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85.月光は常にともに在る


 気配が遍在していた。

 あらゆるところにアインソフの存在を感じ、警戒をしていたというのに。

 最後の最後でそれを怠った。


「がはっ!」


 抜き去られる刃。

 クリティカルヒットだった。

 無防備に受けた一撃は、過つことなく心の臓を貫き通し命脈を断ち切った。


 最大HPが減少していたことで一気に危険域まで削られたHPバーは、刃が抜かれても変わらず減り続けている。『出血』状態か。




 身体が前へと倒れいく。




 分身、ではないか。

 おそらくどちらも本体であった。要らなくなった服を脱ぎ捨てるように、老人のガワを囮に使ったのだ。そしてそれに引っかけられてしまった。


 ……あるいは、人形を操るようになっているのかもしれない。つまり、どちらも本体ではない可能性。

 こちらの方があり得るように思えた。

 遍在する気配が気にかかる。これが本体を隠蔽するための欺瞞であるとすれば……。




 地面が迫る。思考は止まらない。




 本体があるとすればどこにあるのか。

 森の中は不自然に静かなくせに気配に満ち満ちている。このどこかに隠れているとすれば、そう簡単に見つかりはしないだろう。

 だが森に隠れているのだろうか。


 ──アインソフはなりふり構わず目的を遂行しようとしている。


 そんな相手が、ある意味で正直な隠し方をするとはどうにも思えなかった。

 もっと捻くれた一手を打ってくるはず、という負の信頼がそこにあった。




 思考は止まらない。地面はもう眼前にあった。








 ♦️




 倒れた男を見下ろして、アインソフは安堵していた。


 結局気付かれることなく済んだが、老人に違和を抱いているようであったあの客人は侮りがたい者であった。早々に様子見を切り上げて森を生んだのも警戒ゆえだ。

 それは正しかった。

 背後からの一撃に客人の顔に浮かんだのは驚きの色ではなく失態を悔やむ色であり、もう少し時間を与えていれば見抜かれてしまっていたかもしれないと彼に恐怖を抱かせた。


 12番目の少女(スペアボディ)は手の中でナイフをもてあそぶ。悪くない感触であった。

 あの客人は初めての獲物としては上々の部類で、アインソフにしても達成感を得られる相手である。


 止めを刺そうと客人へ近付いていくと、倒れた男の指がわずかに動いた。

 形勢逆転を狙うか。微かに見えた反撃の兆しによく頑張るものだと関心すら抱く。

 アインソフとしては愉快なものであった。


 事ここに至っては逆転など起こり得ない。


 圧倒的優位に立ち、アインソフはようやく心の底から笑みを浮かべられた。

 されると分かった奇襲など恐れるようなことではない。

 返し手で仕留めてやろうと決め、ナイフを逆手に握り客人の脇にしゃがみこむ。


 ゼンザイは動かない。

 機会をうかがっているのか、それとも諦めたのか。

 アインソフは勝利を確信していた。

 他の客人たちも狩り終えて、目の前に転がるこの男を片付ければ、いよいよ虚無(アイン)を撃ち破りに行ける。


『さらばだ、お客人』

『我が箱庭から退場せよ』


 アインソフが背中目掛けてナイフを振り下ろす。

 突然、ゼンザイが横に転がった。

 ナイフが目標を捉え損ね、地面を穿つ。


『往生際の悪いっ、……っ!?』


 アインソフの背筋に悪寒が走る。

 視線がぶつかり合う。ゼンザイと正面から見つめ合い、その瞳に言い様のない恐ろしさを覚えたのだ。

 コンマ何秒かの硬直、それが明暗を分けた。

 出された足にアインソフは対応できず後ろへ蹴り倒される。


 起き上がる彼女の目に映ったのは、ゼンザイが勢いよく戦槌を放り投げる姿であった。

 それはアインソフにとって最も見たくないものだ。




 たったの一言。

