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48.下らないことまで再現できる技術に驚きたいけれど、残念なことにそれよりも前に呆れがやって来る


「だはははははっ!!」


 私の説明を聞いた彼女は、腹を抱えて笑い転げた。おかしくてたまらないといった様子である。

 ぜえはあと、肩で息をしながら彼女は言った。


「で、ホントに2人で行くの? 舞踏会!」

「……まあ、そうなるねえ。央城行きたいし」

「だははははっ!!」


 狭い店内に笑い声が響く。

 あんまり大きいものだから、近隣の店舗に迷惑がかかるのではないかと心配になるほどだ。

 落ち着いたかと思えば、人の顔を見てまた笑い出す。まったく失礼な奴だ。

 だが、正直なところ気持ちは分からないでもないため、私には仏頂面を浮かべることしか出来ない。

 日頃から試合だなんだと殴り合いをする物騒な連中が、揃っておめかしして舞踏会に行くと言うのだ。頭でも打ったのかと心配になるだろう。

 私だって傍観する立場であればからかう言葉の一つくらい投げただろうし、きっと笑っていたことだろう。

 今は私がそれをされる側になっているわけだが。



 さてここは、シャンボール衣服店と言う。

 笑い転げて話にならないのが店主のシャンボールだ。衣服を中心に扱う生産系のプレイヤーであり、頼まれれば帽子やポシェットのような小物まで作る職人である。

 地下街の空き店舗を借り上げてこじんまりと営業している彼女とは、シフの紹介によって知り合った。

 普段着のバリエーションを増やそうと考えていた時に、シフに相談をしたことがきっかけだ。

 ゲーム開始すぐの頃からダメージジーンズやら鋲の付いたグローブやらを身に着けていたシフは、シャンボールにお世話になっていたらしい。

 その腕前やセンスは、これまでに普段着やアクセサリーを作ってもらっていることで十分に信頼を置いている。


 舞踏会の出席をツバメに取り付けられた後。

 まずやって来たのがこの店だ。

 舞踏会に出るとあっては普段着で行くわけにいかない。相応の用意が必要だ。

 ゲームであってもと言うべきか、ゲームだからこそと言うべきか。

 装いに対して寛容な場面と不寛容な場面の差は、現実のそれよりも厳しいかもしれない。

 まあ、私が気にしすぎなだけかもしれないが。

 だが想像してみて欲しい。Tシャツにジーパンで仮面を着けている姿を。さらにはそこがお城の中であるところを。

 場違いなこと、この上ないだろう。

 華美である必要はないが礼装が欲しい。それも舞台に合わせた物が。


 シャンボールは正にうってつけの人物だ。

 腕の良い仕事に熱心な職人。そんな彼女は、きちんと報酬を提示すれば期日の近い仕事であっても嫌な顔をせずに請け負ってくれる。


「いやー、まだ笑いのタネを提供してくれるの?

報酬を貰うために誰かに仕事を頼んでいたら、あんたの取り分減っちゃうじゃん」


 彼女の言いたいことも分かる。

 ツバメの依頼で舞踏会に行くのだ。その用意にお金をかけていては儲けにならない。

 経費として請求しろ、と思っているのだろう。


「だがねえ、さすがに友人相手にがめつい真似をするのは憚られるよ」

「ま、そんなことだろうと思った」


 やれやれと首を振りながら、シャンボールはデザイン案が書かれた紙を取り出す。

 紙束が小さなテーブルにバサリと置かれた。


「……仕事が早い、なんてレベルじゃないねえ」


 今さっき話したばかりなのだが。そんなものを準備する暇なんて無いはず。


「あんたみたいな客が来て稼げそうでしょ?

告知見てすぐにデザインラフだけ作っておいたの」


 思わず額に手を当てた。

 そりゃそうか。用意の良いことで。

 イベント参加客の需要を見越しての動きの早さはさすが商人。


「ヨーロッパ貴族風に、英国の騎士風。アジア系の民族衣装や紋付き袴なんかもあるよ。オススメは軍服風かな」

「何だそれは、コスプレ大会かい。

……記章も勲章も無い所属不明の軍人なんて冗談にもならないんじゃないかな?」

「そう? 受けは良いけど」


 普通のスーツで良いと頼めば、シャンボールはペラリと一枚のデザイン案を手に取る。

 それに描かれているのは燕尾服だ。

 なんでも夜会服としては標準的らしい。

 似合う自信はないが、そのデザインで制作してもらうことにした。

 黒髪胡散臭アジア系のアバターにしたことを一瞬だけ後悔をする。だが、似合いそうな東洋系の衣装は場の雰囲気にそぐわないだろうから諦める他ない。そこに拘りを持っているのは私自身であるからだ。


