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57.歌って踊れて戦いまで出来る偶像にも似た何か

コロッセオ少年合唱団





 ふんふんと鼻歌混じりにメイスを振るう。

 調子は上々。

 悩まされた『宿酔(ハングオーバー)』もすっかり抜けた。


「……いや、前よりも良い具合かな」


 呻き声とともに転がった肉塊へと目を向ける。

 既に勝負は決していた。程なくHPバーが0になり、ポリゴンへと変わり消え去っていく。


 メイスを一振り。

 やはり、身体のキレが良い。


 さてはて、いくつか要因は思い付くものだが。


「まあ、動くに越したことは無いかねえ」


 プラスに働くのであれば、何でも良いのだ。

 どうせこれはゲーム。

 そこを弁えていれば困ることなど有りはしない。





 ──舞踏会から数日。


 以前と変わらずコロッセオに挑戦する毎日だ。


 エヘイエー側のプレイヤーからは少々反感を買ってしまったが、だからと言って他に行く場所は無い。

 今さらモンスターハントに興じようにも、セオリーを知らなければ伝手もないことだし、第一そんなつもりもなかった。

 迷惑行為は運営が取り締まってくれるのだから、それに任せておけば良い。そう考えて、コロッセオで決闘を続けている。


 失くしたメイスの代わりに予備を手にして、相手を打ち据えて勝利を収める。

 あの大乱戦も悪くなかったが、やはり一対一だね。向かい合っての決闘にこそ、ロマンがある。


 次の試合はどうなるだろうか。

 モニュメントでマッチングを行う。





♦️





 慣れ親しんだ決闘用の空間。

 固められた土を踏み、学校のグラウンドもこんな感じだったなと少し感傷的になった。

 そんなことを思ったのにも理由がある。


「なんだ、子どもじゃないかい」


 相手がどう見ても子どもであったのだ。

 別に子どもだから戦えないとは言わない。ゲームで対戦をしていれば、年少のプレイヤーとかち合うことなどザラにある。

 NPCだがヨアヒムだって鎧の中身は子どもだった。

 それから、中身は別だとしても見た目が子どもの敵だって出てくるものだ。

 エヘイエーだって、角が生えたりしていたがベースは子どもだった。あれに子どもらしさなんて微塵もなかったが。


「舐めんじゃねーよ、新参が!」


 耳を疑うような一言。


 サラサラの金髪に白い肌。頬は赤くふっくらとしていて、全体的にしなっとした雰囲気の少年だ。少年合唱団とかに居そうな、育ちの良さを感じさせる外見をしている。

 お貴族様のお坊っちゃまと言った感じの、いかにも温室育ちな彼は、そのなよなよした外見からは想像出来ないくらいには口が悪かった。


 学校とかで学友と冗談を言い合ったり、図書館で試験勉強でもしている方が似合うティーンエイジャーがガンを飛ばしてきても、それほど恐ろしくはない。だが、革鎧を着て剣まで持っていれば別だ。変に現実感があるからか、全身鎧のヨアヒムを相手にした時よりも居心地が悪い。


