76.守りを捨てた蛮族
「──結局、効率が悪かろうとこの方法しか知らないのさ」
弾けて消え行くポリゴンに向けて、そう独り言つ。
コロッセオ。
私はここに戻ってきていた。
央室二十二家門への襲撃は、辛うじて成功と言えるラインに乗った。
央城深部への転移ルートは開通し、これでいつでもエヘイエーを討ち倒しに行くことが出来る。そう、行くことが出来るだけだ。
現時点で、プレイヤーがエヘイエーを倒せるとは思えない。
地力の問題だ。単純な力不足。
悲しいかな。中ボス相当だと思われる央室二十二家門の当主に勝てないのであれば、その上にいる大ボスを倒せる見込みなどありはしないのだ。
それは一部のプレイヤーたちでの共通認識となり、レベル上げへと意識を向かわせた。
勝てないことが分かりきっている相手に挑むのはね……。気が進まないものであるから。
今日だけで既に十を超える試合を終えた。心地よい気だるさが胸に居座っている。
ただ、これで終わりとはいかない。
もっと。もっと研鑽を積まねばならぬ。
長く続く道の半ばに立って呆けてなどいられない。私がそれを許容できない。
──また一人。頭蓋を戦槌でもって打ち砕く。
さて。反省するべきことは多々あれど、今回の気付きで恥じるべきはただ一つ。
ゲームだと笑いながらも、私は死を恐れていた。その一点だ。
傷つくのは怖いことで、戦うのは恐ろしいことで、死ぬのは寒心に堪えないことである。
その触れがたい一線にギリギリまで近づき、時には踏み外すのを楽しむのがゲームなはずだ。リアルには体験できない非現実を味わうのがゲーマーだったはずだ。
認めよう。
私はどこかで安全策を採っていた。
守りを固めて、逃げに徹していた。
それが悪いとは言わない。
でも気付いてしまった。このままではきっと満足できないだろうことに。
──曲刀を肩で受けながら、頸椎を叩き折る。
尖らせるべきだ。
今まで通りの私ではまだまだ温い。
もっと尖鋭化させて、特化した自分を組み上げる。
速さは捨てよう。
受けることを意識して、耐久を重視する。カウンターを狙ったりもしない。攻撃は全部食らう覚悟を決める。
その上で相手を捩じ伏せる。
技量も捨てよう。
小手先の技で対抗出来ようはずがないのだ。
ツバメのような腕前のない私が、中途半端に競おうとしたところで無駄にしかならない。
物理的な防御力も削り落とす。
三極振りでは甘かった。より極端な形を目指す。
死ななければ安いのだ。スキルを組み合わせて強引に生かし続ける。私はその答えを既に知っている。
──胸を刺され、腹を貫かれ、それでも倒れずに相手を殴り倒す。戦槌が骨を砕き、肉を潰す。
火力は筋力値で十分足りる。
倒れるまで殴り続ければ、いずれ相手は地に伏せるのだ。私に必要なのは先に倒れないだけの覚悟である。
伸ばすべきは精神力だ。
自動回復の量を底上げし、瀬死からでも蘇れるように。
生と死の反復横跳びを高速で繰り返す。それが私。死なないのではなく生き続ける。そのためにスキルのいくつかを入れ替えた。
大胆にリストラしたのは攻撃系のスキルだ。小回りが利くものを一つだけ残して、後は全てサヨナラバイバイである。
持化させていくことで強みが明確になりつつあった。
回復力のゴリ押しは単発高火力タイプに滅法強く、現在のコロッセオのトレンドは追い風となっている。
私のスタイルは持久戦を押し付けるものであるため、瞬間的な火力で負けていても継続的な面で拮抗、いや上回ることができるのだ。……掲示板でクソと罵られているところを見ると暗い悦びが湧き上がってくる。
──首を穿つ槍を押し込みながら間合いを殺し、一方的な殴打で相手を沈める。
筋力と信仰に振り直したわけで、そうとなると神官戦士として回帰したと言えるかもしれない。
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<名> ゼンザイ
<レベル> 97
<メイン職業> 浄罪官
<称号> スターゲイザー
<ステータス>
⚫STR【335】(+67)
⚫INT【10】
⚫VIT【150】(+30)
⚫MND【300】(+120)(+45)
⚫RES【200】(+30)
⚫DEX【40】
⚫AGI【40】
⚫LUC【10】
⚫保有強化値【0】
<スキル>
⚫【衝撃侵略】 ⚫【九死一勝】
⚫【月光装填】 ⚫【信仰の途】
⚫【月の腕】 ⚫【フル・パワフル】
⚫【絶死蛮行】 ⚫【アイアンボディ】
⚫【囁かれし祝福】 ⚫【虚心坦懐】
⚫【穢れ喰み】 ⚫【精神統一】
⚫【餓えたる月夜】 ⚫【免疫向上】
⚫【スターゲイザー】
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刻印スキルも便利であったが、これを機に外すこととした。それ以外もだいぶ様変わりをしている。
──切り裂かれるほどに、刺し貫かれるほどに回復量も速度も飛躍的に増していく。減った端から元に戻るHPバーは忙しそうだ。それを意に介さず、剣風に頬を切りつけられながら相手の胸へと戦槌を振り下ろす。
【衝撃侵略】。唯一残した攻撃スキルである。防御を無視して衝撃を伝播させる効果を変わらず持ち続けており、さらに蓄積値に応じて麻痺の状態異常を引き起こすようになった。牽制にも決め技にも使えて重宝している。
【月光装填】。月光エネルギーを肉体に貯蔵し、回復スキルの効果を増大させるスキルで、【月の腕】が常時月光エネルギーを発生させるためシナジーがある。
【絶死蛮行】は瀕死になる度にカウンターが置かれ、それを取り除くことで発動する。取り除かれたカウンターの数に応じてバフがかかる、格上相手への対抗策だ。
【囁かれし祝福】と【穢れ喰み】は状態異常への対策で、【餓えたる月夜】【九死一勝】【信仰の途】はこれまでと同じである。
──開幕と同時に戦槌を投げ放ち、距離をとろうとした弓使いに猛然と走る。腕を盾に射かけられた矢を受け止めながら、正面から詰め寄りこれを殴り倒した。
【スターゲイザー】は称号を得た時に手に入れたものだ。宙天特効というものを付与するこれは、一部のNPC相手に与えるダメージを増大させる。
残りの五つはステータスの補助だ。伸ばしたいところをさらにかさ増ししている。
──直撃した炎の塊が肌を焼く。しかし足を止めることなく最短距離を踏破した。すなわち、炎の中をである。高めた精神値の前では熱風程度に威力の落ち込んだそれを突っ切り、呆けた顔の魔法使いに容赦なく戦槌を振るう。
調子はすこぶる良い。以前よりもピーキーさを増した自身の肉体を、これまでと同じかそれ以上に上手く扱えていた。
逃げの一手を打たれれば対処に困るという明確な弱点はある。だが、その点は潔く諦めることにした。コロッセオまで来て鬼ごっこをするような奴はいないと信じることにしたのだ。
幸いなことにそんなプレイヤーと当たることはなかった。
そのままの勢いで目標までレベル上げを続けることとなる。
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