 それだけで答えに辿り着かれてしまった。『我が箱庭から退場せよ』。そう高らかに宣告したことが仇となっていた。


「ここは箱庭さ。お前の中にある箱庭だ」


 ゼンザイは笑っていた。優位が覆ったことをアインソフに突きつけるように。


「空に空いた大穴なんて見たことが無いからねえ。ここが別世界だろうとはすぐに想像が出来たよ」


 虚無が覗くのはアインソフの心象を写したが故のこと。虚無自体は肉眼で捉えられない。

 それが見えるのは"ここ"が特別だからだ。


「妙な気配も、中身のないハリボテや本体を隠すためにされた小細工さ。その身体、何回も交換してきたのだろう?」


 10番目の身体までは既に廃棄されている。ダアトから尖兵として星に送り込んで。

 そう、王たちは皆アインソフの脱け殻だ。

 仮初の命、吹き込まれた思考、借り物の身体。

 全てが作りものの王はとうにアインソフの脳内から存在を抹消されてしまったが、彼らの全ては"ここ"から始まった。


「上か下か。二択にまでは絞ったが、答えを自分で教えてくれて助かったよ」


 ついと指差すその手につられて、アインソフは天を仰ぐ。間近に迫った終わりを予感しながら。


 輝きを放ち、戦槌が高々と飛ぶ。

 空を突き破らんと、ロケットのように。


『……っ、貴様ァ!!!』

「──ハハハッ! 月光は常にともに在る! 【餓えたる月夜(エンプティ・ムーン)開放(リリース)!!!」

『死ねぃ!』


 振り上げたナイフ、踏み込んだ右足。それらが目標に届くよりも先に、ゼンザイは悪夢の言葉を唱え終わる。


「【月光砲填(フルムーン)絶唱(メテオ・インパクト)】──!!」


 天上で戦槌が目映き光となって、刹那だけの月となった。


 月光が星々を消し去る。

 虚空を残して空は白に飲まれた。

 樹冠を貫き大地を照らした輝きは怪しげな気配の全てを焼き払い、それは少女の姿をしたアインソフの身体もまた同様である。

 本体の影響を多分に受けたそれは内側から膨れてひび割れ、ボロボロと崩れいく。


『そ、そんな……』


 漏れ出す白光は徐々に弱まっていくが、アインソフの崩壊はもはや止まらない。


『とまれ……!』

『とまれぇぇぇ!!!』


 まず指先が砕けた。次に耳が欠け、同時に肩から腕が落ちた。足首が割れて膝を支えられなくなり、自重に負けて前へと倒れる。




 叫びをあげながら、アインソフは白い粉の山となった。











《──『無限なるもの・アインソフ』を討伐しました。

第一央城アセイズムに神工衛星ダアトへの転移門が解放されます。使用条件は『虚栄王・エヘイエー』討伐です。》


《神工衛星ダアトに虚空門が出現します。"虚無大神迷宮・アイン"への挑戦が可能となります。》





《──World Announce!

・コロッセオに"パーティモード"が追加されます!

・コロッセオに"バトルロイヤル"が追加されます!

・『行商人バルバラン』が各街に来訪します。特別なアイテムを購入しましょう!

・『アーグリマ大サーカス』が第二の街に設営されます!

・『ネイステン教練場』が第三の街で開放されました!

・『ワマ新聞社』が第四の街で活動を始めます!

・『ホルホーニ・ミュージアム』が第五の街で開園します!

・『ペットショップ・マチ』が第六の街に開店します!

・『カジノ・サンダスタル』が第七の街で営業を開始します!

・『ブラストンバーレ大監獄』が第八の街で稼働を開始します!

・『ナバスト魔術開発』が第九の街に開店します!

・『秘密結社■■■■■』が第十の街で確認されました! ──》








ご覧いただきありがとうございます。

評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。



そろそろ終わりです




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