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4.戦士としては合格点、紳士としては赤点


 内容としては、やはりチュートリアルだった。


 スキルは発声しないと基本発動しないことや、武器防具の装備の仕方、いくつかの小技などを教えられた。

 ……一応、キャラクターメイキングの時にそのあたりはヘルプを読んでいたから承知していたが、わざわざ「知ってます!」なんて言うのは印象が悪い。神妙に頷いて話を聞いた。

 正直なところ、ある程度システムは他ゲーと共通している部分があったこともあり、二度手間感はあったがそこは我慢。


 結果としてライツィはにこやかに話していて、私の腰には初心者用のメイスが左手には木製の小さな盾が装備されていた。

 うむ、万事オーケーである。




 さて、チュートリアルを終えて何かフラグを立てたのか。適当に頷いていたらライツィはにこやかにコロッセオの来歴を語り始めた。それをふんふんと聞き流して、メニューをいじる。

 ボタン配置やら表示位置だののレイアウトを少しばかり変更しつつ、メッセージ欄の通知を確認する。


 運営からのお知らせが届いていた。




『──VRMMO『我らの箱庭』運営より、プレイヤーの皆様へ


この度は、『我らの箱庭』をプレイしていただき、誠にありがとうございます。数あるゲームの中からこの1本を選んでいただけたことを思えば、感謝の念に絶えません。

そこでサービス開始を記念して、皆様に贈り物をさせていただきます。

これからのプレイに役立ててくだされば幸いです。


これからもどうか、『我らの箱庭』をお楽しみくださいませ。



添付;「初級ポーション詰め合わせセットⅠ」』




 なんとまあ、ありがたいことか。

 欲を言えばもう少し奮発してくれたら、と思ってしまうがそれは贅沢と言うものだろう。

 ……そこそこの頻度で贈り物をくれるように期待はしておこう。



 聞き流していた話の流れが段々と変わってきたことで、ウィンドウから目線をライツィへと戻す。

 何やら歴史の話からコロッセオの目的に話が移り変わっていた。


 どうもコロッセオは神殿を兼ねているらしい。

 祀っているのは戦神(いくさがみ)だと。コロッセオで戦うのは奉納でもあるのだそうだ。

 それ故にコロッセオで戦えるのは資格を示した者に限られている。客人(プレイヤー)であればいくらか条件は緩くなるが、それでも資格を示す試練を超えねばならない。

 そうライツィは言った。


「──では試練の内容とはどのようなものか?」


 そう訊ねた瞬間に、ピコンと通知音がした。



──────────

 クエスト:『戦士の証明』


 コロッセオの総支配人ライツィに、戦士として認められましょう。


 クリア条件:ライツィに攻撃を一度当てる。


 報酬:コロッセオ参加権開放

    特殊職業『闘士』開放

──────────


「受けて、もらえるよね?」


 笑みを湛えたライツィのからかうような問い。

 彼女は面白がっている。

 だがそれはこちらも同じ。唇が緩やかに弧を描く。


「当然、受けよう」


《クエストを受諾しました。》


 アナウンスが流れたと同時、ぐんとライツィへと踏み込んだ。

 視線が交錯した瞬間、こちらの動きが読まれていることを直感する。


 単純な速度不足。

 しかしAGIは割り振り済みだ。今さら変更など出来ない。

 いや、そもそも。


「変える気は! 無い!」


 一撃目はシンプルな振り下ろし。

 ライツィはそれを、わずかに一歩下がるだけで躱してみせた。

 間髪入れずに出した二撃目の振り上げは、左半身を引いて空かされる。

 さらに薙ぎ払いを上体反らしで避けきられたのを見て、一度距離を開ける。ライツィまでは2歩ほどで間合いに入る。

 恐らく彼女にしてみれば、無いも同然の距離だ。


 こちらの攻撃はまるで当たる気がしなかった。

 完全に見切られている。


「その思い切りの良さ、素晴らしいよ。まさかここまで躊躇なく殴りかかってくるとはね。

……まったく、そんなに私は魅力が無いのかい? 少し悲しくなるよ」


 よよよ、と泣き真似をするライツィ。

 その姿に、堪えた様子はまったく見られない。


 さて、どうしたものか。

 このやり取りで理解出来てしまった。理解させられてしまった。

 そもレベルが足りていないのだ。

 挑む。という次元の話ではなく、そも戦いの土俵に立てていない。

 AGIだけではなく、すべての能力値が足りていなかった。


 まあ、当たり前のことだ。何せこちとらレベルは1。ゲーム開始直後である。勝負になると思うこと自体が烏滸がましいのだ。


(……だがそれはそれとして、これは極振りなんて無理だな)


