7.いずれ役立つことを夢に見て
コロッセオデビューを勝利で飾った後。私は入り口のホールに戻されていた。
ふっと景色が切り替わるとホールの端のモニュメント脇に立っていたのだ。
あまり目立たぬように配置された黒い柱は重要なオブジェクトであったようだ。よくよく観察してみると、全面に精緻な彫り物がされていて何か曰くありげである。
「ふうん、これで転移出来るのか」
ペタペタとモニュメントに触れるとメッセージが出た。
『転移しますか?
→コロッセオ控え室
→コロッセオ地下街』
見覚えのない転移先に眉をひそめる。
控え室は良い。一度行っている。
おそらくこのモニュメントはコロッセオ内の移動を補助する目的なのだろう。コロッセオ外には転移できないはずだ。その証拠に最初の広場は選択肢に含まれていない。
だが。
地下街は何故解放済みなのか。
「行ってみるか」
周囲の視線が鬱陶しくなりつつあった。
プレイヤーのアイコンがちらほらと見える。こちらの様子を窺っているようだ。
いきなり出てきたからか?
それとも称号か?
どちらにせよ面倒だと、さっさと転移オブジェクトを起動させる。
地下街はよく分からないが、きっとプレイヤーは居ないことだろう。穏やかに過ごせるはずだ。まさか、いきなり詰むなんてことはないだろうしな。
♦️
地下街は好みの分かれそうなビジュアルをしていた。
青空が広がっていたりすることはなく、岩盤を削り出しただろう天井が剥き出しだった。解放感は全くなく、閉塞感と圧迫感をこれでもかと与えてくる。
いやでもここが地下だと思い知らされた。
転移オブジェクトが中央に陣取った広場が中心に地下街は形成されているようで、放射状に伸びた8本の道沿いに店が並んでいた。
建物の背は低く、天井にまで達している物も多くあった。隙間無く詰め込まれているせいで、息苦しさが半端ではない。
個人的にはこの狭苦しさや薄暗さは好みなのだが、地上とのあまりの落差には目眩がしそうではあった。
ただ、活気がないわけではない。
むしろ地上の様子を上回っている。
整然とした美しい街並みの通りに、地上は静寂が支配していた。生活感が薄かった。人の住む場所と言うよりも芸術品のようであったのだ。
対して地下は重苦しさこそあれど、生命力があると言おうか。雑然としながらも生活していくために、荒れた状態とは無縁であった。恐ろしげであるが、どこか日常的なのだ。
ふらりふらりと街中を散策し、そのようなことをつらつらと考えながら目についた店に入る。
モニュメントのある広場から見て東側にある『パンの欠片亭』は、こじんまりした小さな宿屋だ。
一階は食堂で、それより上が客室になっている。
一室を借りて、ログイン地点に設定した。
広場に近い所にはもっと大きな宿屋もあったが、こちらも悪くない。
口角が上がるのが自覚できた。
少し固めなベッドに腰掛けながらステータス画面を開く。
ついでに並び替えをして、スキル欄を整理する。
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<名> ゼンザイ
<レベル> 5
<メイン職業> 闘士
<称号> エヘイエーの戦士
<ステータス>
⚫STR【50】(+5)
⚫INT【10】
⚫VIT【25】
⚫MND【30】(+3)
⚫RES【25】(+3)
⚫DEX【10】
⚫AGI【20】
⚫LUC【10】
⚫保有強化値【0】
<スキル>
⚫【インパクト】 ⚫【踏ん張り】
⚫【シールドバッシュ】⚫【祈り】
⚫【パワーガード】 ⚫【筋力強化】
⚫【ヒール】 ⚫【精神強化】
⚫【キュア】 ⚫【抵抗強化】
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試合に勝ったがレベルは上がらなかった。
格上であったが苦戦はしなかったし納得ではある。
戦ってみた感想として、AGIを上昇させたのは正解だったと思う。やはり10と20では感覚が違っていた。より追従性が高いと言うか、思い通りに動いたように思える。
ただ、ここでAGIに入れ込みすぎるのは危険だろう。
他のステータス、特にSTRから受けた印象として、総量や割合的な変化は感じ取りやすい。だが、細かな値の違いを受け止めきれるかと言えばそうではないだろう。確証は無いが。
例えば、10→20では10増えると2倍になるため分かりやすいが、110→120では同じ10でも差が小さく思える。
まあ、全ては印象の話だ。
しかし私は一極振りは避けようと決めた。バランスを取りつつ、欲しいところを尖らせて個性を出していこう。
ステータスをぼちぼち確認しつつ、スキルの確認に移っていく。
最初の5つはともかく、後から選んだものは急いでいたこともあってお座なりな感があったからだ。
合わせて最初のスキル5つも再確認していく。何か面白いことが出来るかもしれない。
まずは【インパクト】。
衝撃増大と言う効果は、対象が広くとられていて打撃全般に適用出来た。非常に便利。ライツィとの戦闘では頭突きにも乗せられた。多分これが無ければシークレットクエストの発生はなかったのではなかろうか。
【シールドバッシュ】。
出が早いし、再発動も早い。これだけで強いのに打撃だから【インパクト】も重ねられる。強い。これからも期待が持てる。
【パワーガード】。
盾での防御判定にプラスは、多分弾いたりいなしたりにも効果があると思うが要検証。ただ、先の対剣士で力負けしても防御出来たのはこれの働きの可能性が高い。
【ヒール】。
未使用。持ってて損はない、と思うがソロやコロッセオで出番があるかは少し分からない。
【キュア】。
未使用。【ヒール】以上にコロッセオと相性が良くない可能性がある。毒はともかく、麻痺や混乱は治す前に倒されそうだ。いやそもそも、麻痺しながら発動は出来ないのでは……?
