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14.コロッセオスレ暫定tier1武器


 ──18戦目。


 思えば試合も結構な数をこなしてきたようにも、まだまだ圧倒的に足らないようにも思える。

 いや、これからを思えば序の口か。


 相手はプレイヤー。槍使いだ。


 コロッセオスレを見ていると、弓使いの評価はダダ下がりしていた。外とは真逆だね。

 環境にあっていない弓に対して台頭してきたのは剣、ではなく槍だった。


 間合いの長さはそのままアドバンテージになる。機動戦を仕掛けるのも待ち受けて迎え撃つのも、本人の適正に合わせて戦術を組めるのも好評価であった。


 まあ、相対する彼はまだ槍がしっくりきていない様子だ。握りや構えにぎこちなさがある。

 習いたて、いや戦い始めか。

 推測としては武器種の切り替え(コンバート)かな。なんでもいいか。



 トントンと床を爪先で蹴る。

 もうすっかりお馴染みとなった感触。だがそれを受ける足の側はこれまでと装いが変わっていた。


 スポンサー様のご意向だ。

 お優しいことに、装備一式を新調してくれたのだ。

 曰く、『もう少しマシな格好をしてくれ』とのこと。

 まあ、確かにこれまでは初心者装備であったので見れたものではないかもしれない。それが目の肥えたお貴族様ならなおのことだ。


 というわけで、ブロンズメイス君とバックラー君はわずか一戦でお役御免になってしまった。

 下手に愛着が湧く前で良かったと思う。


〔アイアンメイス〕:攻撃力 40

〔鋳鉄の丸盾〕:防御力 27

〔ククレケレムの額当て〕:防御力 14

             聴覚強化(小)

〔ククレケレムの羽織〕:防御力 38

〔ククレケレムの腕甲〕:防御力 29

            DEX +4

〔ククレケレムの脚甲〕:防御力 27

            脚力強化(微)


 防具は〔ククレケレム一式〕である。

 強い。

 これまでの初心者装備とは比べ物にならない。当然の話であるが。


 ククレケレムは南方の森林地帯に生息する鳥に似たモンスターだそうだ。

 都市イェソド近郊まで行けば出会えると聞いた。


 ……他の都市の話は初めて聞いたが、別に隠すようなことではないため聞かれれば教えると言われた。聞かれれば、と念押しされたのでこれはきちんと聞かないと教えないということだろう。