 ある程度バランスを考えてステータスを振ったものだが、それでも認識の修正が必要そうである。

 ステータスによる格差が如実に表れていた。


 渋い顔をせざるを得ない。

 夢の神官戦士ビルドは、正しく夢のごとく幻に消えた。

 軌道修正が必要だ。どうするかはこの後考えよう。


 瞬きの後、仕掛けて来ないと高を括っていたらライツィの方が動き出した。否、認識できたのは接近し終えたことだけ。

 反射的に右のメイスを振るっていた。


 振るったと同時に失敗したことを悟り、返ってきた手応えに恐ろしいものを感じた。


 ライツィのステータスであれば避けられたはず(・・)なのだ。

 そして避けていれば手応えなどありはしない……。


 鉄の塊を殴り付けたところで、これほどの痛みがやってくることは無いだろう。

 五感の再現を売りにするだけあり、『OIG』は視覚や聴覚のみならず味覚や触覚まで味わうことが出来る。そして当然ながら痛覚も。ゼンザイに仕組みは分からないが、それまでのゲームと比べて鮮明かつ強烈だった。

 勿論、ゲーム故にどれも完全再現はされず制限がかけられている。設定から感覚の強弱を変更することも可能だ。


 だがそれでも。その緩和された痛覚でも痺れるような痛みが感じられた。反動の大きさに思わずメイスを取り落としそうになる。


 反動に視界を歪めながら、しかしはっきりそれを見た。

 ライツィの顔には皺一つ無く。すべすべとした白磁の肌は、叩きつけられたメイスをそよ風のごとく受け止めていた。

 微動だにしなかった。小揺るぎもしなかった。


 ライツィは驚くことなど無いかのように、悠然と立ち私を見ていた。ただ微笑んでいた。


 再び視線が交錯する。

 ライツィがゼンザイ()に向けるそれは、値踏みの視線であった。価値を、出来ることを、強さを、そして面白いかどうかを見極めようとしていた。

 緩やかにライツィの右拳が振り上げられる。

 つまるところ、それが査定の結果であった。



 ──逃げねば。

 そう思った瞬間にメイスを握る右手の痛みに気付く。メイスごとライツィに掴み取られていた。

 その白く細い指に似つかわしくない万力のごとき握力は、メイスの柄もろとも私の右手を握り潰している。

 完全に後手に回っていた。

 認識が追い付いた時には打つ手が無い。


 離れられず、避けられず、逃げようがない。


 ゆったりと、見せつけるように掲げられた右の拳が振り下ろされる刹那、どうにかせねばという思いだけで身体が動いていた。


 左手の盾を勢い良く右肘に下から打ち込む。

 メイスごと手は掴まれたまま(・・・・・・)で肘から真下へ直角に折れ曲がった。落ちるようにしゃがみこむと、頭の上をライツィの拳が通り過ぎる。


 腕を伝い身体の芯へと響く激痛には構わず、眼前にあるがら空きの胴目掛けて頭突きをかます。


「……ッ【インパクト】ォ!!」


 衝撃が脳を揺らし、くらりと意識が飛びそうになる。

 がら空きだろうと無防備だろうとステータスは変わらない。純然たる能力差に負けたのだ。

 止まらず壁にぶち当たるよりも酷い痛みが反動と共に頭を通り抜け、弾け飛ぶように私を仰け反らせた。




 霞む視界にそれらが映る。

 コロッセオのホールの天井と、牙を剥くように笑みを浮かべたライツィ。そして、振り下ろされる右の拳。




 痛みを感じる間もなく爆散したことで、私は初めての死に戻り(リスポーン)を経験することとなった。





 ……ああ、クソ。いつか勝つぞ。




──────────

 クエストクリア! :『戦士の証明』



 評価中…………。




 条件達成! :『死地に踏み入る者』


 条件達成! :『死と隣り合わせ』


 条件達成! :『慮外の一撃』


 シークレットクエストが発生しました

──────────



──────────

 シークレットクエスト:『この澄ました笑みを打ち砕いて』


 貴方であれば届くのでしょうか____。


 クリア条件:コロッセオ総支配人"眩き怒り"ライツィ・ハルバルディアに勝利


 報酬:???

──────────


《シークレットクエストを受諾しました。》




 ……は? 何だこれ?



ご覧いただきありがとうございます。

評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。



シークレットクエストは条件が達成できれば誰でも発生させられますし、発生条件も複数あるので後からでも発生出来ます。人数制限も基本的にありません。

今回は『死地に踏み入る者』(ライツィに近接戦闘を仕掛ける)、『死と隣り合わせ』(ライツィの一撃を回避)、『慮外の一撃』(ライツィに二度攻撃を当てる)によって発生しました。

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