 田舎のヤンキーのが多少はマシだ。いくらかゲンナリしてしまう。

 私の会うNPC、口が悪いの多くないかね。


「甘く見てっと後悔するぜ」

「……それは、そうなんだろうけどねえ」


 そのチンピラみたいな口調を止めて欲しい。

 まず似合っていない。

 言っていることは正しいはずなのに、すんなりと受け止められない。




 いまいち集中しきれないでいると、銅鑼が鳴ってしまった。




「む」

「【フラッシュステップ】!」


 先手は向こうに取られた。

 反応が遅れた隙に、スキルで一気に詰め寄ってくる。

 そのまま、抜剣。から、続けざまに剣が襲いかかる。


 盾でいなしながら守りを固める。

 強引に押し返せもするが、安定策を採る。


「んだよ、大したことねーな!」


 うるさい子どもだ。

 挑発を差し込みながら、しかしその攻めは慎重だ。

 そこいらの雑魚みたいな口振りなのに、最初に一当てしてから雑な攻撃がない。

 これはこれで子どもらしさなどなかった。



 ──やりにくい。



「ハイパースラッシュ」


 さらにはこれだ。

 ブラフを織り混ぜてくる。


「……悪知恵が、働くものだねえ」

「悔しければやってみな! そら、【ゲイル・プロテクション】」


 向かい風が吹き始めた。いや、これは少年が風の出所なのだ。

 疾風の守りを得たことで、より攻撃的な動きへと挙動が変わった。


 急所を狙っての一撃が増え、ステップによるヒットアンドアウェイが加速する。


「ほらほら、どうしたよ! なあ!」


 鬱陶しい煽りは健在だ。

 退く瞬間に言葉を投げて、こちらの集中をかき乱そうとしてくる。

 そのくせ堅実で丁寧な戦いぶりだ。嫌気が差すほどに。

 彼は相手が嫌がることをしよう、という基本を忠実に守っている。お陰でクソみたいな敵の完成だ。


「【ハイパースラッシュ】!」

「くっ! 使えるのかい!」


 翻弄されることで少しずつ、心に燃料が注がれていくのが分かった。

 苛立ちが戦意を引き出す。

 確かに初めは気乗りしなかったが、今となっては別だ。


「なんだよ、手も足も出ないのかよ! とんだチキン野郎じゃねーか!」



 ──ぶっ潰す!



 怒りを込めてメイスを振るう。

 防御は考えない捨て身の一撃。これは反撃の狼煙だ。

 まずはダメージ交換で、相手の意表を突く。


 袈裟懸けに斬りつけられたが、メイスは確かに奴の左腕を捉えた。

 疾風の守りが働いたのか。

 振り抜けなかったことで破壊までは出来なかったが、それでも手応えはあった。


 一旦、距離が空く。


「やってくれたな!」


 彼の激情する姿が、私に冷静さを取り戻させてくれた。

 危ない危ない。

 今のやり取りで勝負が決する可能性だってあった。

 敵の一閃はこちらを捉えていた。現にHPは七割以上をごっそりと持って行かれてしまった。

 対する私の一撃は、当たりこそしたがクリーンヒットではない。ダメージはあるだろうが、両手で剣を構えているところを見るに骨は折れていないだろう。


 ふう、と強く息を吐き出す。

 感情と理性を共存させるのだ。アクセルとブレーキを適度に使い分ける。要はバランスだ。

 振り回されるのではなくコントロールをしなければ、勝てる相手にも勝てないし負けぬ相手にも負けてしまう。


 仕切り直しだ。




 剣閃が空を裂き、かすめた鎧から火花が散った。

 打ち合わされる剣と盾がけたたましい音を周囲にばらまき、合間を縫って振るったメイスが宙を抉り、少年の動きを阻害する。


 一進一退。


 互いにHPを削りつつ致命の一撃を狙い、確実に殺せるタイミングを窺う。


 スキルを温存して競り合えば分かったが、少年NPCの技量はツバメに遠く及ばない。

 だから仕切り直してからは掠めることはあれど、直撃を貰わずに戦いを進められていた。


 しかし、優位に立てたわけではなかった。


 モロに食らったあの一撃が、損耗として大きすぎる。ダメージレースは圧倒的に負けていた。

 さらには『重篤な出血』の状態異常が痛い。

 これによって自動回復分が相殺され、強みが一つ失われていた。


「うぜーな! さっさと死ねよ!」


 相も変わらずチンピラ口調な少年NPCは、怒りを隠そうともせずに剣を振るってくる。

 動きは単調で読みやすいのだが、感情によってステータスが上昇するのか込められた力は明らかに強くなっていた。怒りによって強くなるとか、とんだバーサーカーだ。その見た目にはまるで似合っていない。


