥遊(たかなし)は、今日学校で喧嘩した友人だ。


 普段からいばりんぼうで、何か気に入らないことがあるとすぐに人に手を出す奴だ。

 今日は俺が給食で余ったデザート争奪戦ジャンケンに勝ち、ホクホクしていたところへ、それをよこせと無理やり奪おうとしてきた。

 先生が止めてくれたが、デザートのカップゼリーは手から滑り落ち、揉めている間に踏みしだかれて食べられない状態になってしまった。


「おじさん、これ、何?」

「書いてあるとおりだよ」

「え……でも」

 おじさんはおもむろに「たかなし」を手に取ると、串から毟り取るようにピンクの塊を食いちぎり、むしゃむしゃと咀嚼して嚥下した。

「こいつはたまには仕置してやらんといかんでな」

「じゃあ、それひとつ」

「毎度」


 俺は「たかなし」を買い、家へ向かって歩きながら、ピンクの塊を口にした。

 とてもおいしかった。



 次の日、学校へ行くと先生がいつもの時間にやってこず、授業が始まる時間を三十分以上過ぎてから、青い顔して教室へ入ってきた。

「小鳥遊君が大怪我をして、入院している。犯人が近くにうろついているかもしれないから、今日からしばらく登下校に先生が付き添います」

 そういえば今朝から小鳥遊の姿を見ていなかった。



 あの日以来、例の焼き鳥屋を見ていない。

 俺が口にしたものは何だったのか、あまり考えたくない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