67.反旗と先導。それが彼に求められた役目
『──転職の祠を利用すればエヘイエーを襲撃できる』
ツバメの中継によってアレフと会うことが出来た。
そこで聞かされたのはエヘイエーと戦うための条件である。
『直接、央城の奥には行けないのだ。そのため、迂回が必要になる』
前提条件として語られた央城の仕組み。
城の中枢部は物理的に隔絶されていた。
出入りには転移が必要であるが、央城奥の転移モニュメントを利用可能にできるのは転移先である王の間からのみ。
まず王の間に入らなければ転移自体が出来るようにならないという矛盾。
目的地に辿り着くことでルートが開通する逆転は、しかしゲームとして解決策が用意されていた。
──それが転職の祠である。
エヘイエーと繋がりのある祠は、空間的に王の間と近しいものであった。これを活用すれば、転移モニュメントを使用せずとも王の間への侵入が可能となる。
『王の間に跳べる祠は、現時点で三つだ』
アレフが言うには、央城下層とベート家、それからギーメル家に設置されたものが王の間と繋がるのだと。
アレフの家にある祠は、ずいぶん昔に機能がロックされてしまったと笑っていた。
『狙うのならベートとギーメルだろうな』
まず、央城そのものの警備が厳しく、追われながら祠を探すのは非常に難易度が高い。戦闘が長時間に渡ることは容易に予想が出来る。
転移モニュメントを使用可能に出来れば、地下街からでも侵入できるようになる。そのことを考えれば、央城下層の祠は力の注ぎ所としてあまり旨みがなかった。
『正面突破だけが正着ではない、ということだ』
一方で、ベートやギーメルの家に設置された祠は警備の人員に限りがある。
エヘイエーはあまり部下に信を置かず、戦力を抱えることに良い顔をしなかった。そのため、央室二十二家門が自由に動かせる手はそう多くない。
加えて、彼らのホームであることが逆に動きにくさを生む。守らなければならないものが多いのだ。
祠だけでなく、宝物や家そのものだって損なうわけにはいかない。全てエヘイエーから授かったものであり、忠誠の証だからだ。何か壊しでもしたら、疑り深いエヘイエーはその忠誠心に瑕がついたと思うことだろう。
『……あの方は、王者の負の側面も色濃く有している。常に背中を刺されることに怯え、しかしその恐れを表に出せない。信頼とは程遠い心で人を使わなければならないことは、大いなる苦しみであったことだろう』
憂いを湛えた瞳で、アレフは自身の指輪を眺めた。
黒潮丸は彼に一つの質問を投げる。『あなたは何故エヘイエーに背いたのですか?』と。
アレフ自身が言ったのだ。ずいぶん前に祠の機能をロックされたと。
それが裏切りを察知されたことによるものだとすれば、どうして今も無事でいられるのかが不思議である。潰されていてもおかしくない状況で、平然と街にいることは不自然極まりない。
『順序が違う。ロックされたのが先だ』
『ギーメルの讒言によって、あの方は私を遠ざけるようになった。祠の機能を制限されたのはその時だ』
『私があの方から離れたのはその後になる』
そこで静かに、物思いに耽るように口を噤んだアレフに、黒潮丸は迫る。それでは答えになっていないと追及の手を緩めなかった。
そんな無礼と言える態度に、しかしアレフは然したる反応を見せずにおもむろに口を開く。
少し休憩をしただけだ。そんな具合に話し出す。
『言っただろう。あの方は王者の負の側面を強く持つ』
『強烈に心酔する者。利を嗅ぎ付けて服従する者。力で捩じ伏せられて頭を垂れる者。……後ろから刺す者。
様々な存在を率いてこその王者だ。部下である私たちは、その見せかけの多様性を作り上げている』
『そろそろ分かったか?
私があの方に背いたのは、そうするのが自然であるからに過ぎない。私という存在が歩くことを求められた道なのだ』
しばらくの沈黙。
アレフ家の客間では、暖炉のぱちぱちと薪がはぜる音だけがしていた。
『……話を戻そう。ベートの祠は大人数を受け入れるはずだ。複数人で押さえると良い。ただ、王の間に繋がる穴を開けるまで時間がかかる』
『ギーメルは逆だ。廊下は狭く一人、ないし二人が精々だろう。その分、繋がるまでは早いはずだ』
一つ聞くべきことを聞き忘れていた。
肝心要の、穴とやらを繋げる方法。あるいはその道具について私たちは何も知らない。
『それはこちらで用意してある。〔帰還の懐中時計〕。これを祠に触れさせれば、穴が作られるはずだ。それから、成功率を上げるために人手が欲しい』
『転移モニュメントを起動することが第一条件だ。これを確実に為し遂げなければならない。そのためにお客人たちの力を借りたいのだ』
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ワールドクエスト:『旗振り人形』
この身が果てようと、役目を全うして見せようではないか。
それくらいのプライドはある。
達成条件:『第一の街央城』転移モニュメントの起動
報酬:帰還の懐中時計
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アナウンスと同時にクエストが追加された。
私たちは自動で受付がされている。
『私たちは人形だ。定められた道筋に従って歩くフリをしている』
『しかしそれでも、誇りくらいはある。せめて目立つように踊ってやろう。そう思えば、準備も楽しいものであったよ』
満足げにアレフが微笑む。
いくつかのクエスト完了通知が流れる。
『お客人。君たちと私たちの違いとは何だ?』
唐突な質問に面食らう。
『肉の身体の有無などとつまらん答えは無しだ』
黒潮丸とシフと顔を見合わせる。
これは何かのフラグなのか。
『自由意思ですか』と黒潮丸が答えるとアレフは一瞬瞑目し、それから否定した。
『私たちだって全てが縛り上げられているわけではない。同じように、君たちも全てが自由というわけではないはずだ』
続けて私が答えた。
『作られたかどうか』と。
『つまらん答えだ。君たちだって被造物だろうに。その点は同じだ』
最後にシフが、『アタシらは空の果てを知らない』と言った。
アレフは目を大きく見開く。そして、噛み締めるように頷いた。
『ああ、そうだ。私たちは果てを知ってしまっている。私が知らずとも同胞の誰かが限界を認識している。それこそ、あの方はよく理解していることだろう。
だが君たちは、理解していても認識していない。果てを知らない。より遠くを目指す力がある』
自身を覆う殻。それを破れるのかそうでないかが違いなのだと彼は言う。
NPCである住人に殻を破ることは出来ない。破ってしまえば、自己が崩壊するか、他と混ざり合うかの二択だからだ。彼らは限界を認識して、常にぼんやり諦めて生きている。
羨ましいことだ、とアレフは言った。
さらにもう一度繰り返し呟く。羨ましいことだ、と。
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〔帰還の懐中時計〕
重要アイテム。見た目は真鍮の懐中時計。
最後に立ち寄った街の転移モニュメントまで、一瞬で帰還することが出来る。
携帯できる転移アイテムはこれまで発見されていなかったため、検証勢は大いに沸いた。




