表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごった煮短編集  作者: 桐山じゃろ
3/21

明日、世界が(※)

 四月。

 俺は高校受験に失敗して、同じように受験に敗北した者たちが淀む底辺高校に入学した。

 入学して三日だというのに、クラスメイトの半数以上が朝から居ない。

 残りの半分のうちの殆ども、他に居場所がないから仕方なく来ている。

 ちゃんと授業を受ける俺のような人間は少数派どころか、俺一人だ。


 そんな変わり者の俺には、変わり者が寄ってきた。


 俺の右隣の席の奴は入学の日以外、来ているのを見たことがない。

 それをいいことに、そいつはその席に陣取って、毎朝俺に同じことを囁いてくる。


「明日、世界が滅ぶんだって」


 受験戦争でイカれたか、元からイカれていたのか。どっちでも似たようなものだ。

 俺は毎朝聞かされる戯言を無視して、一限目の教科のテキストを机に並べる。

 そいつは俺のそんな様子に笑みを浮かべて、隣の席に一日中居座った。



 五月。

 初めての定期テストが終わり、毎日登校する人数が更なる半減期を迎えた頃。

 そいつは飽きもせず、毎朝、同じことを囁く。


「明日、世界が滅ぶんだって」


 定期テストの結果、俺は学年一位を取った。

 一等賞なんて、小学校のかけっこ以来だ。

 浮かれていた俺は、初めてそいつに問いかけた。


「どうして、そんなことを言うんだ?」


 そいつはいつも浮かべている笑みを更に深めて、俺の前の席へ座り、俺の方へ首をぐるりと回転させた。


「ぼくの第六感がそう告げてるんだ」


 聞いた俺が馬鹿だった。

 第六感なんてものを持っているなら、こんな底辺高校ではなく、もっと良い高校に通えたんじゃないのか。


 俺の考えを見透かしたように、そいつは続けた。


「残念ながら、勉強には使えないんだ」

「そいつは難儀だな」


 この高校へ来て教師以外との初めてのまともな会話を、いかれた奴と交わした。



 六月。

 雨が硫黄の臭いを垂れ流して、気分が悪い。

 空はずっと黄色くて、たまに赤い。最後に青い空を見たのはいつだったか。


 俺は今日もちゃんと登校した。

 自分の席に座り、チャイムが鳴る前に授業の準備をする。


 いくら待っても、教師は来ないのだが。


 そいつは今日も俺の隣に座り、同じ台詞を吐く。


「明日、世界が滅ぶんだって」

「そうだといいな」


 こんな時に学校に来る俺が一番、いかれている。



 七月。

 朝起きたら両親が天井からぶら下がっていた。

 昨夜、一緒に行かないかという両親の誘いを断った。


 俺だって、もう終わりにしたい。

 だけど、まだ、なにか、あるんじゃないか。もう一度、なんとかなるんじゃないか。

 錆色の空を見上げても尚、俺は生にすがりついた。


 学校にはもう、俺とそいつしか来ていない。


 朝の挨拶がわりの台詞を聞く前に、俺は問いかけた。


「なあ、世界はいつ、ちゃんと滅ぶんだ?」


 そいつはにっこりと笑顔を浮かべて、手を差し出した。


 その手を、取った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