 力任せの攻撃を、受け止めるのではなく逸らすように盾で防ぐ。あまり真正面から叩き付けられては、私よりも先に盾が壊されてしまうからだ。

 凌いで凌いで、隙を見付けては反撃を入れていく。

 ジリジリとした時間が過ぎる。



 ただ、気付いたこともあった。


「……ははーん。余裕、無いんだねえ」

「チィッ!!」


 攻め急ごうとする焦り。

 それが彼の動きからは感じられた。

 出血による時間切れを待てない余裕の無さは、危機感から来るものだろう。あるいは彼にもタイムリミットがあるのかもしれない。



 雑に振り下ろされる剣を弾く。

 まだ反応も引きも早く、仕留めに行けるほどの崩れ具合ではないか。

 万全を期すのであれば、もっとペースを乱すまで待ちたいところだが……。



 ──残ったHPは一割か。



 一割を切ってしまえば【九死一勝】は発動しなくなる。ダメージを受けるほどに【餓えたる月夜(エンプティ・ムーン)】でバフはかかるが、ここは無理がきく内に流れを奪って押し切りたい。

 少年NPCはまだ四割と少しのHPが残っているが、火力が上がった今ならチャンスはあるはずだ。


「【エンチャンテッド・テンペスト】!」


 少年NPCも勝負に出るようだ。

 剣を包み込むように、小さな嵐が顕現した。

 荒れ狂う風が辺りの空気をかき混ぜ、バサバサと髪が乱される。轟々と、剣と一体化した竜巻唸りながら吠えている。


 こちらもスキルを起動させ、迎え撃つ体勢を整える。


「【ハイパーガード】【衝撃(インパクト・)侵入(イントルージョン)】【バスタースラム】」


 腰を落とし、胸の前に盾を掲げる。



「【ブラスティングセイバー】!」


 弾けるような音がした。

 次の瞬間には、剣が寸前まで迫って来ており、突き出される鋒にどうにか盾を滑り込ませる。

 ミキサーに腕を巻き込まれたかのように、盾ごと左腕がひしゃげた。

 パーツをもぎ取るように捩り切られる。吹き付ける風とともに身体中が切り刻まれ、左側の視界が闇に飲まれた。



 ──スキルをぶつけたのに、これかい……!



 一方的に打ち負けたと言うべきだろう。

 だが、左腕を犠牲に生き延びた。


 HPが0になるが【九死一勝】が発動し、死亡が取り消される。さらに『重篤な出血』も解除された。試行回数が足りず、未だに仕様を理解しきれていないがこいつはツイてると思いながら、敵の懐へと潜り込む。


「ってめえ!!」

「【スイングダウン】」


 咄嗟に退こうとする少年を逃がさない。膝に引っかけるようにメイスを振るう。

 コンパクトな一振りが、彼をその場に縫い止めた。

 上体が後ろへと倒れ、少年の体勢が崩れる。



 ──ここだ。ここで倒す。



 引く動作そのままにメイスから手を離して振りかぶる。

 この一撃ではHPを削るには足りない。それが分かっているからこそ、渾身の突っ張りを胸元に叩き込んだ。


 押し倒されるように少年が転倒する。

 思考を上回った。対応を乗り越えた。この瞬間に障害は消えた。


 反射的に身体が動いた。

 その場で強く踏み切り、獣のように跳び上がる。


「【スパイクス・アーチン】、【パワーストライク】!」



 ────ごしゃっ!!!。






 着弾の感触は足元に。

 頭部を踏み抜かれて首を失った少年は、力なく地面に倒れる。

 ほんの一秒にも満たない間、起き上がろうと踠いたが、すぐにポリゴンとなって散った。







ご覧いただきありがとうございます。

評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。


ミハエル(少年NPC)は、決闘以外の時は大変外面が良いため、コロッセオのプレイヤーからは好かれていません。素を知らない人からはアイドルみたいな扱いなのですけどね。

実は重要NPCです。合唱団専用のクエストが発生します(もちろん、女性も受けられます)。舞踏会イベントの会場にも出入りが出来る特別な住人です。



スキルや魔法の使用には発声が関わるため、ブラフにも使えます。ただ、プレイヤーにはあまり浸透していないテクニックです。NPCほどうまく戦闘中に使い分けが出来ないのですよね。




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