86.エンディング
無限の神を撃ち破ったとしても大きな変化は訪れなかった。精々が少し便利になったかと思うくらいだ。
新たなコンテンツが追加されたと言えど、コロッセオに戻ってきた私からすればそれらは触れる機会の少ないものであった。
迷宮への挑戦はしないだろう。もしかすれば心変わりがあるかもしれないが、現状ではあそこよりもコロッセオの方が楽しく過ごせることに間違いない。
コロッセオに追加された新モードのうち、バトルロイヤルについては何度か試してみた。
あれは面白いものだ。
即席の連携、裏切り、外的要因の介入は勝負をより複雑なものへと変え、想像外の結末へと導くことも多々あった。これが良い。
タイマンの緊張感も好ましいが、先の読めない緊迫感もまた好ましい。
……パーティモードについては分からない。ソロなので。……ソロなので!
「やあゼンザイ! 久しぶりだね!」
ツバメと会うのは最後に試合をして以来になるから三ヶ月半ぶりくらいになるか。随分と長く間が空いてしまった。
「それはほら、ログイン出来てなかったからね。久々に来てみれば色々と様変わりしていてびっくりしたよ!」
彼は現実で手術をしたのだと言う。最後に会った頃は手術日が近くてナイーヴになっていた時期だったとか。
聞けば結構な大手術であったらしく、今もリハビリテーションの最中だそうだ。
「いやでも身体が軽くなったよ! あ、内臓が無いから物理的に軽くなってたや、あはは!」
「笑えないが?」
以前よりもジョークが笑えない。
こいつ、現実で剣が振れなくなるからと荒れていたくせに。
憮然としていると、ツバメが柔らかく笑って言った。
「でも感謝しているんだ。戻る場所があるのは良いよね」
「なんだい、急に。まさか死にはしないだろうねえ」
「二ヶ月前ならともかく、今は大丈夫さ!」
しばらく笑い合った後に、ツバメの空気が切り替わった。
さて、そう言って彼が主題を切り出す。と言ってもその内容には察しがついていた。
私たち二人となれば、これがメインとなるのがお決まりであったからだ。
「快癒祝いに一戦、お願いできるよね?」
「良いとも。ただ、負けてへこむのはよしておくれよ」
「言うじゃないか、たかだか一回勝ちを拾ったくらいで」
コロッセオで戦い、街に繰り出し美味しい食事をとる。時折、遠出をして、ゲームならではの景色を楽しむ。くだらないやり取りで笑い、ちょっとしたことをいじり合う。
子どものように、子どもよりも自由に。
大人としての振る舞いを忘れず、しかしおおらかに。
気の置けない友人たちと楽しく騒ぐ。
『──我らの箱庭にようこそ』
ここは楽園とまではいかないが、きっと楽しめるだろうと思うよ。
お付き合いいただきありがとうございました。
評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。