 薄紅色に纏められた装いはそれなりに気に入っていた。

 ゆったりした羽織は袖があまりヒラヒラとしないようにされていて、裾も長すぎない。

 腕甲も脚甲も軽さと固さが両立していた。

 私の低めのAGIに配慮して、重量を軽めに調整してもらったことで動きを妨げられずに戦えるのだ。


 これを装備して既に何戦か試合をしているが、とても具合が良い。



 二度三度メイスを素振りしながら開始の合図を待つ。

 今回も負ける気はしなかった。





 ──銅鑼が響く。


 毎度のこれにも慣れてきた。

 合図と同時に踏み込み間合いを詰めていく。


 距離を狭めなければお話にならないからね。

 槍の方が絶対的に優位なのだ。その長所は潰していかないといけない。

 とは言え、向こうもそれは理解している。


 接近する私と、そうはさせまいとする槍使い。


 地味な攻防が始まる。いかに有利な条件を押し付けるか、ジリジリと互いの手を読み合うのだ。


 突きを払い、踏み込んだところを薙ぎに邪魔される。

 さらに返しの薙ぎを盾で受けて押し込もうとするが弾かれた。


 一進一退。


 だが私には余裕があった。

 敵の攻撃力では盾を抜けない。貫通しないのであれば、防御を固めて隙を誘う戦法も選べる。

 選択肢が1つでないことが心理的に楽にしてくれていた。


 だから踏み込めた。


 突きで牽制され、薙ぎで妨害され、打ち払って間合いをとらされて、それでも攻め手に回る。


 槍使いの彼の顔に、余裕は無かった。

 歯を食い縛り、目は忙しなくこちらの出方を窺っている。



 まだ焦らそう。



 確実に仕留めに行く。

 相手の攻撃を誘いながら、しかし奥まで踏み込まない。


 再びの突きに盾を合わせて、お返しとばかりにメイスを振るう。仕掛けないが、攻撃の意思は見せる。


 警戒をさせ続けて、精神的な負担を強いる。あくまでこちらのペース、こちらの動きで戦況を制御してストレスを与えていく。

 しつこく。ねちっこく。いやらしく。

 主導権は渡さないのに決断を要求するのだ。


 リソースを吐き出せ、と。




 3分ほどのやり取りで、彼は音を上げた。

 痺れを切らして大技に出た。

 流れを断ち切ろうとした。


「【ポークス】!」


 連続した突きが1発、2発、3発、4発と繰り出される。頬を掠め、丸盾が弾き、腕甲が受け止め、太腿が抉られる。


 痛みに顔をしかめる。だが同時にこれはチャンスでもある。


 スキルの発動は彼の決断を示す。

 意識が攻めに回ったからこその隙を突く。


 狙いは槍を引き戻す瞬間。


 4発目でスキルの効果が切れて、彼はわずかに(たい)を崩しながら力任せに槍を引いた。

 それに合わせて踏み込む。

 刺された太腿から鋭い痛みが伝ってくるが構うものか。


 槍の間合いの内側。そこに侵入を果たす。


 目を剥く槍使いに笑みを返しながら盾を押し当てる。槍を自由にさせないように柄の動きを邪魔するのだ。


 これで戦況は一気にこちらに傾いた。


 メイスは下段に振り下ろす。

 足を潰しに行く。


 押し付けた盾で間合いを殺しながら、近距離でメイスを何度も振るう。

 力が入りにくいからか、しっかり当たらなかったからか。それでも5度も振るえば、槍使いは膝から崩れ落ちた。


 無意味だと思っていたDEXにも役割があり、高いほどクリティカルが出しやすくなったりダメージの通りが良くなったりするらしい。

 これまでの試合でしっかりと打撃を当てているはずなのに、ダメージが思ったほど出ないことがあったが原因はここにあった。

 『OIG』(このゲーム)、本当に極振りが嫌いと言うかさせる気が無いな。



 これにて王手(チェック)といきたいところだったが、彼はまだ諦めていなかった。


「【エアロボム】!」


 空気が破裂し、爆風が撒き散らされる。

 ゼロ距離での発破。それは槍使いにもダメージを与える自爆攻撃だが、私も吹き飛ばされ間合いが強制的に開かされる。


(にしても、元は魔法使いだったのか)


 杖に似た武器として槍をチョイスしたのなら、中々に良い選択だ。


 受け身をとり、再度距離を詰めようとする。

 間合いが開けられたとは言え、吹き飛ばされたのは少しだけ。すぐに詰められる、はずだった。


 槍での牽制に足が止まる。


 座り込んでの防御体勢は、その低さとつっかえ棒のような槍がこちらの攻撃を阻む。


「……厄介だねえ」


 甘く見ていたつもりはないが、心のどこかで舐めていたのだろう。油断してしまっていた。勝てると踏んでいた。


 ジリジリと円を描くように動く。彼を中心に攻めどころを探す。

 足は壊してある。動きは機敏でなく、座り込んでいては背後が死角になる。


 もちろん、彼もこちらに合わせて向きを変えてくる。それを乱して防御を掻い潜れるか。

 これはそういう戦いだ。

 時間切れで残HP比べになれば私が勝つ。

 しかしそれは、真に勝ったと言えるだろうか。


(勝ち切るよ)


 油断無く。


 ぐるりと一周回りきったところで仕掛ける。


 敢えての正面(・・)


 切り替わった動きについてこれず、構えのブレた槍の穂先を注視して一気に踏み込む。


「……くっ! 【スタブ】!」


 放たれる刺突。

 穂先の軌道を見切る。そこに合わせて盾を出す。


 ──時に、スキルとは重ね掛けが出来るものだ。


「【パワーガード】【シールドバッシュ】【インパクト】」


 呪文のように、スキルを三重で発動する。

 強化された盾が突き出される槍を迎え撃つ。


 衝撃と抵抗、それからわずかな痛みが私の左腕を襲う。肘や肩の関節が悲鳴を上げた。食い縛った歯が軋んだ。

 だが、それによってもたらされた結果は甚大であった。


 打ち合った槍は柄の中ほどから弾け破片が散らばり、持ち主の彼は無理矢理に押し込まれた槍の柄で胸を貫通されていた。




 わずかな間の後、槍使いは消失した。




 ──乱打される銅鑼。18戦目も私の勝利であった。



ご覧いただきありがとうございます。

評価、いいねをいただけると大変励みになりますので、よろしくお願いします。



『ククレケレム』:森の中に住む鳥型モンスター。見た目はオレンジ色のすずめ。ただし体長1m。

足の付け根に魔力から糸を生成する器官を持ち、樹上に獲物を吊り上げて狩りをする。首縊りが名前の由来。

聴覚が鋭敏で、顔の近くで叫ばれると気絶するほど。また、身体がオレンジ色なのは赤い羽毛の上に黄色い粉を被っているからで、痕跡を辿れば発見が容易なため慣れた狩人からは手頃な相手として見られている。


────『イェソド魔物大全』より


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