「どうせ皆似合わないでしょ。夜会服なんて日常で着ないし」

「ぶっちゃけるねえ、服屋さん」

「だははっ! あたしは正直なのが取り柄だからさ!」


 お洒落するよりさせる方が性に合っているしね。彼女はそう言いながら、選考から落ちたデザインラフをストレージへと投げ込んだ。

 女性に対して頷きにくいのだが、確かに彼女自身はあまり身形に気を使っているようには見えない。ゲーム故に整った顔立ちで着飾れば見映えがするだろうに、質素なワンピースと前掛け程度で満足しているのだ。職人と言うよりも地味な町娘といった様相である。

 作業の時に邪魔になるわけでもあるまいに。ゲームなのだから。シャンボールの拘りなのだろう。


 まあ、何も言わないけどね。

 本人がそうしたいならそれで良いのだろうし、変なことを言っては気軽に頼みごとが出来る友人を失いかねない。


「じゃあ、報酬はこれにプラスで〔青宝砂貝の厚染布〕を2m分。CPで交換出来るんでしょ?」

「んー、ああ、出来るねえ。OK、それでお願いするよ」


 報酬についてもまとまり、舞踏会用の燕尾服は完成を待つのみだ。お貴族様みたいな字面だね。

 シャンボールのことだから、イベント前日くらいまでには仕上げてくれることだろう。

 その辺りは信頼している。


 じゃあ、と別れを告げてシャンボール衣服店を出る。

 次なる目的地はコロッセオ。

 日課をこなしていこう。





 歩きながらステータスを確認する。

 レベルも上げたしスキルも更新した。装備品だってメンテナンスは欠かしていない。

 準備は万端整っているはずだ。

 手慰みに確認しつつ、頭の中で動きのパターンを何通りか組み上げる。



===================================

<名> ゼンザイ

<レベル> 74

<メイン職業> 浄罪官

<称号> 無罪放免


<ステータス>

⚫STR【205】(+41)

⚫INT【10】

⚫VIT【160】(+16)

⚫MND【155】(+23)

⚫RES【145】(+22)

⚫DEX【55】

⚫AGI【65】

⚫LUC【10】

⚫保有強化値【0】


<スキル>

⚫【衝撃侵入】    ⚫【九死一勝】

⚫【パワーストライク】⚫【信仰の途】

⚫【バスタースラム】 ⚫【フル・パワフル】

⚫【ハイパーガード】 ⚫【精神統一】

⚫【スイングダウン】 ⚫【免疫向上】

⚫【穢れ祓い】    ⚫【耐久強化】

⚫【餓えたる月夜】  ⚫【震幅増大】


<刻印>

⚫【スパイクス・アーチン】


==================================


 基本的なコンセプトに変更点は無い。

 受けて殴る。ただそれだけだ。

 以前よりもパッシブでのバフを盛りつつ、一撃の破壊力も増強している。

 総評すると、防御よりも攻撃よりになったかな、といった感じだ。


 【罪滅星】が消えてしまったのは痛いが、強化先の【餓えたる月夜(エンプティ・ムーン)】も被ダメージに比例したバフを得られる効果なため、悪くはない。ついでに、バフが最大値になると第二の効果が起動出来るようで、どこかのタイミングで使ってみたいものだ。

 ……コロッセオの試合では最大値まで溜める前に勝敗が決してしまって、まだお目にかかれていなかった。恐らく多対一か、あるいは対ボス戦を念頭に置いたスキルなのだろうね。




 地下街の広場にあるモニュメントを使用し、コロッセオへと転移する。

 わざわざ来る必要はそれほど無いが、なんとなく足を運びたくなるのは不思議だ。

 漏れ聞こえてくる住人たちの予想を右から左へ流しながら、試合の登録をする。


 あの選手はここが良い。これがダメ。あの時はああすべきだった。いやこっちの方が正しい。あれは失策だ。地力が足りない。

 あーだこーだと言い合う彼らは、スポーツ中継にくだをまくおっさんと然したる違いはない。

 技術の進歩が幸せに直結しない様を目の当たりにしてしまった。何とも言い難い気持ちになりながら、転移によって試合の場へと運ばれる。



 ──いやはや、締まらないねえ。



 呟きは光の粒子に消えた。





ご覧いただきありがとうございます。

評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。


アーチン=ウニ。


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