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27.人の生んだ悪しき文明


 ──さて。

 ログインをしてみれば、1つの通知が来ているではないか。


『修正とアップデートのお知らせ』


 サービス開始から11日目とは、また微妙なタイミングだ。

 何か不具合でもあったのだろうか。

 ……まあ、あったのだろうね。



 宿屋の一室で、古びた椅子に腰掛けて通知を開いていく。

 ランタンの灯りが揺らめく。

 私の胸の内を表しているようだ。



 『OIG』は楽しくプレイ出来ているが、不満が全く無いわけではない。

 それらが少しずつでも改善されると言うのであれば、修正もアップデートも歓迎すべきだろう。


 それはそうと、メッセージの内容はどのようなものだろうか。

 私のスキルが修正対象ではないと良いのだが。




 会話の届く範囲が縮小。

 コロッセオでのプレイヤー成績参照が廃止。


 修正点でのメインは2つか。

 後の細々したスキルの調整はついでだろう。大半は上方修正であったことだし。


 この並びだけで、おおよそ何があったかは察しがついた。

 具体的な事例の説明はないが、推測が正しいなら修正は必要だろう。


 まったく、どこのバカだ。

 溜め息が出る。


 私としては喜ばしい修正になった。

 会話についてはともかく、成績参照は以前から気になっていたものだ。名前こそ分からずとも、戦績が筒抜けとは座りが悪い。

 それが無くなるとは、それだけで気持ちが楽になる。


 1つ文句を言うのであれば、もっと早く対応してくれ、になるだろうか。




 多くのプレイヤーの関心事にして、今回のお知らせの主役になっているのはアップデートの方だろう。


 ガチャシステムの実装がなされた。


 アイテムガチャとのことで、極々低い確率でレアなアイテムが入手出来ると言う。

 課金は導入されておらず、ゲーム内通貨でショップメニューから購入出来るようである。


 これは後々に、より高級なガチャや限定ガチャを出すために抑えめに来たね。

 本格的に毟り取るための、謂わば助走だ。



 運営からのメッセージには、プレゼントが付随していた。

 突然の修正と実装へのお詫びのようだ。

 ありがたく頂戴する。


〔アイテムガチャ10連チケット×3〕


 思っていたよりも奮発した運営に驚きを隠せない。

 5回分くらいが関の山だと考えていたのだが、少々見誤っていたかもしれない。




 運営の対応に感心しながら、掲示板も開いていく。

 こちらは情報収集のためだ。


 何があったか推測は出来ているが、それを裏付けるものがないか書き込みに目を通す。


 昨晩の日付けが変わる頃。

 バッチリ書き込みがあった。

 なんなら私が話題の時だ。


 読み返す。

 さらにもう一度読み返す。


 何度見ても変わらない。

 盗み聞きと私の戦績について話していた。

 幸い、すぐに話は逸れていた。


 だが、それはそれとして。


「いやあ、さすがにキツいね」


 弱音を吐きたくもなる。

 なんだろうね、これは。

 そこまで心血を注げるものなのだろうか。

 別に放っておいて良いじゃないか、他人なんて。そんなに気になるのか。

 呆れてしまう。


 しばらく、椅子から立ち上がる気にはならなかった。




 ──苛立ちを込められるだけ込めたお気持ちメールを運営に送りつけておこう。


 お問い合わせフォームを立ち上げ、怒りを文章に叩き込む。

 推敲しては冷静になってしまう。

 激情にかられるままに、送信をした。


 1分と経たずに運営からの返事が来る。


 丁寧な謝罪文に経緯の説明、それから後始末について。

 運営も把握していて、犯人は特定して処分をしたと言う。動きが早いのは結構なことだ。

 実害を被っているために、他のプレイヤーよりもお詫びの品が多くなっていると書かれていた。