【踏ん張り】。
反動軽減が良い味出している。個人的に好みだ。防御で後ろに弾かれたり、打撃でふらついたりしにくくなるのが心強い。これからも頼るだろう。
【祈り】。
神官戦士らしさを求めて取得したが出番がない。MND依存で信仰系スキルの詠唱時間を短縮するのはかなり優秀だと思うのだが、如何せん【ヒール】も【キュア】も活躍の機会に恵まれないもので……。今後に期待。
正直なところ、これを外すと単純にバーバリアンなスタイルになってしまうため残しておきたい気持ちはある。
最後に各種【○○強化】系。
単純に強い。ステータスに1割加算は大きい。加えて小数点切り上げとくれば言うこと無し。今後も頼ることだろう。
ただ、ステータスの数値はどちらかと言うと補正に近いものだと思われる。数値を上げることに固執すると足元を掬われる可能性が高まるため、気を付けなければ。
ざっと見ていくと概ね無駄なくまとまっているように思えた。まあ、自分で作ったキャラクターであることもあるだろうが。
現時点では少し足を引っ張っているスキルもあるが、この後のプレイング次第だろうか。
《OIG》の売りとして、スキルの成長と言うものがある。
プレイヤーのスタイルに合わせてスキルが成長するのだそうだ。
これが上手くはまれば、今は大したことがないスキルでも化けるかもしれない。良い方向に誘導したいものだ。
なお、【剣術】やら【魔術】やらは上位のスキルとなるらしい。この辺りは公式サイトでも解説されていて、スキルにはいくつかの種類があるとのことだ。
まず『基幹スキル』。
これは基礎の基礎で誰でも取得が出来るものだ。初期選択のスキルは全てここに入る。
木に例えるなら、幹の根本だろうか。
それから『基本スキル』。
【剣術】や【魔術】のようないくつかのスキルが複合されたものや、レベル上昇で解放される一部スキルが含まれる。
これは幹の上の方に当たるものだ。
そして『派生スキル』。
プレイヤー次第で変化していくスキルで、先鋭化していくことでオンリーワンのものとなる。ゲームとしてのセールスポイントだ。
木で言えば枝葉である。
さてさて今後は、この『派生スキル』に期待と言うわけだ。
行動を参照するというシステム上、あまり不都合なものは出現しないと聞く。いずれ良いものが出ることを楽しみにしよう。
スルスルとステータス画面を確認し、メニュー欄に戻ると1つの項目が目についた。
ベッドに寝そべりながらそれを見る。
『コロッセオ』。
どうやらコロッセオ関係の処理を行えるようだ。
試合の申請、訓練室の利用、決闘、獲得した賞品の確認などなど。
見れば先の試合では、鉄のインゴット1つと500CPを獲得していた。
「ああ、ショップシステムか」
このCPをアイテムやスキルに交換出来るようだ。それが出来るだけ貯めるのは大変そうだが。
「……ぼちぼちやって行こうかね」
そう呟きながら、次の試合をするためにエントリーボタンをタップする。
ポーン! と軽快な音が鳴った。
少しばかり愉快である。
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なお、戦闘中のスキル変化は発生しません。