 数分前の感心を返してほしい。

 なるほど。多めのお詫びはこのためであったのか。




 気持ちを入れ替えて、ガチャに臨むとしよう。

 インベントリから〔アイテムガチャ10連チケット〕を取り出す。

 映画やイベント事のチケットと見た目はよく似ている。

 光沢のある薄青い本体に白い飾り文字が施されており、読み取りにくいが『10連ガチャ』と書かれていた。


 ためつすがめつ、じっくりと観察する。

 不思議な手触りであった。

 固いがよくしなり、切れ目の他からはまったく切り離せそうにない。


「……なるほどね。これ、金属か」


 指で弾けばフォンフォン音を立ててチケットが震える。

 鉄や銅のような現実でも知っているような物とは少し違う。きっとゲーム内金属だ。

 オリハルコンだのミスリルだのといった、有名どころの投入はまだ無いだろう。温存されているはず。


 その内手に入るのだろうか。

 ああ、もしかするとこのガチャから鉱石なりインゴットなり出てきてもおかしくはない。排出率がどれほどのものになるか想像もつかないが。




 しばらく手に持ったチケットを眺めていた。

 光の当たり方によっててらてらと色が変わる様は、見ていて中々飽きが来ない。

 青が緑に、あるいは橙に、はたまた白にと七変化する作り込みに畏敬の念すら覚えてしまう。


 変態的、その一言に尽きた。


 光の反射のみならず、散乱や吸収も演算されているとは恐ろしすぎる。




 驚異的な拘りの結晶が一山いくらのゴミに化けるのは心苦しいが、消耗品は使ってなんぼ。

 意を決して、ガチャに移る。


 切れ目に沿って、チケットをも切る。

 あれほど頑丈な物がピッと千切れるのは爽快だ。



《〔初級ポーション〕を入手しました。》

《〔初級ポーション〕を入手しました。》

《〔初級ポーション〕を入手しました。》

《〔中級ポーション〕を入手しました。》

《〔初級ポーション〕を入手しました。》

《〔低級ポーション〕を入手しました。》

《〔低級ポーション〕を入手しました。》

《〔初級ポーション〕を入手しました。》

《〔火打ち石〕を入手しました。》

《〔初級ポーション〕を入手しました。》



「……グッロ………………」


 言葉にならない。

 ポーション確定を疑うレベルだ。

 おかしいね。お知らせではもう少し色々な景品があったはずなのだけれど。


 唯一出たポーション以外のアイテムである〔火打ち石〕も、見た限りただの石だ。

 加工無しの原石で出てくるとはさすがに予想外である。


 ただ、まだ10連を1度しか回していない。

 そして手元にはあと2枚のチケットが。

 すべきことは決まっていた。










 ──ガチャは悪い文明だね。


 お詫びにもらった2枚のチケットから出てきたのは、やはりポーションの山。

 使いもしない〔初級ポーション〕が増える増える。まだ最初のプレゼント分も使いきっていなかったのに、低級や中級まで入手してどうしようか。

 コロッセオではまるで出番が無いのだ。いっそ売り払おうか。


 ポーションの他は大した物が出ず、一番良くて〔水晶の欠片〕だった。サイズが小さく濁った白色のそれは、一目で飾りに向かないことが察せてしまう。

 使い道が無い。



 椅子に腰掛けたままに項垂れる。

 私のリアルラックが低すぎるのも一因だ。

 まだ30回とは言え、さすがに結果が偏っている。



 大きく息を吐く。

 それから、のそのそとメニューを開く。


 ガチャチケットはゲーム内通貨で購入出来る。

 そして、CP(コロッセオポイント)はゲーム内通貨だ。

 これまで特に使い道がなく貯める一方だったCPは、装備の更新をスポンサーが担ってくれたお陰で武器にも化けずに出番を待ち続けていた。


 1枚。


 それが交換出来た枚数だ。

 せっせと積み上げたCPは、ガチャ10回分へと姿を変えた。


「ハハハッ。……ダメだねえ」


 身を持ち崩すタイプの考え方だ。

 よろしくない自覚はあった。

 それでも良心を振り切ってチケットに替えてしまった以上、使わず腐らせるのが一番あり得ない。



 震える指先に力を込めて、〔アイテムガチャ10連チケット〕をつまみ上げる。

 変に緊張していた。

 この胸の高鳴りが、私を狂わせるのだ。


 息を止め、一気に千切る。



《〔初級ポーション〕を入手しました。》

《〔ワクチャプラシェーゴ〕を入手しました。》

《〔琥珀の欠片〕を入手しました。》

《〔低級ポーション〕を入手しました。》

《〔低級ポーション〕を入手しました。》

《〔初級魔力ポーション〕を入手しました。》

《〔初級ポーション〕を入手しました。》

《〔タトゥー:スパイク〕を入手しました。》

《〔低級ポーション〕を入手しました。》

《〔初級魔力ポーション〕を入手しました。》



 思いもよらぬ成果に呆気にとられる。

 先ほどまでのカス運はこの前振りだったと言われれば信じてしまいそうだ。

 初めて見る物がゴロゴロある。


 〔琥珀の欠片〕はそのまんまだ。

 親指くらいの大きさに欠けてしまっている。

 中には気泡しか入っていない綺麗な飴色をしていた。


 〔初級魔力ポーション〕。

 MP回復用のポーションだ。

 HP用が半透明な緑色に対して、こちらは半透明の紫色をしている。

 パッと見た感じは毒にしか見えない。


 〔ワクチャプラシェーゴ〕は食用アイテムだった。

 海老に似たモンスターの干物だ。

 ただし大きさが私の胴と変わらない。大きすぎる。

 宿に売ろうか。結構な値段になりそうである。



 そして〔タトゥー:スパイク〕。

 これが問題児だ。

 アクセサリの装備枠を恒久的に1つ潰して、肉体に【スパイク】のスキルを刻めるらしい。


 いや、ツッコミ所が多い。


 アクセサリに装備枠という制限があったことも初めて知った上に、潰す? 刻む? そのアイテム?

 とんでもないね。


 勿論、デメリットはある。

 アクセサリの装備可能数が1つ減ってしまうのだから。恒久的に、とあるのだから並みの方法で復活は出来ないだろう。

 スキル付きのアクセサリなんかが出てくれば、汎用性では劣ることになりかねない。


 だが、それらも踏み倒せる。


 特化してしまえば良いのだ。

 肉体に刻んだスキルは消失しない。かつ、刻まれた肉体に適応していく。

 実質、スキル枠が1つ増えたのと同じであるのだ。

 そこで私が刻んだスキルに合わせて成長していけば、後になって足を引っ張ることは無い。少なくとも、まるで使えないなんてことにはならない。

 うまく行けば、の希望の話で仮定の話に過ぎないが、それでも夢のある話だ。



 気付けば〔タトゥー:スパイク〕は消失して、代わりに【スパイク】を獲得していた。

 獲得して分かったが攻撃に貫通属性を付与できるいぶし銀なスキルだった。非常に好みである。


 これで、右腕の装備枠を消費した。

 残るは左腕と頭、首、胸の4ヶ所だ。

 右腕に何か変化があるかと確認すると、手首の内側に小さく杭とハンマーが刻まれていた。目立たず袖に隠れるようになっている。


 アクセサリについては好みがあるから、とスポンサー殿は私に任せてくれていたので、早めに選ばなければ。後回しにしていたツケが来ていた。

 しかし、CPは底をついている。

 メニューからでは手に入らない。




 地下街の店を見て歩く必要がありそうだ。


 だがその前に。

 実地で【スパイク】の使い勝手を調査しよう。



ご覧いただきありがとうございます。

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[一言] グッッッロ…と思ったけど40連で収束して良かったと思いましたまる やはりガチャは悪い文明… めちゃくちゃ面白いです!
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